第十一話 走り出してみる
さて二人の気持ちは伝わるのか・・・
いやいや人生簡単ではないようですね。
翌朝、茜と稜は答えを出さなかった。というのも帰りの車は空も一緒。そんな恋の話にはなれず、その後もいつもの三人のガヤガヤ楽しい共同生活の延長になった。帰りの車内で空はご機嫌に鼻歌を歌っている。後部座席に座りワチャチャワチャチャとノリノリに歌っている。その隣でロッキーがまた鼾をかいて寝ている。ムードも何もない。折角助手席に座った茜もドキドキする間もなく、残念なようなほっとしたような。
そんな時、茜のスマホが鳴る。
♪ルルルルル
「お、あかねぇ黒電話の着信音にしてるの?」
鼻歌が止まって空が突っ込む。
「うん、あ、あおねぇからだ」
受信画面に碧海と出ている。
「なんだろ、また喧嘩したとかかな」
笑いながら出ると、焦った声が聞こえた。
「茜!お父さんまた倒れちゃった!二回目の脳梗塞だからちょっと大変!」
「え?」
茜の声から普通じゃない様子が空にも稜にも伝わる。
電話を切って、三人の車は茜と空の父が運ばれた病院へ向かった。
呼吸が止まりそうになっている助手席の茜の顔を稜は心配そうに何度も見る。
「大丈夫、大丈夫…」
そう囁きながらハンドルから左手を外し、茜の手を握った。うん、うん、と言いながら茜も握り返す。あんなに騒いでいた空も慎重な趣で窓の外を眺めていた。少し覚悟をしたような目をして。
二時間近くかけ急いで着いた病院で、茜の母親が待合の長椅子に碧海と座っている姿を見つけた。空と茜が駆け寄り状況を聞く。
「今ICUに入ってる。意識が戻ればいいんだけど、まだ分からなくて」
深くため息をついて母親は崩れる様に座った。
空が稜に「ありがとう」と言い、ロッキーも居ることだから家に帰って待つことになる。
その夜何も連絡がなく、稜は一人、家で過ごした。
久しぶりの一人の夜だった。シフトで空が居ない事、茜が夜遅くに帰ること、そんなことがあっての一人の夜は何度もあったのに、誰も帰って来るのか分からない夜は久しぶりだった。
「何て寂しいんだ」
そんな気持ちになった自分に気付く。静まり返った部屋で目を閉じた。
♪ルルルル
翌朝早くにスマホが鳴る。
空からの着信だった。
「空、大丈夫か?」
稜は慌てて出る。
「ありがとう、一応意識戻って命の心配はないって」
「良かった」
「うん、言語障害が残りそうだけど、思ってたより大丈夫そう。本当迷惑かけた、ごめん」
「なんで、迷惑だなんて。空もちょっとは休めよ。あ、あかねぇどうしてる?」
「ん、母さんと付いてる。あおねぇ一旦家帰ったから…後で交代すると思う」
「そっか、あかねぇのことよろしくな」
ん?よろしくってなんか俺のものみたいな?いやそんなことないか、ん?なんか、あれ?
