みんなの思い
人々は夢想する。自分が死んだら、どうなるだろう。
答えの出ない葛藤を繰り返して、ある者は答えを出すことを諦め、またある者は葛藤しながら生きていく。
人々の葛藤は決して交わらない。
自分の中の葛藤を他人のものと比較できない。
人々はすれ違う。曖昧に誰かの葛藤を理解して、傷付けることもある。
それでも、生きていく。
いつか分かり合えると信じて。
ソウは、やはりランのことを忘れることはできないと思っていた。
それは依存なんじゃないか。ランが本当に望んでいることは何だ。
答えの出ない葛藤を繰り返して、それでも忘れられないと思っていた。
ケイは、前に進む決心をつけていた。
夢であろうランの言葉を信じて、自分の意志に反するにもかかわらず。
忘れられないでいようとするソウを羨望しながら、それでも前に進もうとしていた。
「話す時間、あるかな?」
ケイはソウに尋ねた。いろいろなことを話す決心がついたからだ。
「うん」
ソウも応じた。言わなければいけないことがあったから。
「今になってなんだよって思うかもしれないけど、俺がランと付き合うようになってさ、ソウには悪いことしたって思ってたんだ」
自分のしたことをちゃんと謝ろう。ケイはそう思っていた。
「僕も、あの時は勝手にいじけて距離取ってごめん。今までと何も変わってなかったって、分かってたのに」
先に謝られたことにケイは驚いた。そして、申し訳なくなった。
「あの時、もっとちゃんと考えておけばよかったって思ったんだ。思った時は、もう遅かったけど。ランに、負担かけちゃったからさ」
「なんか、このまま言い合っててもキリがなさそうだね」
ソウは小さく笑った。
「あはは、でも、少し楽になった」
ケイは、まだ自分の中に確かにランの存在があることを感じていた。なんとなく、それが嬉しかった。
「あのさ、今更こんなこと言うのもどうかと思うんだけどさ…僕も、ランのこと好きだったんだ。恋愛対象としてかどうかは分からないけど」
ソウは恥ずかしそうに言った。
「やっぱり…?なんとなくそんな感じしてたよ」
「バレてたの?てゆーか、知ってて告白したの?ぬけがけじゃん」
あぁ、これでやっと今までみたいに戻れるんだ。互いにそう感じていた。
「だから悪いことしたって思ってたって言ったじゃん」
「二人一緒に言ってたらどうなったか分かんなかったのに」
「そしたらランは二人ともと付き合うって言うんじゃない?」
「あぁ、言いそう言いそう」
こうやってランのことを笑いながら話せる日が来るなんて、二人とも思っていなかった。
でも、それは二人にとって、ふっきれたとかそういう類のものではなかった。
まだランがいる気がして、三人で話しているような、そんな感覚だった。
昔にとらわれているとかじゃなくて、でも、なんて言っていいか分からない。
そんなことはどうでもいいんだ。
こうして話せることを、ランも望んでいたはずだ。
二人は同じ結論に至っていた。
みんな同じことを、ランのしあわせを望んでいるんだ。
「うーん、急にこんな話しだすと頭おかしいって思われるかもしれないけどさ」
ケイはランに言われたように、ソウに謝ろうと思っていた。
「何?」
「ランが死んで二週間くらいした頃かな。ランと話したんだ」
まじめに話すと恥ずかしくなってくるな。そう思ったが、今更引き返せなさそうだった。
「夢で、ってこと?」
「じゃなきゃ幽霊ってことになっちゃうなぁ。内容はまぁ、強要しても悪いから言わないけど、話せるのはケイだけだからソウに謝っといてって」
「なにそれ、ただの自慢じゃん」
ソウは呆れたように笑った。
「だから夢だと思うけどさ、でも、ランはさ、ケイも、ソウも、大好きだったよ。って言ってた」
言ってから一瞬の沈黙。
自分の中でそれが夢かどうかの判断をしたあと、やっぱり答えは出さないでおこう、とケイは思った。
「そっか、なんか、ランらしいね」
「うん」
「そうだ、僕も同じような経験したよ―――」
ソウは静かに感じていた。
あぁ、あの声はランだったんだ。