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タイトル未定2025/01/15 20:40

作者: 桂落下

思い付きで書いてみました



『日本が戦場になった時』


それは極々普通な、当たり前の日常の中で起きた。

それまで昼休み中の人々が、何が映っているのかあまり気にせずに、昼飯をかき込みながら食堂の一角ではテレビで昼の報道バラエティー番組が流れていた。


「続いての話題は!今!北半島が熱い!!

数年前に黄国こうこくと北半島国の間に開通した地下トンネルで、両国間の交流が加速しています!!

黄国こうこくから大量の観光客や物資が北半島国へ流れ、空前絶後のバブル状態となっています!!

市場には豊かに物が並べられ、かつては闇市の方が豊かだったと言われたのが噓のように、今、北半島国では、人々が急速に豊かになりつつあります!

北半島国からも、黄国こうこくや南半島国、日本や海外へ旅行へ出る人も沢山います!


では、そんな熱い北半島国の現場から、斎藤さんにリポートしてもらいましょう!

斎藤さんっ!!」


「はーい!こちら北半島国の首都、北都ですっ!

ご覧ください!人人人ですよ!!

大通りにも大勢の人が買い物やレジャーを楽しむ姿があります!!

かつて貧しかったのが嘘みたいに、夜も町中が人と明かりであふれています!

この地から、グルメリポートを番組をご覧の皆様にお送りしたいと思いまーす!!」


斎藤と呼ばれた、若い女性のリポーターが、興奮した様子で、北都の様子を伝える。

が、多くが無関心で若い女性の声に反応したのか画面をちらっと見るか、飯をかっ込んでいる時だった。


「臨時ニュースをお伝えします!たった今国会議事堂、防衛省などの各省、都庁、警視庁、警察庁などの各庁舎、及び、霞が関一帯が所属不明の軍隊によって一斉に占拠されたとの報せが入りました!

繰り返します!たった今国会議事堂、都庁、防衛省などの各省、警視庁、警察庁などの各庁舎、及び、霞が関一帯が所属不明の軍隊によって一斉に選挙されたとの報せが入りました!


第一報を伝えた現地からはその後連絡が途絶えております!


・・・あ、え、はいっ! 


続報です!東京都周辺にある自衛隊駐屯地も同時攻撃により無力されたとの報せが入りました!一体何が起こっているのでしょうか!非常事態です!国民の皆さんは、慌てないで、冷静に行動してください!近くに軍隊のようなものを見かけたら、下手に抵抗せず、両手を高く上げて、降伏の姿勢を取ってください!必ず!必ず助けは来るはずです!!


え。なんですかっ!?貴方たちは!!

今、今放送中ですよ・・・・え?」



『ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ』


突然番組が中断され、緊張した表情のアナウンサーが急報を告げたと思うと、呆然と画面を見つめる視聴者を置いてけぼりにして、番組が中断した時に流されるピー音が、カラー画面と共に現れた。


1分ほどのピー音の後に、オールバックに髪を固めた。見たことの無いアナウンサーが、予め録画されていたと思われる放送を流して来た。


「国民の皆さん。驚かないでください。私たちは、秩序の回復のために動いています。国民の皆さんは、治安当局の指示に従って、秩序ある行動を心がけてください。


日本国内で、治安を乱す反乱が計画されていました。政府はこれを鎮圧するために、同盟国からの援軍と協力して、鎮圧しています。各地に敵国からのスパイが居ます。怪しい人や行動を見かけたら、治安当局へ通報してください。手柄のあると認められる通報には、報奨金をお支払いします。誤報は処罰の対象にはなりませんが、悪質だと判断されると、刑事罰の対象になることもあります。通報は気を付けて行ってください。


尚、先ほど日本と米国との同盟は破棄されました。今回の反乱の首謀者たちは、米帝に協力して、日本を再び米帝の占領下にさせようと企てていたからです。


今後は、麗しく、良き隣人であり、日本と歴史的に長い国交のある黄国こうこくが、米帝以上の力強き同盟国となり、一路一帯参加国として、日本を優遇し、更なる発展と、共存共栄を齎すでしょう。