稜は寝起きのせいで頭が回らないんだと自分に言い聞かせて電話を切った。
「俺もたまには実家に顔出さないと」
ふと自分の両親のことを考えた。一緒にいる時間は長くも短くも限られている。今日という日は戻らない。
稜は久しぶりに実家に顔を出した。
バスで十五分程のマンションが稜の実家だ。大して遠くない。それでも用事がないのに寄るというのはしたことがなかった。空の実家とは歩いて十分程度。小学校は近くて、二人でよく遊んだのはこの辺りが多い。中学は祖父の家の方が近かったので、子供の頃は実家と祖父の間が、稜と空の子供の中での精一杯の世界だった。見慣れたはずのバスからの景色が妙に懐かしく感じる。
マンションに着きチャイムを押すと母が出て来た。
「やだ~稜、どうした?」
何故だが心配そうな顔で見られる。
「いや別に、顔でも見せようかと思って」
玄関からリビングに入るとソファーで妹の萌がゴロンと横になってこっちを見た。
「うわ、お兄ちゃん!どうしたの?」
二人ともどうしたって異国から急に帰って来たような反応をされて稜は少々困った。
「いや、友達の、ほら、空のお父さんが倒れて、まぁたまには家族の顔も見ておかないとって、思った次第で・・・」
くすくす笑った萌が
「なかなか親孝行の家族思いですな」と偉そうに言った。そしてその勢いでか
「ねぇ!妹思いでもあるよね、お兄ちゃん♪」
何か企んでそうな言い回しである。ちょっと敬遠して稜は言う。
「何だよ、なんかまたねだる気だろ?」
萌の傍の床に座り胡坐をかいた。と同時に視界に振袖のカタログが目に入る。萌は稜の九歳年下なので年が明けて成人の集いがあった。
「え?振袖買えっていうんじゃないよな!」
「まさか、それは流石に言いません。でも…お祝いは下さい」
と両手を出される。そういうことか…仕方ないなと稜はお祝いをする約束をした。
「最近はね、振袖の前撮りって写真撮るんだよ。来週には撮って貰うの。アルバムにしてくれるんだって、こんなの」
と、目の前の振袖のカタログのページをめくり色々見せてくれた。萌は年が離れているので稜にとって可愛い妹だ。
「で、稜、何か話したいことあったんじゃないの?」
母親がお茶を出しながら言った。確かにちょっと聞いてみたい事もあった。
「うん、そうだね。…母さんて思い通りにならなかったこととかあった?」
「そりゃぁあるわよ。ない人なんていないでしょうに」とばかばかしい質問だと笑う。
「だよね。じゃぁその時どうしてたの?」
「諦めるしかないでしょ。でもまぁ、諦めたら違う道も見えてくるし、プラマイゼロってこともあるんじゃない?ん~あんまり考えて生きてこなかったから、あはははは」
母親は常にポジティブな人だった。
「それって帳尻が合うってこと?」
「あぁ~そう言う感じかな。でも、帳尻って死んでみないと分からないじゃない?最後にはっきりするってことでしょ?死んでからじゃ精査出来ないしね、あははは」
「確かに」稜は妙に納得した。
「あんたさ、フラれたりしたんじゃないの?」
「え?何で」ぎょっと稜はした。
萌が咄嗟に口を挟む。
「彼女いたよね、琴美ちゃんだっけ、同じ会社の。別れたの?」と嬉しそうな顔して稜の顔を覗き込んだ。うるせぇ~と顔を背け「まぁ別れたけど」とボソボソ言う。
「うわ、だからそんな帳尻とかそういうこと聞いてきてるの?失恋の痛手かぁ~」
萌は面白がって更に言った。
「でもいい大人なんだから、もう三十歳でしょ」ヨシヨシと稜の肩を撫でる萌に
「まだ二十九だから!」
と稜はちっちゃいことを言ってしまった。
「あ、でももうフラれて大分経つ、別に引きずってるわけじゃない。好きな人ももう居るし」
おぉ~と萌と母は声を揃えた。
「稜、この人と結婚しようとか、幾つで子供をもうけて、出世してなんて計画建てたところで、人生そんな甘くないのよ。ほら、あんたと萌も九つ離れてるの。子供が欲しい時に出来るとは限らない。授かる時にしか授からないの。だから、好きになろうとしても好きだと思える人に出会わないと好きになんかなれない。だったら考えるより気持ちが第一。巡りあわせは大切にしなさい」
