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③2人の約束、1人の誓い-1

ここから3話目です。

7月前半までに終わらせるのを目標にします。


【※書式変更のお知らせ】

 3話目完了後の訂正を見据えて、文章の形式を変えました。

 コロコロ形式変わってしまい申し訳ございません。

どの書き方が読みやすいか模索しております。


 訂正時に統一します。

 悪魔との2度目の戦闘。街を巻き込んだ大立ち回りで、多くの建物が破壊された。特に住宅街は大半の家が住めるような状況ではなく、避難した人々も重傷者以外は市場に臨時で張られたテントで過ごすことになった。


 それでも幸いなことに、死者は出なかった。

 

 これについては、色々な人達のおかげだ。多くの重傷者を治療し、悪魔シオニーとの戦いで攻撃を防いだサラ。住人の避難と治療、そして俺が到着するまで足止めを行った駐在兵の人達。そして、そんなサラや駐在兵かれらを支えて、治療をサポートした街の人々。何か一つでも欠けていたら、大惨事になっていた。



 その日の夕方、駐在所に着いた俺たちは倉庫へ案内された。庁舎の中もあちこち壊れていたから、仕方ないだろう。

 臨時で置かれた机と椅子には俺達3人が並んで座り、駐在さん特製のリンゴのジュースが置かれていた。ジュースを口に付けると甘酸っぱい林檎の味と匂いが口の中に広がった。


 倉庫の扉が開くと駐在さんが入ってきた。あちこち包帯を巻いており、義足もシオニーに壊されたらしい。予備の義足には不慣れなようで、アズルさんに支えられ歩いている様子だった。まぁ、俺も全身包帯だらけなので、人のことは到底言えないのだが。


(ちなみに、サラの魔力が残って無かったので、駐在さんと俺の治療は医療兵の人達が全員で行ってくれた。同時に、駐在さんはアズルさんから、俺はパメラという金髪の医療兵から、それぞれ()()()()絞られたのだが、それはまた別の話だ)


 駐在さんが席に座ると、俺はポーチから昨晩のことの書いた報告書を取り出して、机の上に置いた。駐在さんとアズルさんはしばらくの間、黙ってそれを読んでいたが、やがて、顔を上げて駐在さんが言った。

 

「なるほど。君が、コトネスちゃんだね」


「は、はいっ!!」少女が緊張した面持ちで答えた。


「あれだけの大穴をキミ一人で……道理で彼らも血眼になる訳だ」

 

 駐在さんが頷いた。報告の中で大声の針使いは「ナイフが頭に当たって重傷を負った」と説明した。今日の襲撃に居なかった以上、"山を消した"あの魔法に巻き込まれたに違いない。しかし、この場には少女もいる。自分が人を殺したかもしれない、と聞けばどれほど動揺するか解らない。あらかじめサラには相談しておいたし、報告書にも嘘の説明をすることを書いておいたので、特に触れられることなく話が進んだ。


「すみません、もっと早く報告出来れば、悪魔の襲撃に備えられたのですが……」


「貴方が目を覚ました直後に攻め込まれているのよ。自分を責めないで」


「そうだよ。皆無事だったんだし、まずはそれを喜ばないと!」


 サラが俺の腕をギュッと抱きしめて言った。駐在さん達の前だし、正直恥ずかしいのだが、あれだけの大立ち回りをやった後だ。少しくらい、やりたいようにやらせておこう。


「……とはいえ、すぐに対策をしなければならん。敵はまだ、諦めてはいないだろう」


 駐在さんが渋い顔で布袋から何かを出した。それは"カツン"と音を立てて、テーブルの上を転がった。


「これは……、蝿士団ゼブルナイツの隊章っ!」


ゼブル……? な、何でしょうか、それ?」


 驚きの声を上げた俺に対して、コトネスが首をかしげる。


「大悪魔ベルゼブブ直下の精兵だねぇ〜。無茶苦茶強いって話だよー」サラが答える。口調は緩いが、口の端がひきつっているのが解った。


 狗使い(ログア)水晶使い(シオニー)も並大抵の相手ではなかったが、蝿士団ゼブルナイツであれば、納得するしか無いだろう。


「ねぇ、だったらさ、他の街に応援を頼めないのかな?」


「……すぐには来れないでしょうね。通信設備が壊れて、状況の報告も出来ていないわ」


 アズルさんがため息を付いた。


 そもそも通信術には特殊な技術が必要で、更に言えば、その()()もせいぜい数km程度である。そして、街同士といった長距離の通信を行うには、専用の設備が必要だと聞いた。今はその設備が壊れている、ということだろう。