国民の皆さんは、落ち着いて、通常通りの生活を続けてください。


何も変わりません。黄国こうこく政府は国民の皆さんの幸福を願っています。


各地にある自衛隊基地は、速やかに武装解除をして、治安維持部隊の指揮下に入ってください。警察は、街の治安を維持しつつ、上官が派遣されるので、上官の命令に従ってください。暴動や集会を当面の間禁止とします。見かけた人は通報してください。


繰り返します、国民の皆さん・・・」


あまりにも、突然で、あまりにも一方的すぎる報道に、多くの日本国民が困惑した。


「何が起こったんだっ!?」

「一体どうしたんだっ!?」

「誰かっ!誰か分かるやついないのか!!」


ポマードで髪をすべて固めた見覚えのないアナウンサーは、まるでロボットのように、感情を一切込めずに、用意された原稿から目も離さず、一言一句正確になぞる様に繰り返すだけだった。





黄国こうこく軍がとった作戦名は、皮肉にも日本でも良く知られた童話からの命名らしく『三枚の札作戦』と呼ばれた。


元の童話は、寺の小僧が山で山姥と呼ばれる老婆の姿をした人食い鬼に遭遇し、僧侶からもらった三枚の札を使い、寺まで逃げるという内容だ。


黄国こうこく三軍総本部に勤務する李張劉リ・チョウリュウは、周囲からやる気の無い、給料泥棒だと陰口を言われながらも、何故か左遷もされず、しぶとく中央参謀本部の第十五席という、それなりに権力と影響力を持つ地位に就いていた。


彼が今回の日本国奪還作戦の根幹を企画・立案した命名者だと言われる。




一枚目の札 ドローン大軍による奇襲作戦


冬の寒さが去った日本海側の空は快晴で、陸地からは遠く沖の方まで見渡せる程に晴れ渡っていた。


その日、一番最初に異変に気が付いた民間人は、いつものように沖へ漁に出ていた佐藤茂吉だった。


「なんだぁ~ありゃぁ・・・」


普段であれば、沖へ舟を出した自分と同様に、仲間の釣り舟や漁をする船が何隻か周囲に居るのだが、この日は何故か茂吉の小舟一隻だけだった。


茂吉の視線の先には、呆れるほどの大量のドローンが雲霞の如く押し寄せてきたのだ。その視線遥か彼方には、黄国こうこく籍と思われる大型の艦船が複数おり、どうやら、その大型艦船から大量のドローンを射出しているらしかった。


「あいつら一体何やってやがんだぁ!?

なんかヤベぇな! 

おい!すぐ海上保安庁へ連絡だ!!

安!安ぅ!!」


「なんだぁ?おやじ?」


茂吉の呼びかけに、安と呼ばれた50歳くらいの中年男性が返事をする。


「あれ!あれ見てみろ!!」


茂吉の指さす先には、雲霞の如きドローンの大軍があった。

飛行速度も速いらしく、先ほどまで点にしか見えなかったドローンが、しっかりと形状が判別できるまで近づいていた。


「なんだぁ!?こりゃぁ!!」

「な!大変だろっ!!今すぐ保安庁へ連絡しろ!!

巡視船・・なんかじゃぁダメかもしんねぇけど、ダメなら自衛隊だって前に出てくれんべぇっ!!」


慌てて無線機へ向かう息子の後姿を一瞬だけ見送ると、茂吉は空を埋め尽くすように飛び交うドローンの大軍を見上げてため息をついた。



舞鶴地方隊第三護衛艦隊に所属する護衛艦『DDあきつかぜ』が黄国こうこく艦隊と接触したのは、茂吉たちがドローンの大軍を目撃する数時間前だった。


繰り返しによる警告を無視して、黄国こうこく艦隊が公海上から、排他的経済水域と呼ばれる日本の領海へ堂々と越境して侵入してきたのだ。本部への応援要請と同時に、一番大きな旗艦と思われる艦船へ向けて、あらゆる周波数と、英語、中国語、日本語、韓国語、フランス語など、主だった数か国語で呼びかけもした。


だが、相手艦船からは一切の返答は無く、まるで『あきつかぜ』を無視するように進路を真っすぐ日本へ向けているままだった。


「艦長!このままでは!我が艦へもぶつかります!!

