10
ルイス様はその場に膝から崩れ落ちました。
「ごめん……フェリアンナ……ぼくは、君ではない人を愛してしまった」
地面はまだ揺れています。
私は壁に手をついて体を支えました。
と、その足下にイリアの石が転がってきました。
どうやらこの地震で、イリアが石を落としたようです。
私はほとんど無意識のうちにそれを拾い上げました、
「え」
その瞬間、真っ白な光が私を覆いました。
「は?」
驚いて声を上げたのはイリアでした。
そして私は――
石から記憶が流れて込んで。
全てが頭のなかで繋がっていく。
そう、私は七色の石を持って生まれてきた。
そして王妃によってすぐに奪われたのだ。
同じ年に、『石なし』として生まれた姉イリアのために。
私は魔力を封じられ、姉の代わりに『石なし』として生きてきた。
さらにその前……その前は……。
ハナ・アリアナとして生まれる前、いわゆる前世において。
私はフェリアンナという名の、ある国を追い出された王族の娘だった。
そして一人の男性と恋に落ちた。
それは、
「ルイス」
名前を呼べば、彼は驚愕の表情をこちらに向けていた。
ああ、そうだ。
全て思い出した。
それはいまから八百年前。
私はフェリアンナとして、彼に出会った。
彼は神にも等しい魔力と長い寿命を持つ、特別な人間だった。
その時代、偶然か神の意図か、彼と同じ特別な魔力と寿命を持つ人間が七人いた。人々は彼らを恐れて神の遣い――竜人と呼んだ。
私はそんなルイスと出会い、恋に落ちたのだ。
『ぼくといると、君を傷つけそうで怖いんだ……ぼくの力はあまりに大きいから』
『そうね、私の心もあなたよりずっと広くて大きいから、あなたを傷つけちゃうかも? 私たちどっちもどっちね』
『……』
そうそう、そんな会話もしたんだった。
彼は私に結婚を申し込んだ。
しかし、その約束が果たされる前に、私は命を落とした。
ルイスの力を恐れた人々から、彼を守る為に。
『君が生まれ変わってくるのを、ぼくは待っているから』
他の竜人たちは長い寿命を持っていたけれど、次第に生きるのに疲れて大地の底で眠りについた。
けれどルイスは眠らなかった。
彼はフェリアンナの父に国を持たせてやると約束した。
そして、その国全体に魔法をかけた。
フェリアンナの魂が再び国の王家に生まれてくるように。
その魂には七色の石を持たせるように。
ルイスはフェリアンナの父といくつかの契約を結び、この土地でフェリアンナが再び生まれ変わるのを待ち続けていたのだ。
長い時のなかで、王家のなかで彼との契約が形骸化しても。
何年も。
何百年も。
彼はこの深い森の中で、ただ一人フェリアンナが生まれ変わってくるのを待っていた。
あの地下室に置かれていた日記は、フェリアンナのものね。
彼との日々を綴った日記を、彼はきっと心の支えにしてきた。
その長い時のなかで、彼は臆病になってしまったのだろう。
生まれ変わった恋人がどんな人物か。
自分は彼女を再び愛することができるのか。
彼女はまた自分を愛してくれるのか。
その愛は彼女にとって真の幸せをもたらすのか。
「ばかなひと」
「フェリアンナ……いや、ハナ!」
ルイスが私を抱きしめる。
「ぼくはなんということを! 君がフェリアンナの生まれ変わりだと見抜けずに、ひどいことを……剣まで向けてしまうなんて!」
「そうですね……そこはしっかり反省してください」
でもね、本当は嬉しかったの。
ルイスは『フェリアンナの生まれ代わり』より、『ハナ・アリアナ』を愛してくれたということでしょう?
だから……しばらく反省しているのを見たら、許してあげようかな。
その後。
イリアはすぐに王宮に連れ戻された。
そしてルイスは家出……もとい、国を出奔してしまった。
『ごめん、君に合わせる顔がない』という言葉と、公爵家の家財産は全部私に譲るとだけ書き残して。
私を冷遇したこと……なにより、一瞬でも剣を向けた自分を許せなかったよう。
すると、この国を守っていた魔力が大気から消え、多くの人間が突如として魔法を使えなくなったのだ。
その間にアリアナは大国ヴォルデスに攻められ、私の父も、王妃もイリアも捕らえられた。彼らは敗戦国の王族としての末路を辿ることだろう。
私はというと――。
「ルイス様、私はもう許しているから、そろそろ反省をやめてくださいませんか?」
「無理だ……ぼくは自分を許せない」
公爵家の財産を資金に旅に出て、旦那様を見つけたのは良いものの。
地の底よりも深く反省し続ける旦那様に少々手を焼きつつ。
幸せにこのハナ・アリアナの生涯を終えたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
元々は長編で考えていたお話です。
いつか長編で書きたいなあと思いつつ。
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ありがとうございました!
(すみません、ヒロインが国に残りたい理由書くのを忘れてました。ヒロインは前世の記憶から、よく夢を見ていて、この土地で会わなければならない人がいると思っていた、という感じでした!明日にでも時間ができた時に追記してこれは消します!ごめんなさい!)