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転生先は自作漫画の世界!?  作者: 宇野田莉子
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歳の差

 乾燥した肌。血色がない唇。ただでさえ腫れぼったい瞼は、青いクマが広がっている。

 今更色々塗りたくったところですぐに回復しないのはわかっているけど、先月デパートへ行ったときにおすすめされて買った、基礎化粧品をたっぷりと肌に乗せる。さっきよりは瑞々しくなった肌。しかし常に丁寧にケアしているわけではないので、疲れ切った肌には一時の潤いに過ぎない。


『あー、嫁? 大丈夫。寝たばかりだから。それよりもさ、次の打ち合わせどこにする? 田辺さんがこの前アップしてた、あの店が気になってるんだけど』


 きっとあの会話も疲れていてウトウトしていたから聞こえた幻覚なのかもしれない。

 

『そうそう、鰻の店。連載も決まったし、お祝いで行きましょうよ。楽しみにしてる。じゃあまたメールしておいて』


 徹夜明けで布団に潜り込むと睡魔はすぐに訪れて、すぐに夢の中へと旅立った。しかし疲れ過ぎて深く眠れていなかったのか、喉が渇いたなと目が覚めたとき、夫の喋る声が聞こえた。テレビの音に混じる、少しハイテンションな夫の声。聞こえないようにと気をつけているのか小声だが、それがやけに大きく聞こえた。

 疲れ過ぎたからと片付けたのが先週の火曜日。

 そして今日。夫のパソコンを開くとチャットページのやり取りが開きっぱなしになっていて自然と目に入ってしまった。


『この前はご馳走様でした。勇さんの担当編集になってから嬉しいことばかりで幸せです。今度はよければうちに来てください。奥様にはバレないようにしてくださいね』


 可愛い三毛猫のアイコンを使っているのは、漫画家をしている夫の担当編集の田辺さん。最近担当になったばかりで、ピンクのワンピースにニットのカーディガンが似合う、線の細い子だ。私は夫のアシスタントをしているので、田辺さんの名前やアイコンも知っている。


『とんでもない。帰りは遅くなったけど大丈夫? 次は連載開始祝いでも行きましょう。菜摘ちゃんの家も楽しみだな。それと次回作のプロットです』


 信じられなかった。自分の夫と編集者が隠れてご飯に行っていること。下の名前で呼び合ってること。なにより、そんな会話をしながら仕事の連絡も一緒にしてしまう、非常識な夫のことも。

 夫の勇くんはお風呂に入っている。締切明けのお風呂は長風呂するから、今日もきっとまだ上がってこないはず。

 チャットの画面をスクロールさせると、約半年前。田辺さんが担当編集に変わってから徐々に砕けた会話になっており、月に数度、打ち合わせというより密会を疑うような食事に行っているようだ。

 混乱する頭とは別に冷静にチャット画面をスクリーンショットし、自分のメールアドレス宛に送っておいた。もちろんそれらの操作がバレないように、送信箱やゴミ箱も空っぽにした。

 そして長風呂を堪能した勇くんと入れ替わるようにしてお風呂に直行したのがさっき。


「やっぱり年齢? それともやっぱり日々弛んでるからかな。だからって浮気していいとは限らないよね。でもあれって浮気に入るのかな」


 保湿クリームを贅沢にたっぷり塗りながら、鏡の前で自問自答を繰り返す。

 デビューしてから三年、やっと長期連載まで決まった夫の勇くんは二五歳。対して私は一九歳のときに漫画家デビューしたものの、レギュラー連載はしたことがなく、短編や広告漫画などで細々と稼いでいる漫画家とも呼べないような二十九歳。勇くんとの歳の差を紛らわしたくてそういってるものの、来月の誕生日を迎えたらもう三十歳になる。


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