1.全てのはじまり
泣いたらダメだ。ディアナは唇を噛んで前へ進む。つい早歩きになるのは、少しでも立ち止まったらそのまま膝をついてしまいそうだったからだ。それだけ今の状況は最悪だった。
今まで自分がしてきたこと全てを否定されたかのような仕打ちに耐えられるだけの力はほとんど残っていなかった。明日から何をして生きていいのか、何のために生きればいいのか、その理由すら奪われてしまった。涙を堪えるために唇を力強く噛む。もはや力技でこの苦しみを紛らわせるしかなかった。
「…?」
先程のことをなるべく思い出さないように前へ進むディアナだったが、その歩みが徐々に遅くなる。それと同時にディアナの視界も揺らいだ。自分は倒れるほど苦しい思いをしていたのか、と疑いかけて、濁っていく思考回路でそうではないと気づいた。明らかに、人為的なもので、眠りに誘われている。
「…だ、れ……なの…」
思わずそう言うも、視界も思考も上手く働かないディアナに、できることはなにもなかった。ディアナの意識がゆっくりと薄れていく。躊躇いはあったが、今の状況に抗う気力はなかった。どうにでもなってしまえ、という自暴自棄な気持ちも相まって、ディアナはそのまま抵抗もなく眠りに落ちる。
「……」
完全に意識がなくなって倒れる彼女の身体を、一人の男が抱きとめた。
その瞬間、全ての歯車が動き出した。