衝突不可避なコースです!!」


「なんだと!黄国こうこくさん頭に血でも昇っちまったか!?

避けろ避けろ!下手に体当たりでもされたら、始末書だけじゃ済まなくなるかもしれん!!こっちは国際問題になんかさせちゃまずいんだ!!」


ベテラン艦長の佐々木一はじめ二佐は航海長へ怒鳴るように回避命令を発した。


「取り舵いっぱーい!」

「了!取り舵いっぱーい!!」


航海長の声に操舵担当の三等海尉が応じる。


だが、回避行動をとる『あきつかぜ』のCICと呼ばれる戦闘指揮所全体が一瞬で赤色灯で塗りつぶされ、警告音が耳障りな警報音を繰り返す。


「艦長!やつら撃ってきました!!」

「状況!SSMっ!!艦対艦十発です!!」

「即応!弾幕張れっ!!

全て叩き落せっ!回避行動っ!!

総員っ!耐衝撃っ!」


矢継ぎ早に出される指示と同時並行で、こちらへ撃ち込まれる艦対艦ミサイルへ近接防御火器システム(CIWS)とチャフと呼ばれる目くらましがばら撒かれる。


「第一波!全撃墜っ!!第二波来ます!数五十!!」

「艦長っ!下からも魚雷来ます!数二十!!」

「くそっ!飽和攻撃かっ!!」


黄国こうこく艦船からの第二派は、単艦で巡回していた『DDあきつかぜ』の対空能力と魚雷戦能力を上回るものだった。


「自動操縦へ切り替えろっ!退魚雷操舵!総員っ!退艦っ!!」

「了っ!間に合いません!!」

「出られる者だけでも構わんっ!一人でも生き延びれる隊員がいるならそれでも構わんから退艦しろっ!!」

「了っ!総員っ!退艦っ!一人でも多く生き延びろっ!!そして俺たちの無念を伝えてくれっ!」

「こちら舞鶴地方隊第三護衛艦隊所属『DDあきつかぜ』!黄国こうこく艦船による飽和攻撃により回避不能っ!総員退艦するっ!要救護!要救護だっ!!」


CICに居る者たちは、船の中央窓も無い場所にいるため、どうしても退避が遅れがちとなる。艦長以下隊員たちが退艦しようとした時には、既に黄国こうこく側が放った艦対艦ミサイルが数本命中した後だった。


それでも自動操縦による回避行動とファランクスと呼ばれる近接防御火器システムが半数以上を叩き落したお陰で、一部の艦底近くに取り残された者たちを除く乗員の大多数が脱出に成功した。


「こちらは黄国こうこく海軍、鯨海方面軍隷下部隊の趙王亮大佐だ。君たちは包囲されている。速やかに投降したまえ。悪いようにはしない。」


救命ボートで海上を漂う佐々木艦長らに、黄国こうこく艦船から投降の呼びかけがあったのは、そのすぐ直後だった。


実は、同様のことがほぼ同時で日本海側で警備行動を取っていた護衛艦と海上保安庁の巡視船で行われており、海上自衛隊が自体を把握し、対処しようとした頃には、黄国こうこくの大艦隊が日本海側の沿岸近くまで迫った頃だった。


