第3話 さあ一歩! 冒険へ繰りだせない⁉
はるか遠くに存在する人間界、その名もヴィスタリア。召喚獣の住まう聖星界アスタリア。それぞれ共存する世界は美しく、人々と聖獣たちの賑やかな世界だ。
そんなヴィスタリアに住まう少女ステラ。12歳のステラは、病弱で部屋から一歩も出たことが無かった。エーテル欠乏症というマナ不足による病にかかっていた。そんなステラの病を直したのは、聖獣として自ら現れた召喚獣ブルーであった。
これはそんな二人が織りなす、勇気と友情、そして成長の物語。
◇◇◇
「おはよう、ブルー!」
「おはよっ! ステラ、具合はどうだい!」
「元気よ、全部ブルーのおかげ!」
「当然だい! おいら、優秀だからね!」
ルビーの瞳を持つ青き召喚獣ブルーは、もこもこのウロコのある子ドラゴンのようだ。翼もばっちり生えている。対して、ステラは長く美しい金髪ブロンドの髪を持ち、瞳はブルーと同じく燃えるようなルビーであった。
「ねえ、ブルー。私、家の外に出てみたいのだけれど」
「いいじゃん! 外行こうよ。おいら、人間界ヴィスタリアは初めてだから楽しみなんだ!」
「私は人間界に暮らしていたけれど、外に出たことはないの。だから、とても楽しみです」
ステラは笑いながら髪の毛をとかし、医師であり親代わりのルートヴィッヒからもらったワンピースに袖を通した。白いワンピースはフリルが付いており、ステラに良く似合っていた。
「ステラ、似合うじゃん! おいら、可愛いと思うぜ!」
「ありがとう! それじゃあ、外の世界に出発です!」
「おー♪」
いざ一歩。前に出ようとしたステラの足は重く、なかなか扉を開けようとはしない。
「どうしたんだ?」
「私なんかじゃ、皆と仲良く出来ないかもしれないです」
弱気なステラは病弱で寝たきりだったために、友達もいない。唯一話せるのは医師であるルートヴィッヒだけだったのだ。ブルーは聖星界で友達に囲まれていた。ステラの恐怖は、ブルーにはわからず、伝わらなかった。
「その一歩が、冒険だと思うんだぜ!」
「冒険?」
「そう! 冒険ってのは勇気がいるもんだから、ステラには勇気が足りないんだと思うんだ!」
「勇気……」
ステラはワンピースの裾を掴み、わなわなと震えだした。
「わわっ! ステラ、どうしたんだ!」
「勇気、……怖いけれど。勇気を……」
「そうだよ! 勇気勇気勇気! おいらみたいに、勇気でうわーっと外に飛び出そうぜ!」
「ブルーは強いのね。私は怖くてたまらないのです」
「こわい……?」
ブルーはその時、思い出していた。周りの友達が皆召喚され、たった一人残されたことを。
それは孤独であり、恐怖そのものだったのだ。
「こわい……」
怖い。ブルーにも、ステラの抱えている感情がわかった。それでも、ブルーには疑問があった。
「なあ、ステラ」
「なに? ブルー」
「今までこの家で、一人で病と闘っていたんだろ? それって、ものすっげえ勇気のいる事じゃないか?」
「え? そうなのかな……」
ステラは俯いたまま、寂しそうに呟いた。
「おいら、聖星界で一人ボッチになったんだ。寂しくて、怖かった。おいらは要らない子なのかと思ったよ」
「ブルー……」
「でも、おいらは今! ステラに召喚されて、召喚獣として仕えてる! おいらはそれが嬉しいんだ♪」
「仕えなくていい。その、友達になってくれたら……」
「友達? もう友達だろう!」
ブルーはえっへんとお腹を見せながら青い炎を吐き出した。ブルーにとって、友達がどういうことなのかよくわからなかったが、そんなことはどうでもよかった。これから優秀っぷりを見せて、そして仕えていれば、いつかは認められると思ったからだ。
「友達なら、私に仕えたりしないで」
「そ、そんなあ!」
「私ね、ブルーとは仲良くして居たいの。だから、仕えなくても」
「おいら優秀だよ⁉ 何でもできるよ!」
「でも……」
ブルーはステラの背中を押しだそうと、飛び上がった。ステラはびっくりしたのか、扉を開けて外に飛び出してしまった。
「もう、ブルーったら! ふふふ、あんなに怖かったのに、外に出れちゃいました」
「おいら優秀だもん! 友達の背中を押すくらい簡単だぜ♪」
ステラは気が抜けたのか、その場にしゃがみ込んで大笑いしていた。ステラの笑みに、ブルーも踊りながらステラの周りを飛び回った。
「まあ、ステラちゃん!」
「ステラ? ステラってあの寝たきりの?」
周囲の人が集まって来た。驚いてブルーの後ろに隠れたステラは、ガタガタと震えていた。先ほどまで笑っていたのが嘘のようだ。
「おいらはブルー! 召喚士ステラの召喚獣さ! かっこいいだろう!」
ブルーはお構いなしに、威張って見せた。子ドラゴンのようなブルーは珍しいのか、周囲の人も大勢集まって来た。
「凄い、ドラゴンを使役してるみたいだ」
「おいら、何でもできるぜ! ドラゴンよりも強いんだい!」
ブルーの青い炎を吐き出すのをみて、周囲の人々は怯えるどころか拍手して出迎えた。
「なあ。おいら、ステラの役に立ちたいんだ! ステラは皆と仲良くしたいんだろ?」
「う、うん……」
「まあそうなの? おばちゃんとも、仲良くしてくれるかしら?」
「あたしとも仲良くしてー!」
ステラは目を真ん丸にしてびっくりしたものの、笑顔で微笑んだ。
「よろしくお願いします。ステラです」
「あたしはアーミアよ!」
「アーミア! おいらとも仲良くしてくれよ!」
「もちろん!」
二つのお団子が可愛らしい、赤毛のアーミアは嬉しそうに微笑んだ。アーミアはステラと同じ歳くらいだ。
「ステラ、うちへ遊びに来ない? お人形がいっぱいあるの」
「いいんですか? 行きたいです!」
「おいらもいきたい!」
「もちろん!」
ステラはアーミアと時間を忘れて遊んでいた。ブルーはお人形の洋服を着せられそうになり、慌てて飛び回っていた。
結局赤いスカーフ、見た目でいえばマントを付けられたブルーは、そのかっこよさに惚れ惚れしていた。
ステラとブルー。二人の生活は、まだ始まったばかりだ!
―おしまい―