やはり人生の先輩であった。和尚の講話を聞いているような、思わず手を合わせてしまいそうになった。
「で、あんた好きな人どんな人よ?ねぇねぇ」
急に芸能リポーターみたいになる母親を、もうそれはまた今度!と誤魔化し、その日は結局父親も揃って夕飯を食べてまたバスを十五分乗って帰った。
茜と空が三人の家に帰ってきたのは、その翌日だった。
「ただいま」
茜が一旦着替えや身支度をして、しばらく実家に戻ることになった。空はコンビニがあるので稜となかなか顔を合わせる機会がない深夜シフトや、早朝シフトですっかり三人はバラバラの生活になった。
季節は冬の空になって来た頃。空達の父も退院できることになり、古川家もようやく一安心となった。もう十二月のことだ。久しぶりに空も茜も揃った夜。
「あぁ~久しぶりだな~こんな夜」
空が伸びをしてソファーに寝ころぶ。
「本当どうなることかと思ったけど」
茜がキッチンの椅子に腰かけテーブルに伏せる。
「うん、おかえり」
稜は安堵して二人を迎えた。
「ねぇ乾杯しよう!」空が呑気に言う。
「快気祝いだね」ふふふと茜も顔を上げた。
「ねぇ稜ちゃん~ビール頂戴~」二人が声を揃えて言う。
「もう、お前らぁ」と仕方ないなぁと冷蔵庫から缶ビールを出した。
久しぶりにこの家に笑う声が響いた。
「でさ、俺、実家に戻ろうと思ってる」
空が唐突に言った。
「何で?」二人が声を揃えた。
「俺、コンビニの仕事好きなんだ。色んな人が来るし、海外旅行先でもコンビニあると便利じゃん。コンビニってすげ~んだよ。ちょっとアレ欲しい、のちょっとがいっぱい詰まってるの。だから、本腰入れて俺親父の後を継ぐことにしようと思う。手伝いじゃなくてさ」
目を輝かせながら空は真面目にそう言った。
「それはお父さんの今回のことがあったから?」
茜は空に問う。
「いや、前から考えてた。うん、いつかは継ごうと思ってたし、今回が関係ないとは言わないけど、いいタイミングかなと思って」
「ちゃんとしてるんだ」
茜が感心して言った。
茜の言葉に空は胸を張る。その姿がおかしくて、でも頼もしくて、茜はふふっと笑った。
その日を境に空は実家に戻り、店の正式な店長として仕事に励んだ。オーナーは父親のままで「まだボケちゃ困るからなぁ」と空はいつも笑って、実家で父親に相談しながら運営していった。
どうにもならない事も、思い通りにならない事も、諦めなきゃならない事も、世の中いっぱいあるけど、やろうとしなけりゃ次の始まりはない。空は始めようとしていた。
そして空がいなくなって正式に二人生活、二人きりになった茜と稜はやっぱりぎこちないままだった。熱海での後、あれやこれやで二人の気持ちに触れることがなく時間が過ぎていたから仕方がない。
とは言え、お風呂上りにすっぴんで稜と顔を遭わすのが恥ずかしく感じる茜がいたり、リビングのソファーで寝落ちしている稜の寝顔を可愛らしく思う茜がいた。今までそれが普通で気にも留めなかったことが、引っかかるし
「あぁ、何かしんどい」茜はそんな自分に苛立ちを覚えた。
『空、空気清浄に来て』
茜は居たたまれなく空にLINEをする。
♪ルルルルル
「何?」
直ぐに空から返信の電話が鳴った。
「そらぁ~二人きりだとなんか居づらい・・・」
「何子供みたいなこと言ってんの?居なよ。って俺の家じゃないんだけど、元々、ハハハハ!」
「だって・・・」
「自分の気持ちに正直になれば楽になるから、ハハハッ」
おっしゃる通りだった。
「空は実家住まい嫌じゃないの?」
「全然」
世の中、実家住まい独身は駄目人間みたいに言われがち。もしかしたら空もずっと独身かもしれない。
「俺は人の数だけ、暮らし方があると思ってるから、一般的とか普通はとか気にしないよ。実家住まいでも生計は自分でちゃんと立ててる人も世の中いっぱいいる。親の面倒見て一人暮らしより苦労してる人もいるし、立派だと思うよ、逆に。おかしくない?こうでなければっていう見方」
これまたおっしゃる通りだ。私は何に捕らわれているんだか…と茜は考えた。