同時並行での、複数個所へのドローンによる波状攻撃はこうして始まった。



佐藤茂吉親子が大量の黄国こうこく艦船と雲霞の如きドローンを眺める中で、事態は目まぐるしく変化した。


「おやじ!アレ!」

「あんだぁ!?」


空を覆いつくす勢いで沿岸へ近づいていたドローン部隊が、音もなく突然落下して、そのまま海へ次々と吸い込まれるように沈んでゆくのだ。


「一体何がぁ!?」


陸上では、水際に展開中の陸上自衛隊山口駐屯地隷下の第17普通科連隊が海岸線を埋めるように展開していた。各員が対空兵装を構えており、あらゆる銃火器を使用して、雲霞の如く押し寄せるドローン部隊を次から次へと沈めている。

陸自が所有する攻撃型ヘリコプターも展開しており、一撃でドローンを複数機ずつ蹴散らしていた。



だが、所々練度が低いのか、人手が足りていないと思われる対空射撃の隙間を縫うようにして、ドローンが防御線の後方へ向かって突撃し、自爆による攻撃を加えている箇所も見受けられた。


せっかく自衛隊員が苦心して築き上げた防御射線も、目を向けていない後方や真横からの自爆攻撃では防ぎきれないらしく、所々防御線に穴が開く。そこへ更なるドローンが送り込まれと、多数の負傷者を出しながらも一進一退の攻防戦となっていた。陸自が保有する攻撃ヘリも何機かがドローンによる襲撃により、墜落した機や破損により戦闘継続が不可能となり帰投しなくてはならなくなったものなど被害も少なくはなかった。


やがて上空からも航空自衛隊機による援護射撃が入り、やがて、雲霞の如く押し寄せていた飽和攻撃のためのドローン部隊はすっかり駆除されたようだ。


「やったかっ!?」

「おやじ!ソレだめだぁ!フラグ立てんなやっ!」


茂吉が声を挙げると、息子の安男が止めた。


「フラグってなんだやっ!?」

「フラグてなぁな、相手を倒したかって油断した時に、今のおやじみてぇに『やったかっ!』て声挙げるとなぁ、相手がピンピンしてたりするもんだぁ」

「難儀だなぁ」

「ああ、難儀なんだぁ」


激戦を目撃した直後にも関わらず、呑気なやり取りをしている佐藤親子。


「ありゃ!?

いつの間にっ!」

「本当だ!船みーんな陸地に近づいてるべ!?」


大量のドロ-ンは目くらましだったのか?

自衛隊が対空斉射によるドローン駆除戦に追われている間に、沖に居た黄国こうこく艦船が、沿岸部へ押し寄せていたのだ。


次から次へと艦船からホバークラフトと呼ばれる、海上を高速移動可能な上陸艇が隊員や兵器を満載して降ろされる。


「た、大変だぁ!!」

「・・・日本もう終わりかぁ・・・。」


佐藤親子の悲嘆も空しく響くだけであった。




二枚目の札 上陸作戦


「作戦の第二フェーズへ移行を確認。作戦名『二枚目の札』第二段階の状況を開始せよ。」


黄国こうこく軍では、第一段階の大量のドローンによる飽和攻撃作戦と同時並行で第二作戦も行われていたのだ。


第二作戦『二枚目の札作戦』は、単純に物量で押し寄せる水上からの上陸戦だった。

何百隻もの母艦と戦艦から、対地ミサイルや砲撃と同時に、ホバークラフトによる波状上陸軍団が押し寄せてくるのだ。


何千何万という数えるのが馬鹿らしくなる程の大軍が一斉に波のように上陸しようと攻めてくる姿は、正に壮観であり、圧倒的な物量と兵数を誇る黄国こうこくだから出来るごり押し技だ。


この攻撃に対する陸上自衛隊は、先のドローン飽和攻撃へ対処するために日本海側に展開中の全部隊を出撃させており、次いで内陸部や太平洋側に配置している各部隊を予備部隊や援軍として配置していた。


後続部隊が来るまでの時間を稼ぐ遅滞戦闘を取りたいところだが、内陸部へ上陸させてしまえば、その後がジリ貧となる。各部隊は必死で歯を食いしばりながら、一隻でも多く沈め、上陸を阻止しようと奮戦する。


