第6話 旅立ち! おいらに乗るかい⁉
はるか遠くに存在する人間界、その名もヴィスタリア。召喚獣の住まう聖星界アスタリア。それぞれ共存する世界は美しく、人々と聖獣たちの賑やかな世界だ。
そんなヴィスタリアに住まう少女ステラ。12歳のステラは、病弱で部屋から一歩も出たことが無かった。エーテル欠乏症というマナ不足による病にかかっていた。そんなステラの病を直したのは、聖獣として自ら現れた召喚獣ブルーであった。
これはそんな二人が織りなす、勇気と友情、そして成長の物語。
◇◇◇
「ステラ! 学校はどこにあるんだ?」
「大きな町にあるの」
ステラは地図をブルーに見せながら、指をさした。ステラは召喚魔法を正しく扱うために、学校へ通うことになったのだ。学校は全寮制であり、ステラとブルーは学校の寮で暮らすことになる。
「ここが今いる村で、オーカーケリーよ」
「ふんふん」
「それで、ここからずーっと、北に行くとあるのがローザ・ファルベンの町なの」
「ステラは詳しいんだな! そういう物知りの人は、博識っていうんだろ?」
ステラは首を横に振ると、ブルーから視線を窓の向こうへ移した。
「寝たきりだったから、読めそうなものは全部読んでいたの。行けるとは思っていなかったけれど、地図は面白かったです」
「すげえな! ステラは勉強家だ!」
「ありがとう、ブルー。そんな風に言ってくれるのは、ブルーだけだよ」
ブルーは得意げになって、青い炎を吐き出した。
「ローザなんとかって町には、どうやっていくんだ?」
「ローザ・ファルベンね。馬車で行けると思うけれど、お医者様のルートヴィッヒ先生に聞いてみるね」
ブルーはふわりと翼で飛びあがると、地図の真上に着地した。
「おいらに乗っていくか?」
「え?」
ブルーはルビーの瞳をキラキラと煌めかせた。ブルーの大きさは、ステラの顔と大して変わらない。どうやってそんなブルーに乗るのだろうか。ステラは首を横に傾げた。
「おいら、短い時間なら魔法で大きくなれるから、ステラくらいなら乗せられるよ」
「そうなの? ブルーってすごいんだね」
「当然だい! おいら、優秀だからな!」
ブルーは胸を張った。
◇◇◇
ステラが荷物をまとめていると、医師のルートヴィッヒが手伝いに来てくれた。ルートヴィッヒは真新しいスーツケースを用意しており、少ないステラの荷物は全て納まってしまった。
ブルーはステラを乗せて飛ぶ気でいたが、ルートヴィッヒが馬車を用意していたため、ブルーは怒ってふてくされてしまった。
「おいらに乗って行けばいいのに」
「ブルーはカッコいいドラゴンに見えるから、みんなびっくりしちゃうよ」
「そうか、おいらカッコいいのか!」
ブルーは満足げに鏡に自分を映していた。
「アーミアちゃんからもらったクマのぬいぐるみも入ったね。良かった!」
友達になったばかりのアーミアとは文通の約束をした。そして旅立つステラに、アーミアは手持ちの宝物であるクマのぬいぐるみをステラにプレゼントしてくれたのだ。
「あ、アーミアが来たぜ!」
ブルーの声と同時に、玄関のベルが鳴った。
「アーミアちゃん!」
「ステラ! 学校へ行く準備は終わった?」
「うん! 手紙、いっぱい書くからね」
「私も書くわ!」
アーミアは目に涙を浮かべながら、ステラをぎゅっと抱きしめた。
「これ、お母さんが持って行ってって。サンドイッチよ」
「ありがとう! ブルーと一緒に食べるね」
「ねえブルー!」
アーミアはブルーの頭を撫でながら、新しい赤いスカーフを巻いてあげた。スカーフま大きく、マントのようにひらひらとしている。そして、ステラの腕にはブルーとおそろいのスカーフが巻かれている。
「ステラを頼んだわよ。町は怖いんだから!」
「おいらがいるから安心だよ! おいら、ステラを守って立派な召喚士になれるように手助けするんだ!」
マントを見せびらかすように、ブルーは偉そうに胸を張った。ブルーのえっへんという威張りは、ブルーの癖のようだ。
家から出ると、村人が集まってきた。皆ステラを見送ろうと集まったのだ。
「ステラちゃん、病気や怪我には気を付けるんですよ」
「これ、果物が入ったバスケットだよ。道中で食べてね」
「皆さんありがとうございます……!」
あっという間にステラの両手は塞がってしまった。
「ステラちゃん、どうして泣くんだい」
アーミアのお母さんは心配そうにステラの顔を覗き込んだ。
「これは、その……」
「ステラ! どうしたんだ! 痛いのか⁉ それとも、苦しいのか⁉」
ブルーは慌ててステラの周りを飛び回った。その様子をみたステラは笑顔で笑いだした。
「ううん。嬉しくて。皆さん、私は立派な召喚士になって戻ってきます」
ステラは涙をブルーに拭ってもらうと、笑顔で答えた。
「気を付けてね」
「はい!」
「ブルーも元気でな!」
「おう!」
二人は馬車に乗り込んだ。馬車が走り出し、ゆっくりと村を横切っていく。アーミアは馬車が見えなくなっても手を振り続けていた。
「なぁ~、ステラ」
「なあに、ブルー」
「不安でいっぱいかもしれないけれど、おいらは楽しみだぜ! 楽しもうぜ!」
「……うん!」
ステラは万遍の笑みを咲かせていた。
―おしまい―
次回はついに学校編です!