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ソウの気持ち 3


体が軽くなった感じがした。

気のせいじゃない。足が地面につく感覚がほとんどしない。

前に行きたい、そう願えば体は前に進む。壁さえすり抜けて。

これが、死んだことになるということなのか。多分幽体離脱の感覚に似てる。自分の本体は無いのだけれど。

とにかく、僕は死んだことになってしまった。本当に。

夢だと思っていた。いや、多分これも夢の一部なんだろうけど、好奇心だけですごく理不尽なことをしてしまった。

後悔よりも、周りがどうなっているか気になって、僕は急いで家を飛び出した。


「ここは君が死んだ二日後の世界。原因は事故死ってことになってるよ」

声が聞こえた。ますますランと同じような状態なんだと思った。

学校はほとんどいつもと変わらない。僕は知り合いが多い方じゃないし、目立つ方でもないから仕方の無いことだけど。

僕は自分の教室へ急いだ。校門とはまるで違う重苦しい空気が漂っていた。まだ、ケイはいない。

「まだ半年しか経ってないのに、ケイ、つらいよな」

言っていいかどうか確かめながらゆっくりと一人が言った。

「せっかく、ふっきれたみたいだったのにね。今日も休んじゃうのかな」

みんなはケイの心配をしている。少し嫉妬している自分の小ささに嫌気が差す。

「はーい、みんな席に着いて」

先生が少し暗い顔で入ってきた。

「今日も、瀬尾は休みだってさっき連絡がありました」

先生の言葉に教室の空気が更に重くなる。

ランが死んだ時、僕は学校を何日か休んだ。その時、ケイは学校に出ていた。

僕はそれがすごく不思議だった。そして、今回ケイは休んでいる。だから余計に不思議に思う。

僕はケイの家へ急いだ。


「まだ夢だなんて思ってる?」

声が聞いてきた。僕の考えは筒抜けになっている。

「分からない、けど、後悔してる」

こんなにリアルだなんて思わなかった。こんなに自分を責めたくなるなんて。

「なんで?望み通り君は死んだことになったじゃん」

「僕は本当に望んでたのか分からないんだ。こんなつらい思いをするなんて思わなかった」

「じゃあ、もうやめる?」

僕は一瞬ドキッとした。それは予想外の返答だった。僕はただ慰めてほしくて言ったのだから。

「…いやだ」

後悔よりも、気になった。ケイが、今どうなっているのか。ケイの本心が。考えていることが。



ケイの家の前に来たとき、僕はためらいを感じた。

好奇心なんかのために見ていいものだろうか。こんな理不尽なことをしていいのだろうか。

ためらいは感じているはずなのに、体は前に進んだ。

ケイの家に体が入り込んでいく。部屋に、着く。

暗い部屋でケイは泣いていた。ランが死んだ時は涙なんて見せなかったのに。

「なんで、なんでこんなことになるんだよ…」

ケイのつらそうな声が、痛い。罪悪感が重い。

今の理不尽な立場を望んだ自分が、醜く思えてくる。

「君のいない世界はどう?」

声は僕の気持ちなんて知らないで聞いてくる。

「…つらい」

ランもどこかで見ていたとしたら、こんな気持ちだったのかな。

「そうだよね。みんなつらいよね」

声の言葉に僕は少し驚いた。今まで幼稚だと思っていたせいだ。

「どこかで見てるなら言ってくれよ。ずっと覚えててほしいとか、早く忘れてほしいとか、言ってくれよ…どうすればいいんだよ…」

ケイの言葉で僕はやっと理解した。

みんな同じことを望んでるんだよ。

僕はランのことを覚えていることで、ランのためになるんだって信じていた。それ以外を考えようともしなかった。

ケイは、引きずってランに心配をかけないように、忘れようとしていたんだ。

みんな、ランのために。なのに僕は、気付かなくて、いろんな人を傷付けてしまった。

駒野さんには、ちゃんと謝らなくちゃ。ケイにも、ちゃんと。

「そろそろ戻る?」

声が尋ねてきた。僕は答えなかったが、意識が遠くなっていった。



目を覚ますとやはりソファで寝ていた。

夢、だったんだ。ただの。すごく、リアルだったけど。

実際に僕が死んだ時に、あんな風になるかは分かんない。

でも、ケイはきっとつらい。ランが死んだ時も、すごくつらかったんだ。

涙も見せないで、大切なものも手放して、ひたすら前に進もうとしたんだ。

他のみんなも、ケイのそういう考えを感じたから、何事も無かったかのように接し始めてる。

でも、僕は。

僕は、ランを忘れないように必死だ。顔も声も仕草も、全部。

どっちが正しいなんて、分かんないし、多分、正解はないけど、僕には忘れるなんてできない。

どこかで僕は、忘れちゃだめだって思い続けてる。それは依存かもしれないけど。

きっとケイも本当に忘れることはないんだと思う。

ケイにとってランの存在はこれから代わりが現れてくれるような簡単なものじゃなかった。

それはずっと変わらない。

だから、ケイもああやって振舞っていても、ずっとランのことを覚えているんだ。

僕は、すごく子供だったな。

駄々こねてるみたいに、ふてくされたり、みんなに迷惑かけたりしてしまった。

僕はランをずっと忘れない。

ランが心配しないように、ちゃんと前を向いて。


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