上空では既に、黄国こうこく空軍戦闘機と航空自衛隊の各部隊が交戦中で、地上部隊への支援までは難しい状況に持ち込まれてしまっている。


敵上陸部隊を追い返そうと、陸自の砲兵隊も次々と援護射撃を行い、海沿いの道路からは戦車隊による行進射も行われている。


ここまでやっても、黄国こうこく軍の上陸部隊は尽きることなく押し寄せ、一部では座礁した揚陸船や陸揚げに成功した陸上用車両などを遮蔽物にして、橋頭保が築かれている。


自衛隊側には、長期戦になればなる程、不利になるとの自覚がある。援軍が湯水のように沸き、使える黄国こうこく軍と異なり、自衛隊では、備蓄が消耗すれば消耗するだけ、継戦能力が低下してしまうのだ。


確かに、自国内での戦いであり、物資の備蓄や補給もある程度は賄える。


だが、黄国こうこくがここまでの物量戦を仕掛けてくることを想定しておらず、せいぜいが諸島などの限られた拠点での防衛や小国、テロリスト戦などを想定した防衛要綱により、様々な戦闘物資が規模を縮小したり、作ること自体を止めてしまったツケをここで刈り取ることになろうとは。


最新鋭の戦闘機を数十機備えようとも、相手が撃ってからさえ、交戦許可を取らなければならない法律に縛られ、領海侵犯した船を拿捕しても、相手国から強く返還を求められれば、保釈金や相手国からの謝罪すら無しで釈放せざるを得ないほど、日本の防衛は貧弱なのだ。


同盟を結んでいる在日米軍は、基本的に自国の権益と国籍を持つ者を最優先で守る目的で駐留している。仮に、日本が戦場になったとしても、真っ先に矢面に立ち、自国を守る姿を自衛隊が見せ、日本政府による正式な要請が無ければ、動くことは無い。


だからこそ、政府が早急に動いて対処してくれるまでの時間を稼ぐ為にも、自衛官は必死で文字通りに我が身を、命を削りながら、尖兵として戦う。


不幸中の幸いだったのは、水上からの上陸侵攻に対して、自衛隊には冷戦時代からの対処マニュアルや訓練してきた実績がある。


古参の隊員程、手慣れた様子で81mm迫撃砲から次々と上陸してきた敵兵部隊に対して、有効打を撃ち続け、少なくない出血を強いていた。その流れるように砲を撃ち続ける姿は職人芸の域に達しており、ポンッポンッと軽い射出音が戦場各所で響き渡り、圧倒的な物量を前に挫けそうになる味方の戦意を鼓舞していた。


海では海上自衛隊の護衛群が各地から集められ、日本の沿岸部に集結した黄国こうこく艦隊を陸上と海から挟み撃ちする形で、戦闘を有利に進めていた。これが冷戦事態に編み出された『水際阻止作戦』の真骨頂であり必勝の陣形である。


挟み撃ちにされた黄国こうこく艦隊は、最初の方こそ数の有利で海上自衛隊の護衛艦隊へ果敢に戦闘を挑んだものの、徐々にその数を減らしていった。特に、近年黄国こうこくで生産され、話題を集めた空母艦隊が海上自衛隊の空母群と直接対決する雄姿は敵味方を超えて注目を集め、艦載機による空中戦などは、ひと時戦場であることを忘れて魅入る者が続出する程であった。


黄国こうこく軍パイロットも精鋭が選ばれたらしく、海自艦載機の一方的な戦闘とはならず、数の有利を活かした戦いで双方が多大な出血を強いられた。


特に、近年開発された無人機同士の対決は、人間のパイロットでは不可能な空中戦を行うことが可能となり、AIによる計算された上での変則的な軌道により、各所で破壊神の如きスコアを伸ばしていた。


だが、やはり陸と海の挟み撃ちは有利であり、数では劣るものの地の利と日頃の厳しい訓練の成果を見せつける自衛隊が、犠牲を代価にじわりじわりと黄国こうこく軍を打ち減らしていった。





