第4話 初めての友達の家、初めてのパン作り!
4話を公開します!
不定期の月曜日更新予定です。
はるか遠くに存在する人間界、その名もヴィスタリア。召喚獣の住まう聖星界アスタリア。それぞれ共存する世界は美しく、人々と聖獣たちの賑やかな世界だ。
そんなヴィスタリアに住まう少女ステラ。12歳のステラは、病弱で部屋から一歩も出たことが無かった。エーテル欠乏症というマナ不足による病にかかっていた。そんなステラの病を直したのは、聖獣として自ら現れた召喚獣ブルーであった。
これはそんな二人が織りなす、勇気と友情、そして成長の物語。
◇◇◇
その日、初めてできた友達アーミアの家を訪れていた。アーミアの家にはぬいぐるみや人形が多い。そもそも両親の居ないステラにとって、おもちゃという存在すら知らなかった。アーミアは自身のコレクションを見せてきたが、決して自慢するのではなく、家族として紹介していった。
「ねえアーミアちゃん、この子の名前は?」
ステラが初めて名付けたのは聖獣ブルーであり、それ以外の名付けの経験はなかった。名前という存在の大きさが、ステラには身に染みていた。ブルーは名前を付けられてから、とても満足したように嬉しそうだからだ。
「この子の名前はブルーなの! ブルーと一緒だね!」
「おいらと同じ名前か! カッコいいだろ?」
「カッコいいかなあ……」
「ごめんね。ブルー。あんまりいい名前、つけられなくて」
ブルーは得意げになって胸を叩いた。青い炎が小さく口から飛び出して来る。
「えへん! おいらはカッコいいと思ってるからいいんだい!」
「ルビーだと女の子みたいだから、ブルーがいいかなって」
「ルビーってなんだ?」
「宝石だよ。赤い石なの。ステラとブルーの瞳みたいにキラキラしてキレイなんだって」
アーミアはウットリしながら、ステラとブルーを見比べた。二人とも、ルビーよりも煌めいた瞳をしているのだ。アーミアの瞳は青であり、澄み切った色をしている。
「アーミアは、なんでアーミアなんだ?」
「うん? 名前?」
ブルーの問いかけに、アーミアは胸を張った。
「おばあさまと同じ名前なの!」
「そうなんだ! そういうのもいいな!」
ぐりゅううう。
ブルーがさらに胸を張った瞬間、大きな音がアーミアの部屋に轟いた。
「な、何の音?」
「おいらのお腹の減った音だい!」
「ブルーのお腹の音⁉ 面白い音だね!」
ステラはそう言うとブルーを優しく撫でた。ブルーは嬉しそうに青い炎を吐き出すと、また音がした。
ぐきゅるるる。
「それじゃあ、ご飯にしましょうよ。ステラも食べていけるでしょう?」
「え、いいんですか?」
「パン生地をこねるところからだけれど!」
アーミアはそういうと、台所へ案内した。台所ではアーミアの母親が小麦粉の分量を量っていた。
「あらいらっしゃい。お腹空いたのね、これからパンを焼くから、少し待ってね」
「おいら、パン焼くの初めて見る!」
「私も聖獣を見るのは初めてだよ。そうだ、一緒に作ってみるかい?」
アーミアの母親はそういいながら、白いエプロンを持ってきた。一つはアーミア、もう一つはステラ用だ。ステラはエプロンをつけてもらいながら、照れ笑いを浮かべていた。母親という存在の、柔らかくも優しい心遣いが身に染みてわかった。
「それじゃあ、手を洗ったらよく拭いてね。まずは大きなボウルに、材料をいれてゆっくり混ぜるの。そしたら牛乳をちょっとずつ加えていくのよ」
「ステラはパン作りは初めて?」
「初めてです。料理も、初めてです」
「おやそうだったのかい。それじゃあゆっくりやって行こうね」
アーミアの母親はそういうと、ステラの手握りながら、パン生地を混ぜていった。握手されるような形で手を握られたステラは嬉しく、そして恥ずかしくなっていた。
「生地がまとまってきたね。そしたら両手で、しっかりとこねるんだよ」
「こねたらすぐ食べれるのか⁉」
ブルーは前屈みになっていた。
「ブルー、パンは焼かないと食べれないんですよ」
「そうなのか⁉ おいら、ぺこぺこだよ」
「おやそうなのかい? そしたら、朝こしらえていた生地を使おうか」
そういうと、母親は後ろの戸棚から大きなボウルを取り出した。量は少ないが、生地はしっかりと発酵していた。
「足りないかと思って、新しくこねたんだけれど。お腹が減ってるんじゃ仕方ないね。こっちで形を作りましょう」
「なんだい、あるんじゃないか!」
「お客様が来ると思っていなくてね。足りないと思ったのよ」
アーミアの母親は生地を6等分すると、それぞれ2個ずつ置いていった。
「好きな形にするといいよ」
「おいらもいいのか⁉」
「おいらもいいのよ」
「やっほい!」
アーミアは慣れた手付きでパンを形作っていった。ステラは初めてで戸惑いながらも、母親の手引きで小さな丸いパンを作った。ブルーはというと、何とも奇妙な形を作っていた。
「ブルー、これなあに?」
「聖星界アスタリアのお月様だい! こっちは太陽様だ!」
「お月様はハート型? 太陽はまるで、にょろにょろの蛇みたいね」
「蛇ってなんだ?」
「にょろにょろして、牙があって、噛まれると痛いの」
「ひえええ」
そうこうしているうちに、母親は牛乳をパン生地に塗っていった。
「オーブンは火傷すると危ないから、私がやるわね。鉄板にパンを乗せて頂戴」
次々と鉄板に乗せられていくパン生地。奇妙な形のパンも二つ並んだ。
「あとは20分くらいじっくり待とうね。その間に、サラダとベーコンを作っておきます」
「わーい! やったあ、ご飯だあ!」
「ブルー、まだ20分後だよ」
アーミアの呼びかけに、ガーンと落胆してしまったブルー。アゴが外れそうになるまであんぐりと開けた口に、ステラは大きな声を上げて笑った。
―つづく―