表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
使役したい召喚獣と、使役されたくない召喚士ちゃん  作者: Lesewolf
第一章 オーカーケリー村編
3/27

第2話 名付けてくれよ、おいらの名前を!

召喚魔法陣(しょうかんまほうじん)⁉」


 医者であるルートヴィッヒは目を丸くしていた。召喚士(しょうかんし)は部屋には居ない(はず)だ。だとすれば、外からか。患者(かんじゃ)である少女を(かば)うように、ルートヴィッヒは魔法陣の前に立ちふさがった。召喚(しょうかん)された聖獣(せいじゅう)は、まるでドラゴンのような翼が生えているにもかかわらず、()()()()のウロコをしていた。色はブルーだ。(ひとみ)はまるでルビーのように赤い。


「なんじゃ、おぬしは!」

「おいらの召喚者か?」

「何?」


 ルートヴィッヒは(まる)眼鏡(めがね)をかけ直した。「召喚者か」と尋ねたからには、この召喚獣はまだ主人を知らないでいるのだ。


「おあいにく。私はしがない町医者(まちいしゃ)じゃ。おぬし、初召喚か?」

「そうなんだ! なかなか召喚されないから、召喚士のピンチにかけつけてきたんだぜ!」

「なんと。ということは、()()()の……」


 ルートヴィッヒは薬の影響(えいきょう)でぐっすり眠ったばかりの少女、ステラを見つめた。星の瞬きのような美しい金髪を持つ美少女だ。


「ステラ? この子の名前か?」

「おぬし、紋章はあるか?」

「あるよ! これだ!」


 聖獣は右肩(みぎかた)の紋章を自慢(じまん)げに見せて来た。


「ふむ」


 (うな)ったルートヴィッヒはステラの右肩をそっと(めく)った。そこには同じ紋章が浮き出ている。


「やはり、そうか」

「おお! ステラってやつが、おいらの召喚者か!」

「そのようじゃな」

「なんで、おいらのこと呼んでくれないんだ?」


 聖獣はむくれた顔のまま、ステラの顔を覗き込んだ。やせ細っている少女は(あき)らかに健康(けんこう)には見えない。


「もしかして、体が弱いのか?」

「ステラは生まれてから、この部屋から出たことが無いんじゃ。起き上がっても、あまり長く歩けないんじゃよ」

「どこか、悪いのか?」

「エーテルが足りないんじゃ」

「そんなあ!」


 聖獣には聞いたことがあった。たしかエーテル欠乏症(けつぼうしょう)といって、体のマナが足りない事をさすのだ。マナとはエーテルを指し、自然界(しぜんかい)には必ずと言っていい程にありふれた力の根源(こんげん)だ。


「だったら、おいらのマナを分けるよ」

「そんなことが出来るのか?」

「おいら、優秀だからね」


 聖獣が目を閉じると、額から角が生えだした。一角獣のようなその角からは、眩い光が溢れ出した。


「起きて、ステラ! おいらの召喚士!」


「君が必要なんだよ! おいらの召喚士!」


 聖獣の呼びかけに答えるように、ステラの身体が光りだした。マナが供給(きょうきゅう)され、エーテルが(おぎな)われていく。


「なんてことじゃ。本当にエーテル欠乏症が治っていくようだ」


 ルートヴィッヒは(おどろ)きつつも、その光景(こうけい)をその目に()き付けようと必死(ひっし)で目を()らした。やがて光は収まり、ステラはそのまぶたを揺らした。