「どうやら、黄国こうこくさんもそろそろ潮時のようかな。」

「いくら圧倒的な物量と兵員があろうとも、我が自衛隊は、防御戦に於いては最強とまでは言えませんけど世界屈指で精強ですからな。」


防衛省の地下深くに設けられ中央指揮所では、オペレーター達が海岸線全域での戦闘を把握し、適宜連絡、報告、指示を出し続けていた。


防衛大臣近衛史貴ふみたかと陸上自衛隊幕僚長の加嶋寛臣かとうひろおみが、若干緊張を解きながらモニターを見つめたままで言葉を交わす。


「そういえば、米軍さんの出番は無し、ですか?」

「いやぁ~それがさ、まいっちゃったんだよ。

黄国こうこく艦船が領海侵犯したって分かった時はともかくさ、領海内で海自さんの『DDあきつかぜ』沈めちゃった途端に、自分たちも戦うから出せ出せってさ。総理と内閣みんなで、まぁ待ってって、ちょっとした紛争にはなるかもしれないけど、大事にはしたくないからさ、って言って説得して引っ込んでてもらってたのよ。

米軍さんは血の気の多いのが多いからさ。もちょっと様子見て、時勢を見定めて、うちが本当に大変そうになったら、協力してよって伝えたんだけど、大統領からもホットライン来ちゃうし、大使さんまで総理やボクのとこまで来るんだもん、もう大騒ぎで大変が大変だったのよ。」

「それはご愁傷様でしたねぇ・・・。」


モニターには、日本海側各所で座礁したり、沈められた艦船が映り、海岸線にも死屍累々の兵士らの姿が映されていた。文字通り屍山血河の戦いがもう少しで終ろうとしていた。


誰もが胸をなでおろし、日本が初の戦争で自国を独力で守り切ったと勝利を確信していた。


「誰だっお前たちはっ!?」

「うわっ!?」

「ぐふぅっ!!」


短く乾いたような炸裂音がパンパンと鳴り響いたかと思うと、中央指揮所へ軍服姿の集団がなだれ込んできた。


「まさかっ!?」

「馬鹿なっ!黄国こうこく軍っだと!?」


近衛大臣が驚きの声を挙げ、加嶋幕僚長が相手の正体を瞬時に見破った。


「その通り。我々は党から命令でここに居る。そして、既にこの建物は我々の占領下にある。無駄な抵抗は止めて、投降せよ。悪いようにはしない。」


冷酷という言葉が軍服を身に纏った様な、大佐の階級章を付けた指揮官と思われる男が、流暢な日本語で冷徹に言い放つ。


「総員っ!降伏しろっ!下手な抵抗は死者を生み出すだけだっ!」

「ひっ!」


加嶋幕僚長の指示で、指揮所内の全ての職員が両手を高く頭上へ挙げ、降伏の姿勢を示した。近衛防衛大臣は短く悲鳴を挙げて両手を突き上げることしか出来なかった。


「正しい判断だ。協力感謝する。今後とも素直に我々に従って欲しいものだな。」


一体どこから侵入したのだろうか。中央指揮所には、様々なセキュリティ装備があり、警備部隊も小銃片手に警護している。蟻の出入りする隙間くらいはあっても、これ程までの大部隊を碌な誰何も無しで侵入できるはずがない。だが実際に黄国こうこく軍の大部隊が、碌な抵抗も無しで侵入し、防衛省の地下深くにある中央指揮所は制圧されてしまったのだ。





三枚目の札 地下トンネル作戦


時は数年前に遡る。テレビやネットでは、黄国こうこくが新しく、世界最大級のシールド機を開発したと報道されていた。どこででも見かける、ごく普通のニュースとして、この話題はあまり注目も集めずに、ひっそりと忘れ去られていった。