空が実家に帰って、稜は朝のロッキーとの散歩に加え、仕事から帰宅後ランニングを始めた。稜も実は茜と二人きりになるとドギマギしてしまうので何となく家にいる時間を減らしたりしている。ランニングは自分の為でもあるのだが。
「ただいま」
ランニングから帰った稜は口から白い息を吐きながら玄関を開ける。
まだコンビニのバイトをしている茜がこの日はもう帰ってキッチンにいた。
「おかえり~おでんあるけど食べる?」
鍋に確実に二人分という量のおでんがあった。
「うん、食べる。あかねぇおでん好きだね」くすっと笑う稜に
「稜君の好きな大根と餅巾着、ちゃんと入れてあるから」と茜もニコッと笑う。
具材を選ぶときにしっかり稜の好物をと考えていたのは言うまでもない。
「ありがとう」稜はそういう茜の気持ちも分かっていた。
「あかねぇ、これ食べる?」
手に持っていたのは紙に包まれた塊。
「何?」
「これ見つけたらあかねぇ思い出して買っちゃった」
またくすっと笑って稜は包を開ける。中には熱々の焼き芋があった。
「何で?これで私思い出すの」目を真ん丸にして笑う茜に熱々の焼き芋をあちいあちいと言いながら半分に割って、湯気が立つそれをふうふうと冷ましながら「はい」と口元に持って行く。え?と一瞬躊躇うも、そのままかぶりつき、ウホウホと口の中の熱くて甘いほわほわな芋を茜は頬張った。
「おひしひ~」熱くておいしいが上手く言葉にならないので二人で大笑いをする。
すると急に稜が茜にふたつ話したいことがあると言う。稜もそろそろはっきりさせないと、という思いが募っていた。
「ランニングしてたら焼き芋のトラック見つけて、あかねぇと一緒に芋掘りしたの思い出して買ったんだ」
「それで私と焼き芋なの、変なの~」
「俺に取ったら二人の思い出なんだよね。それってあかねぇのこと一番頭の中にあるんじゃないかって自分で気づいて。それにそう言う思い出、この先も増えたらいいな、増やしたいなって。これってあかねぇのことすっげぇ好きだって、思わない?」
急な質問に目を丸くする茜。
「思わない?て何で疑問形なのよ!」
「ごめんごめん、ん~だから俺あかねぇのこと好きなんだよ」
少し沈黙が続く。やべぇなんか言い方間違ったかな…稜はちょっと自信を無くしかけた。
「うん、ありがと」
その言葉にホッとする。
「あかねぇは?」
「え?私?聞くの?もうひとつの話聞いてから」
「え~、ん~じゃ、もう一つの話は、森野君の中学生の陸上のコーチ、週一だけボランティアですることにした」
「そうなの!走る気になった?」茜は目をキラキラさせている。
「いや~選手で走る気は流石にもうないから、俺が走るのが好きだったように、陸上が好きな子達に教えられることがあれば協力しようと思って」
「いいじゃん」
「会社は辞めない、途中で逃げ出すのは嫌だから、広報として陸上部を盛り上げる様に、俺SNSの担当になったんだ。動画とか出すから、俺バズらすから」
ドヤ顔で稜はやる気満々の様子だった。稜は気付いた。空は思い通りにならないことを諦めたんじゃなく、そしたら次の道へ一歩進んで行こうとしているから、自分と茜とは違った。三人とも似たもの同志ではなくて、空以外は思い通りにならなくて諦めていただけだったんじゃないかって。
「だから、あかねぇは?好き?俺のこと」
真顔で聞かれてちょっと恥ずかしい茜は自分もおでんを買う時に稜を思い浮かべたことを白状する。
「好きなんだよね、私も」
「やっぱり!」
「そ、それと、例の関西弁のおじさんの工務店の話、濱田さんていうんだけど、バタバタしてて面接出来てなかったけどこの前やっと面接して貰って、一月から臨時雇用で仕事させてもらうことになった」
茜も一歩踏み出すことになる。
グツグツ火にかけたおでんの鍋が噴きそうになった。
「あぁ!」
慌てて火を止めた茜を後ろから抱きしめる稜。
「おでんと芋掘り以外の思い出も作ろうね」
そう言いながら茜が振り向き、二人の思いが重なった。
その夜、稜の部屋のベッドで寄り添いながら天窓の外の星空を見上げる二人。冬の星座はよく見え、澄んでいた。
「ねぇ私たちいつから出会ってたんだっけ」