 

「設備自体は隣の"モスクレム"にも有るから、数日あれば、援軍要請は出来るだろうな。……しかし、蝿士団ゼブルナイツ相手では、軍団の支部では対応出来ん。かといって、本部から人員を送る場合、急いでも1か月は必要だな」


「い、1か月!? そ、そんなに遠いのっ!?」サラが目を丸くした。


「単純に遠いのもあるけれど、何より人手が足りないから、調整と準備に時間がかかるのよ」


「……本題に戻りましょう。それで、駐在さんとアズルさんは、援軍が来るまでの間、この街で耐えられると思いますか?」


「それは……っ」

「……」


 俺の質問に、駐在さんもアズルさんも黙ってしまった。俺は机の上で両手を組んで、その様子を見ていた。

 考えるまでもなく、結論は出ている。たった1度の襲撃でここまでの被害が出たのだ。装備や食料もログアが放った火で燃えて、大半が失われている。そんな状況で1か月間耐えるなんてことは、到底無理な話であった。


 今のまま戦えば、次は死者も出る。最悪、街にいる人達も含めて、皆殺しとなってもおかしくはない。……であれば、どうするか。それも、答えは出ていた。


「俺達が彼女を本部まで連れて行きます。それなら、もっと早いでしょう」


「なっ」


 駐在さんが目を見開いて驚いた。身体をわずかに震わせ、机の上に置いてあったコップが音を立てて揺れた。それと同時に、隣にいたサラが不安そうにこちらを見て、机の下で袖を掴んできた。


「定期礼拝を少しの間休みにして貰うが……良いよな?」サラの手を握り返して言った。


 一緒に戦うって、約束したんだ。今更、()()()()言うつもりもない。どんなことがあっても、最悪、サラだけは生きて帰れればいい。


「ま~ったく、ボクのことまで勝手に決めちゃって。も~仕方ないな〜。キミからの頼みだもんねぇー。聞いてあげるよー、あ~、優しいな~ボクはぁ~」


 サラはそれを聞いた途端に調子に乗って、にやにやとからかってきた。

(つねってやろうか。頬っぺだ頬っぺ)


「ま、待ち給え。いくらなんでも危険すぎる!! 早くなると言っても、せいぜい数日だろう!?」


「少女を守るのが目的なら、悪魔が手出し出来ないように戦力を揃えてしてしまえば良い。だから、本部と連絡が取れた後は、場所を決めて、援軍との合流します。そうすれば、かなり期間を短縮することが出来ます」


「だとしても……シロ君達だけで、戦えるのかっ!?」


「今まで俺が見た悪魔は3人。他に戦力があるなら、今日の襲撃に参加しているはずです。それだけあれば少女を確保出来ると考えていたんでしょう。……でも実際には少女は悪魔の手に渡っていないし、3人とも負傷している。悪魔からすれば態勢を整えなきゃいけません。だから、その前に動けば、実際に俺達が少女を守る日数は、かなり少なくなるはずです。……如何でしょうか?」


 一通り話した後、リンゴジュースを飲んで、軽く息を吐いた。サラは感心したように、小さく拍手をしている。駐在さんは俺の意見について考えているのだろう。腕を組みながら黙って、じっとこちらを見ていた。


「……解った」しばらく考え込んだ後、駐在さんがしぶしぶ頷いた。


 この人も真面目で責任感の強い人だ。この決断をするのに強い葛藤があっただろう。それでも、駐在兵として、街を巻き込まない決断をしてくれたことに、今は感謝するばかりだ。



「ただし、1つ条件がある。駐在兵われわれの中から、誰か連れていくんだ」


「えっ!?」 感謝したのも束の間、駐在さんからの提案に、思わず声が出てしまった。


「驚くことじゃないだろう。君の作戦は本部の軍と連携することが前提だ。で、あれば、誰かしら軍人が居た方が話が早い。違うかね」


 俺の提案に基づいた話である以上、こちらも反論が難しい。しかし、サラ程ではないにせよ、危険なことに巻き込みたくないというのは、誰であっても同じだ。もっと言ってしまえば、駐在兵の人達は俺達2人と比べれば、かなり実力で劣っているのも事実だ。下手に連れて行っても戦力になる保証はないし、死んでしまうことだって充分あり得る。