だが、それこそが黄国こうこくにとって一番の望むところであり、誰も注目しないからこそ、作戦は秘密裏に進めることが可能となったのだ。

最初に誰が考え出したのかは不明だが、黄国こうこく内の技術者の一人が、ぽつりと呟いたのが、この作戦の原点だという説もある。


「そうだ、巨大掘削機があるなら、地下トンネルを掘ればいいんだ。」


ごく当たり前の呟き。

この呟きに軍事的な意味は感じられない。


だが、人類は、戦争の歴史の中で、幾度も地下を掘ることで、戦争を有利に進めた歴史がある。


古くは攻城戦時に、敵が死守する城へ地下通路を掘りぬいて、城内へ侵入し、城の主な門を開錠し、味方を内側へ引き入れる戦法で城を攻め落とした武将が居る。


硫黄島では、現地に赴任した栗林中将が海岸での水際作戦を止めさせ、掘ることが難しいと言われた島に、幾つかの地下壕を掘った結果、米国に数時間で終わる戦闘と考えられた硫黄島戦が、36日間の激戦となり犠牲を強いた。


ベトナムでは、圧倒的物量と制空権を握ったはずの米国が、地下連絡網で結ばれたベトコンのゲリラ戦術による徹底抗戦で多大な犠牲を強いられ、戦争自体が9年間と長期化しすぎてしまい、結果として、米国世論が嫌戦派が主流となり、米国側の敗戦となってしまった。


実例を挙げれば他にもあるが、特に現代戦では、空を制する者よりも、地下を制する者の方が、戦闘で有利に立てる時代になってしまっていた。


たとえば、北米でも日本でも、領空侵犯に対しては、即応体制が確立されており、仮に小型の民間機でも、領空侵犯をすれば、即座にスクランブル発進で迎撃機が向けられる。


迎撃機が領空から退去するまで付きまとい、もしも退去しなければ、実力行使として撃墜も有るだろう。


それでもダメな時は、地上に設けられた高射砲でも、対空ミサイルでも、対処する方法は複数選べる。


だが、地下に対しては?


遮蔽物が一切無いに等しい空に対して、地下というのは、存外厄介な領域なのだ。

第一に、攻撃が通りにくい。

第二に、視界が悪過ぎる。

第三に、直近まで接近されても、感知し難過ぎる。

第四に、地下という場所そのものが、塹壕のように防弾効果が高く、防御陣地として優れている。

第五に、掘るにはコストは掛かるが、土というのは、土嚢に収めたり、コンクリートで固めたりと、形もある程度とはいえ、自在に変えられる。


地下は、上空に比べて、未知の領域の方がはるかに多く、それでいて目立たないのだ。


黄国こうこく軍首脳は、即座に参謀本部で作戦の立案と、即応性のある部隊の編成を命じた。


幾年月か、試行錯誤やシールド機を揃えて、実際に掘削するまで時間は経過したが、思った以上に、地下進軍には有用性があり過ぎたのだ。


最初に、同盟関係を結んでいる日本海側に面した隣国との間で、秘密裏に地下トンネルを開通させた。予想以上に快適に物資と大軍の輸送が可能となり、隣国の独裁者は上機嫌となった。


最初に懐を肥やしたのは、独裁者と党幹部だった。

それから、優良国民と認められた第一国民。

彼らが十分すぎるほど、懐を肥やし切った後で、ようやく一般の北都の市民たちにもおこぼれとして富の分配が行われたのが、日本への侵略間近だったという。


上空へは大量のドローンによる飽和攻撃により耳目を集めさせ、更に水上艦による飽和攻撃で、徹底的に陸海空の自衛隊部隊を引き付ける。その上で、本命は地下トンネルを掘り進めて、防衛省や国会議事堂など、日本の主な行政府を一気に制圧してしまえば、碌な抵抗も無く、日本を占領することが可能である。


悪魔的な発想と実行力で、黄国こうこくはこの作戦を実行し、日本を手中に収めることが出来た。


無論、地下トンネルを掘り進めることには多大な時間と労力、技術や資金が消費されたが、一党独裁の黄国こうこくにとっては、多少の数字の操作はお家芸レベルで可能だ。


呆れたことにトンネルは複数掘られ、日本側が気が付きにくいように、開戦直前までは広く大軍が通れる主道は施設の近くまで掘り進め、主要施設への短く小さな狭い連絡通路のみ確保して、工作員や連絡要員が極秘裏に出入りするだけにしておいたのだ。