茜が稜の顔を見つめて言う。
「うん、こんな小さい時から」と床から三十センチくらいを手で表す。
「小さ過ぎ~」とケラケラ笑い、二人の思い出話をした。
出会った頃、小学生の稜と中学生の茜が、こうして今肩を寄せ合い手を繋ぎ一緒にいるのが不思議だった。会わない間に、互いが色んな事に傷ついて、挫折して、でも前を向こうと違う道を走ろうとしたからまたこうして巡り合ったのかもしれない。
「稜君、小さくて丸かったよね」
「え~そうかぁ?ぽっちゃりだよ」
「あかねぇはクールそうで最初怖かった」
「本当?」
「真面目そうで、こう眼鏡もしてて」と両手で丸を作り眼鏡のジェスチャーを稜がする。
ふふふ、と稜は微笑みながら続ける。
「でもこんな綺麗で大人になってて最初びっくりした」
「あら」恥ずかしそうにうつむく茜。
「そんなどん底経験をしてても、」という稜に
「こら~どん底っていうな~」と笑って稜の口を覆う茜。
「いや、どん底だよ、マザコン野郎も会社の倒産も。でもあかねぇ強くてカッコよかった。コンビニで笑顔で。あ、だんだん笑顔で、頑張ってて」
「そう?…私も稜君がこんなに背が高くて最初ビックリした」
「イケメンだし?」
「ふふっ自分で言う?」
窓の外の星たちもいつまでイチャイチャ続くんだ?と思うほど、二人は二人を褒め合い続ける。
「稜君、陸上は好きなの?」
「うん、好きだよ。選手っていうのはどんどん入れ替わっていくから厳しいけど、やっぱりずっと走っていたいと思ってる」
「うん、良かった」
人生もそうなのだ。たまに歩くこともあれど、走り続けるしかない。途中で起こるアクシデントも予想は出来ないし、受けて立つ、そしてどうにもならなければ違う道を走ってもいい。
「俺、陸上も好きだけど、茜はもっと好きだよ」
稜は茜の肩を抱き寄せ耳元でそう言った。
茜…初めてそう愛情をもって呼ばれた名前を、茜はグッとかみしめた。
時は誰にも平等で、また年が明ける。
そして新年からコンビニは開いている。空は普段と変わらず店に居た。お正月で浮だつ人や、夜勤明けの看護師や色んな人がコンビニを出入りする。新年を寝正月や遊びで迎えるのが普通ではない。働く人がいるから私達がのんびり出来ることもある。誰かが誰かのために、誰かが誰かを想い時は流れていくのかもしれない。
一月二日。
「一緒に見ようって言ってたのに~」
唇を尖らせた茜が出かける支度をする稜を見上げて言う。
「ごめん、森野君の生徒の沿道の応援の引率、コーチだししょうがないじゃん、ね」と尖らせた茜の唇を稜は小鳥のようにチュンとした。
「明日復路は一緒に見れるから、今日は許して」そう言って玄関でシューズを履く。
「絶対だよ、明日は一緒だよ」
うん、と言いながらシューズの紐を結び終え
「じゃぁ行ってきます」と立ち上がり
「はい!いってらっしゃい!」
と茜は送り出した。
晴れた新年の朝は、少し冷たい空気と新しい太陽の日差しでとても清らかだった。
軽やかに走って行く稜の背中を、いってらっしゃいと暫く見送り、茜は今がとても幸せだと感じていた。
稜が不意に振り向いて三日月の目でクシャクシャっと笑い言う。
「茜!行ってきます!」
茜ももう一度、稜にとって世界一可愛いと思う笑顔と一緒に
「行ってらっしゃい!」
と大きな声で言った。
ん?帳尻、これで合うっていうのかな?
ううん、まだまだこれから人生山あり谷あり、走り続けて見ないと分からない。
帳尻はきっとその先…。それでもいい。
「行ってらっしゃい」と送り出せるのは送り出すあなたがいるから。
一人じゃ言えないけど、二人でいるから、「行ってらっしゃい」と言える幸せを茜も稜も今は分かる。
さあ、これからが二人物語のはじまりだ。
お読みいただきありがとうございました。
何とか稜と茜の気持ちに答えが出ました。
が、まだまだこの先も二人の生活は続いて行くはずです。
箱根駅伝で言えば、往路が終わった感じかな。
と言うことで、この先も物語は続きます。
続編投稿の際は、またよろしくお願いします。
暫し充電…また復路で(^^)/~~~




