表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

ソウの気持ち 2


「じゃあさ、君の存在を消してあげようか?」

僕の耳にその声は確かに届いた。違和感もなくするりと入り込んだ。

「そしたら、どうなるの?」

僕はどことも分からない声の主へ聞き返した。

「分からない。けど、君がいない世界になるよ」

声は答えてくれた。僕のいない世界。想像できなくもない。

「僕はどうなるの?」

僕がいない世界で、僕はどうなってしまうのだろう。

「空気みたいに見えなくなるよ。死んだことになるんだ」

ランと、同じ状態。僕はすごく惹かれた。

「考えといてよ。じゃあ、またね」

声がすぐに聞こえた。僕は慌てて追ったが、声は返ってこなかった。


目を開けると、僕はソファーに寝転んでいた。

夢だった?当たり前だ。そんな都合のいいことできるわけがない。

ランはもう帰ってこない。死んでしまったんだから。

死んだことになるってことは、僕は生きてるってことじゃないか。

生きながら自分のいない世界を見るなんて、ふざけてる。不条理だよ。



「ランのことさ、忘れるの?」

ケイはうつむいたまま返事をしなかった。

「それじゃあランが可哀想じゃん。ランの気持ちも考えてやりなよ」

「俺だってちゃんと考えたんだよ!」

ケイはいきなり怒鳴った。でも、僕には怒りのほうが驚きよりも強かった。

「大事なブレスレット捨てて、さっさと新しい彼女作って、どこがちゃんと考えたんだよ!」

気付いたら、僕も怒鳴り返していた。

「いつまでも引きずってられないんだよ!俺らは前に進まなきゃいけないんだよ!」

「分かんないんだよ!ケイのそんな態度が!」

ケンカになる。なんて思ったのはもう遅くて、でも、殴り合いもせずに互いに傷つきあって、その場は終わった。

ケイもケイなりに、ランのことを考えているんだと思う。だけど、それは僕には多分理解できない。

そして、僕の考え方も、多分理解されない。


「泉君、ちょっといい?」

駒野さんに呼び止められた。喋るのは初めてだ。

「うん、何?」

僕はケイの新しい彼女としてしかこの人を見てなかったから、あまりいいイメージは持っていなかった。

「怒鳴り声、聞こえたんだ。蘭ちゃんのことだったよね?」

聞かれてたんだ。僕は少し申し訳なくなった。

「うん…」

僕は責められている気がしていた。この人がケイの肩を持つのなんて当たり前なんだけど。

「瀬尾君のこと、悪く言わないでほしいんだ」

やっぱりだ。

「うん、ごめん」

僕の声に心がこもっているかなんて、構いもしない。それくらい僕はひねくれていた。

「ごめんね、引き止めちゃって。でも、みんな、蘭ちゃんのこと考えてるんだよ」

最後の一言は、僕の中の何かを切った。

「駒野さんはどうなの?ランのことちゃんと考えてそんなことやってるの?」

「私は、二人にケンカしてほしくなくて…」

駒野さんの戸惑った表情は一瞬僕の罪悪感に触れた。ただ、すぐにそれも無くなった。

「そうじゃない。まだ半年も経ってなかったのに付き合い始めたことを言ってるんだよ。悪いとか思わないの?」

僕の冷たい言葉に、駒野さんは目に見えて傷ついた。僕の中の罪悪感は、ようやくはたらき始めた。

「ごめん…私は、瀬尾君のことしか考えてなくて…」

駒野さんの声が震えだした。そう思った時には多分もう遅かった。

「ごめん、ついカッとなっちゃって…八つ当たりしちゃうなんて、ほんと、ごめん…」

僕は精一杯謝った。けど無駄だった。

「謝らなくていいよ、私が悪いから…ごめんなさい…」

駒野さんは小さく会釈して、逃げるように去っていった。

僕の中の罪悪感はますます強くなって、ついには僕を深く苛んだ。

ランのことをちゃんと考えたつもりだった。僕は、間違っていたのか?


「ソウ、駒野に何した?」

ケイの口調はとげとげしくて、僕はみるみる弱くなった。

「カッとなって、つい怒鳴っちゃったんだ。ほんとごめん…」

「駒野はなるべくランのことに関わらせたくないんだ。だから、頼むよ」

最初とは違う少し落ち着いた口調だった。僕は少し救われた。

「うん、ごめん」

「いいよ、今日、怒鳴ってごめんな」

「こっちこそ、ごめん」

僕は謝れたことで救われた。僕のしたことへの報いが少しでもできたから。

「考え方は違っても、みんな同じことを望んでるんだよ。じゃあ、またな」

僕はケイの言ったことの意味がよく分からなくて、バイバイしか言えなかった。

ケイはまだ少し傷ついた駒野さんと帰っていった。僕の中の罪悪感はまだ消えそうにない。

同じことを望んでる、その意味は、まだ分からない。


「考えはまとまった?」

声がまた聞こえた。

「僕は、また生き返ってしまうの?」

「そうだね。多分そうなるよ。安心してよ。君がいなくなった時のみんなの記憶はちゃんと消えるから」

聞けば聞くほど都合のいい話だ。それにこれは夢だとも分かっている。

「僕がいない世界、見てみたい」

単純に好奇心だった。夢だから、そう思ったから。

「分かった。君がいない世界。しっかり見てきなよ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