しかも、この日本海の海底を横断して掘り進められた地下トンネルには、複線による貨物列車が既に往復しており、兵員や軍事車両と物資を同時に移送可能な作りになっており、各所に広大な地下基地と物資集積所を設けてある。


平時は北半島国との往復でカモフラージュし、開戦直前に日本の主な省庁や防衛省の中央指揮所へ、爆破で一瞬の工事を済ませて、大軍が一斉に進軍できる幅の太い道を直接繋げて侵入した。


占領後は、VIP車両により、党幹部を日本国内へお連れして、事前に用意された臨時日本正当政府と同盟を即座に締結し、世界へ発表する手際の良さである。


その間僅かに半日程度で日本を占領されてしまった。


ここまで短時間、かつ徹底的に占領されてしまうと、米国といえども即座には手出しが出来なくなってしまった。各地に展開中の在日米軍基地は、かろうじて在日米国人と幾つかの米国との同盟国籍の者たちを家族単位で集めて、F35や本国から呼び寄せたF22の飛行編隊による護衛付きの米軍機での脱出を試み、これに成功した。


報復とばかりにCIAの働きで米軍基地を中心に『沖縄独立政府』を立ち上げ、なんとか沖縄だけが黄国の支配を免れたが、それ以外の北海道から九州までの全域が黄国の占領下となってしまった。




一度占領下に入れられてしまった国を独立国として扱う国は無い。


それは国連に於いても同様で、しかも、黄国が用意して送り込んだ臨時の文字を排除した日本正当政府公認の国連大使まで出されてしまえば、国際世論も非難はしても、どの国も日本独立のために協力を申し出る国は無い。


水面下では、なんとか黄国の支配下から脱出すよいともがく元政治家や知識人や活動家が居ても、CIAなど各国諜報員以外に接触を図る者は少ない。


それも、厳しい言論、政治思想の統制と国民すべてにIDチップを埋め込み、誰と会ったか、何時間どの場所に滞在したかまで把握できる徹底した統治の前では、表立って反黄国を唱える自由さえ奪われてしまった後では。


こうして、地図と国際上は日本は独立国として残されたものの、黄国の同盟という名の新たな隷属国と化し、主だった日本企業は所有する著作権もろとも国営化され、優秀な従業員は黄国の更なる技術開発や飛躍のために連れて行かれた。


日本企業であるというブランド力にも目を付けられていたらしく、黄国党の親類や縁者などが経営者として送り込まれた。そして従来の製品は大増産のノルマが課された上での生産を認められ、輸出して外貨を稼ぐことが課せられた。


こうして碌な技術も専門分野も無い、黄国から見れば無価値であり、抵抗する力も無いと判断された日本人は、独立を許されないばかりか国際的な競争力を失い、衰退を覚悟するばかりとなってしまった。



以上―現場から、RFNSTVイカロスがお伝えしました!」


「ちょっと!何するんですか!!

止めてください!手を放しなさい!!

え、治安維持妨害法に抵触したから拘束するっ!?

なにを、助けてっ!助けてぇーーーっ!!」


直後に画面はザーっと砂嵐でも起きたかのように何も映さず、その後の彼がどうなったのか手がかりすらも残していなかった。


これが、十三年前に黄国へ侵入取材を試みたRFNSTVの人気リポーターのイカロスが残した記録であった。この動画は偶然RFNSTVが協力者を名乗る者たちか手渡されて入手しすることが出来た。


尚、特別行政区となった日本国はその後国民投票により黄国との統合が圧倒的大多数で可決され、黄国の既存の州の新たな県として加えられた。黄国との間には連絡橋も設けられ、更なる交流が今もなお盛んに行われているという。






続編は・・・多分ありません

多分短編です(´・ω・`)

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