「で、でも、志望者なんて居るんですか」


「アイオスやパメラ辺りは行くと言うかもしれん。……誰も居なければ、私が行くさ」


「そ、それはお止め下さいっ!! 駐在長!!」黙って成り行きを見ていたアズルさんも、流石に駐在さんをたしなめた。


「だがな、アズル!! この一大事を民間人に任せきりと言うのは、論外だろう!! そもそも我々軍人というのはな……」


 駐在さんがそこまで言いかけた段階で、倉庫の扉が大きな音を立てて開いた。


「……心配御無用。自分がシロのぼんさん達に着いて行きますよ」


 音に驚いて入り口の方へと顔を向けると、長身の男が中に入って来た。

 魔銃を肩にかけ、藍色をした駐在兵の隊服にフード付きの外套を羽織っている。淡い茶色の髪が片目を覆い、もう片方の目は半開きの状態だった。一見すると眠たげな様子に見えたが、すぐにそれは、蛇のようにこちらを伺っているのだと解った。


「キノハナ上級兵っ! 貴方に入室許可はしていませんよ!」アズルさんが珍しく苛立ったように言った。


「……失礼、何やら怒鳴り声がしたもんで、もめ事かと思いましてね。仲裁しに来たんですよ。()()としてね」


 男はアズルさんからの追及に表情一つ変えずに答えた。そして、誰に確認するでもなく、置いてあった椅子を持ってきて、テーブルの横側に座った。


「どうも。こうして話すのは初めてですね。自分ジブン、あちこち引っ越しとったもんで、言葉が混ざっとるんです。聞きづらいかもしれませんが、ご容赦を」


 テーブルの上で両手を組むと、ニヤリと笑った。この男とは関わることがほとんど無かった。しかし、独特のイントネーションでべらべら喋ることと、この辺りでは聞かないような名前をしていることから、名前はよく覚えていた。


「確か、樹之華キノハナ 沖延オキノビさん。でしたよね」


「ええ。大層な立場でもありませんて、"キノ"とお呼び下さい。敬語も要りません。宜しくして下さいな、シロのぼんさん」


「……解りま……解った。だったらまずは"ぼんさん"呼びを止めて貰おうか、キノハ……キノ」


「ええですよ。徐々に慣れていってくれれば。自分も口癖なもんで、しばらくご容赦ください」


 右手で頬杖をついて、左手は顔の横で"ひらひら"と振っていた。皆が真面目な話をしているというのに、何なんだ、この男は。アズルさんが苛立つ気持ちが良く解った。


「キノ。今まで何処に行っていた?」駐在さんがキノに問い詰めるように聞いた。


「ご命令通り、通信設備の状態を見に」


「それは朝に出した命令だろう! その後だ。街が襲撃されたときに何をやっていた!!」


 駐在さんの様子に動ずる事無く、キノは淡々と続ける。


「詰め寄らんで下さいな。自分、近づかれると弱いって、知っとるでしょ?何ぞメラメラ燃えるワンちゃんに追われて、逃げてたんです。ずっと」


さぞ苦労した、と言わんばかりに話すキノの腕にも包帯が巻かれていた。それでも、他の駐在兵と比べると大分マシだ。


「グルヴー駐在長。減らず口に付き合うだけ時間の無駄です。キノハナ上級兵。私には、貴方がシロ君達に着いて行くと聞こえたのですが、まさか聞き違いではないでしょうね?」


