第8話 生意気なのはお前だ~!
大きなローザ・ファルベンの町にある学園、月の光が由来のモントシャイン学園は、由緒正しき伝統校だ。
中庭にある庭園には、バラの花が咲いている。そんなバラに囲まれながら、ステラは生徒たちから質問責めにあっていた。
「ステラさん、どうやって竜を使役したの?」
「ブルーは竜じゃないんです。召喚獣です。それに、使役なんてしてません」
「ええ~」
ステラはブルーの説明に困っていた。授業でもブルーは召喚獣として紹介したものの、その姿からドラゴンだと思われているようだった。
ブルーは使役されていないことに関して、首を横に振っていた。
「ステラはどうして、おいらが使役してないと思うんだ?」
ブルーはステラへ、逆に質問を返していた。ステラはブルーを撫でながら、何度もうなずいた。
「ブルーは私にとって、大切なお友達なの。だから、使役なんてしていないの」
「そんなあ。おいら、もっと役に立ちたい!」
「ブルーは十分、役に立っているじゃない。私、学園へ来てから頼りきりなんですよ」
二人のちぐはぐは話に、質問責めをしていた生徒たちは呆れたように笑っていた。控えめで優しいステラと、自分に自信のあるブルーの二人の相性はよく、特にブルーは人気で、口調を真似する生徒まで出てきてしまっていた。
そんな二人を、物陰から見ていた茶髪で後ろに一つに束ねた生徒、ロジャーは面白くなさそうに見つめていた。ロジャーの使役している召喚獣は白ヘビで、ロジャーの首元でとぐろを巻いていた。
「なんだよ。ドラゴンなんて使役したからって、皆からちやほやされてさ」
「ロジャーさま、そんなこと言わずに、仲良くしましょう~」
白ヘビの名前はワッツ。ワッツはそういうと、舌を出してロジャーをなだめた。それでもロジャーはむくれた顔をしたまま、二人を見つめている。
何を思ったのか、ロジャーは物陰から出ると、二人のほうへ向かっていった。
「おい、お前。生意気め」
「? あなたは?」
「俺はロジャー。お前、調子に乗ってるじゃないか」
「調子に乗るほど、私は優秀なところを持っていませんから……」
ステラはそういうと生徒たちの輪から外れ、バラの香りを楽しみながら庭園を歩いて行った。お昼を食べ終えたステラにとって、休憩時間は残り20分ほどだ。
ロジャーが二人のそばにやってくる頃には、周囲の生徒たちは離れていった。突然のロジャーたちに、身構えたブルーであったが、ステラの一言でその不安は一瞬で消え去った。
「ロジャーさん、ありがとう」
「は?」
ロジャーは目を真ん丸にすると、口をあんぐりと開けて呆然と立ち尽くした。
「私、バラが見たかっただけなのに、いろんな方に囲まれてしまって。困っていたんです。ありがとうございます!」
ステラは笑みをこぼしながら、ロジャーにお礼を言った。
「俺は別になにも! してない!」
ロジャーは顔を赤くすると、そっぽを向いてしまった。しかし、すぐに振り返るとブルーを指さして言った。
「ドラゴンもどきめ! 今に見てろよ! ブレスを吐くくらいなら、ワッツでもできるんだ!」
ロジャーがそういうと、ワッツが後ろから現れ、青い炎のようなものを吐き出した。それらはバラを一瞬で凍らせてしまった。
「お前、ワッツっていうのか?」
「僕はワッツ。ロジャーさまに使役された、えっらーい召喚獣さ」
「初めてみた! 氷のブレスじゃん! かっけー‼」
ブルーは目を輝かせながら、ワッツに向かって手をたたいて見せた。照れ笑いを浮かべたワッツは、舌を出して笑った。
「だから、お前よりすごいんだ!」
「そうなんですね! 凍らせたバラもキラキラしていて綺麗。でも、バラさんがかわいそうなので、あまり凍らせないでくださいね」
ステラはそういうと、ブルーに振り返った。ブルーが炎のブレスを出せば、氷は溶けるだろうが、バラは燃えてしまう。
「おいら、溶かすだけは苦手だなあ」
「へん! なんだよ、優秀じゃないじゃん」
「なんだよ!」
ロジャーはそういうと、ステラに向かってあっかんべーをした。
「ブルーは凄いですよ」
「そうだ! おいらは凄いんだぜ!」
「氷も溶かせないやつが、偉そうなことを!」
「なにをー!」
ロジャーとブルーがにらみ合ったとき、バラの氷は一瞬で溶け、バラだけが嬉しそうに揺れていた。
「もう、何しているの」
見れば、そこには先ほどステラと友人になったばかりのミミィ、そして使役されている召喚獣のレミィがいた。
「げ、ミミィ……」
「ロジャー、花を凍らせたなんて知られたら、マーサ先生にお叱りを受けますよ」
「へん! うるさいうるさい!」
召喚獣レミィは、白ヘビのワッツをにらみつけた。
「それぞれに得意、不得意はあるものだから、気にすることないわ。ブルーもよ」
レミィはそれだけいうと、すたすたと歩いて行ってしまった。慌てて追いかけるミミィは、ウインクしながらステラに呼び掛けた。
「午後の授業が始まるわ、行きましょう」
「あ、まって。ミミィさん……」
慌てて追いかけるステラの横を、ブルーが飛んでいく。白ヘビのワッツは空を飛ぶことができないため、飛んで行ったブルーを見つめていた。
「何やってんだ、ワッツ! 行くぞ!」
「あ、待ってくださいよ。ロジャーさま~」
溶かされたバラだけが、嬉しそうに笑っていた。
―おしまい―