「ん…………」

「ステラ、大丈夫か? 気分はどうじゃ……」

「うん。とっても、あたたかいよ」


 ステラの瞳は赤であり、まるでルビーのように燃えていた。


「おいらが助けたんだい」

「聖獣? 先生の聖獣が、私を助けてくれたのですか?」

「いや、私のではないよ。君の、聖獣だそうだ」

「私の……?」


 聖獣は()い上がってくるくる回転(かいてん)しながら、ベッドに横たわる少女ステラの(ひざ)の上に降り立った。


「初めまして、召喚士さま!」

「……初めまして。ステラです」

「やっと会えた! 召喚士さま!」


 聖獣はステラに抱き着くと、その尻尾(しっぽ)(うれ)しそうに揺らした。まるで母親に甘える、子ドラゴンのようだ。


「でも私、まだ呼んだことが無くて……」

「そうだよ! 呼んでくれないから、ピンチにかけつけたんだい!」

「そうだったの。ごめんなさい。私ね、生まれてから病弱で」

「それも今日で終わりだよ! ほら、立って!」


 聖獣の呼びかけに応じ、恐る恐る頷いたステラは布団を捲った。やせ細った体が露わになる。


「ゆっくり立ち上がるんだ。おいらが支えるよ」

「ありがとう」


 ゆっくりと立ち上がったステラは小柄ながら、聖獣が支えなくともしっかりと自分の足で立つことが出来た。


「すごい、立てました。歩けそう!」


 ステラは嬉しそうにゆっくりと、一歩一歩を()みしめながら歩いた。ルートヴィッヒは奇跡(きせき)だと(つぶや)きながら、(なみだ)を流している。


「先生も、いつもありがとうございます。私、もう大丈夫みたいです」

「そうかそうか。良かった……。()くなったご両親(りょうしん)心配(しんぱい)していたからね」

「ステラのご両親は、もういないのか?」

「そうなの。私ね、一人(ひとり)ぼっちなの」



「じゃあこれからは、おいらと二人ボッチだな!」


 聖獣は笑いながら青い炎を()き出した。


「ふふふ。ありがとう、ねえ。きみのお名前は?」

「何を言うんだい」

「そうじゃよ、ステラ。聖獣は自らの名前を()たない。成獣(せいじゅう)となって召喚され、初めて召喚者に名付けられるその日まで、ずっと名無しなんじゃ」

「そうなんですか! どうしよう、責任重大(せきにんじゅうだい)ですね」


 ステラは困った表情を浮かべると、聖獣の頭をゆっくり(いと)おしそうに()でた。


「私、(がく)もないから。名前なんてつけられないの。先生、何かありませんか?」

「いや、契約上(けいやくじょう)は召喚者が名付ける決まりになっている。召喚士であるステラが、名付けなくてはな」

「……笑わない?」


 ステラは不安(ふあん)そうに、泣きそうな顔のまま聖獣に(たず)ねた。どうやら名前の候補(こうほ)はあるようだ。


「笑わない! 伝説(でんせつ)星獣(せいじゅう)のような、かっこいい名前にしてくれ!」

「ええ! どうしよう、そんなたいそうな名前……」


 聖獣は(むね)()りながら、また青い炎を吐き出した。


「あのね。すごくね、青くて素敵だなって思ったから……」

「ああ、おいらの毛並みは抜群(ばつぐん)だろう? 自慢(じまん)なんだ!」

「だから……。その……」

「うん!」


 聖獣は待ちきれんと言わんばかりに前のめりだ。



「ブルー」




「え?」

「ブルーで、どう?」

「…………ブルー」


 聖獣は聞き返しながら、わなわなと(ふる)えだした。ステラは(おび)え、ルートヴィッヒが(たて)になろうとした瞬間(しゅんかん)だった。


「すっげーかっけえ名前だ!」

「え」

「ブルー! おいらは今日からブルー!」

「え。あの……」

「ブルー! ブルーだ! おいらはブルー♪」


 聖獣ブルーはご機嫌(きげん)になり、青い炎を吐き出しまくっていた。あっけらかんとした表情(ひょうじょう)()かべ、ステラとルートヴィッヒは見つめあって笑いあった。ブルーもまた、そんな二人につられ、大笑いした。


「目指せ、星獣! おいらはブルー!」


 この日、ブルーは晴れて召喚獣となった!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