「ええ。ぼんさん達、この嬢ちゃん護衛して運ぶんでしょ? だったら、自分もそれに着いて行く。そう、言いました。あ、自分もジュース、貰いますよ」


 そう言って、キノは得意げに駐在兵用のポーチからコップを取り出して、ジュースを注ぎ始めた。


「……随分と余裕だねぇ、()()()さん? 別に僕たち、貴方を連れてくなんて、決めた訳じゃないんだけど!」


「随分、お洒落な呼び方ですね。サラのじょうさん。ご心配せずとも、ぼんさんは自分を選びますよ」


 サラが苦々しい顔で、わざとらしく言った。キノは気にせずジュースを飲み干すと、ぺろりと口の横を舐めて、言った。


「自分は()()()です。そして、この街にいるもう一人の通信兵は、昼間の戦いで重症を負ってます」


「……っ!」


「ここまで聞けば、解るでしょう?」


 俺の表情が変わったのを、この男は見逃さなかった。

 駐在さんがさっき言った通り、今回の作戦では本部の軍と連携することが前提になる。本部と連絡がしやすいようにしておけば、悪魔の出方に合わせて合流地点を変えたりと、臨機応変対応出来るだろう。

 

 現地に通信兵でも同じことが可能だろうが、毎回協力してくれると限らない。

そして、それ以上にそいつが悪魔に内通していたら、作戦が筒抜けになってしまうだろう。そう言った意味では、通信兵というのは、今一番連れて行きたい兵士であった。


「……確かに、俺もサラも通信術は使えないからな。そういう意味じゃ、貴重だ」


「でしょう?」キノが再び、ニタリと笑った。見透かすような物言いに、少し腹立たしさを感じた。


「でもさぁ、悪魔との戦いからは逃げた癖に〜。いきなり今になって一緒に行くって、変だよねぇ」


 サラがキノを指差して、言葉を続ける。


「それこそさ、今の時点で悪魔に裏切ってるとか、あり得るんじゃないのー!?」


「その心配は無い」サラの指摘に、駐在さんが間髪入れずに反論した。


「……えっ!? グルヴーさん、庇うのっ!?」


「物言いや立ち振舞いはいい加減だが、命じた職務は遂行するし、不正の類は行ったことがない。……その点は、私が保証する」


「でも、さっきは悪魔と戦わなかったって……」


「"悪魔と戦え"という命令が無かったですから」男はあっけからんと言った。


「ただ、感謝しますよ、グルヴーの旦那。ちゃんと、見ておられますね」


「……自分で言うことではあるまい」


 使える魔法だとか、他にも確認したいことは色々とあったし、()()()()()()()()()という懸念はあるものの、現時点ではこの男以上の適任者は居なかった。他に探そうとすれば、時間がかかってしまうだろう。


……もっと言えば、この男が死ぬ分には、他の人達よりかは、悲しまなくて済みそうだ。(勿論、見殺しにはしないだろうが)


 駐在さんの方を向いて、言った。


「駐在さん。キノを連れていきます。それで、貴方の条件も満たせるはずです」


「えぇ~っ!?」それを聞いてサラが声を上げた。


「嫌なら来なくても良いぞ」


「それはもっと嫌っ!コトネスちゃんが可哀想っ!」


 サラがコトネスに抱きついて言った。コトネスは何も言わずに縮こまったままだ。


「大丈夫? コトネスちゃんも嫌なら嫌って言って良いんだよ!! こんな細目で方言使って、胡散臭い男、信用出来ないー!! って言って良いんだよ」


「………お前の言いたいことだろ、それは」


「随分な物言いですね。ま、皆さんからすればそうでしょうが……」


「わ、私は……そのっ……。お父さんのところに戻れるなら、皆さんが決めたことに……従いますので」


「み、味方がいないっ!!?」


「……それでだ、シロ君!いつ、出発する?」


 わちゃわちゃと騒ぐ俺達に駐在さんが大声で聞いた。


「す、すみません……。えっと、今晩準備をして、明日の朝には」


「解った。アズル。備蓄品で焼けずに残ったものがあるはずだ。見繕って、可能な限り渡してやれ」


「はい、ただちに」アズルさんはそう言うと立ち上がり、倉庫の出口から出ていった。


 俺達も戻ろうと、サラとコトネスに目配せをした。3人で立ち上がった瞬間、目の前に"にゅっ"と、細長い手が差し伸べられた。


「宜しく。シロのボンさん、サラのじょうさん」


後ろでキノを睨みつけるサラを背中に隠して、握手に応じる。


「そう思うなら人の呼び方から見直して……見直すんだ。キノ」


「おっと、失敬。ま、徐々に、徐々にですよ」


 男は再び、ニタリと笑った。

 その手は骨ばって固く、冷たかった。

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