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貴方のファンです

今年で4年目に突入するそのラジオ番組は、声優2人でのまったりのんびりトークと毎週山のようにくるお便りだけで()っている。

一緒にパーソナリティをしているのは声優の大先輩で、異性だけどとても話しやすく、とても笑い上戸でもある人物である。


いつものオープニングの音楽とタイトルコールが流れ、最初のメールを読むために文字に目を落として読んでいる間、クククッと笑い声のようなものがヘッドホンを通じて聴こえてきた。また先輩が笑ってると、読み終えたと同時に顔を上げながら

「もう!何笑ってるんですか?」

とアクリルボードの向こうに笑顔で声を掛けたところ、キョトンとした先輩の顔が見えて

「えっ?別に笑ってないけど?」

と返された。すぐそばにいる構成作家も何が起きたかわからない顔をしていたので咄嗟(とっさ)

「あれー?幻聴だったのかなー?」

とその場を誤魔化すように言うと先輩はニヤリと笑って

「あっ!後ろに人影が!」

と私を驚かしてきた。

私はきゃっと声を上げながらバッと後ろを振り返ったが人影なんてなく、東京の夜景を映した窓があるだけ。先輩はそんな私を見て大笑いしていた。

「もー!からかわないでくださいよ。」

と抗議すると先輩は

「ごめん、ごめん。わーるかったよ。」

と軽い調子で謝ってきた。


2通目のメールは先輩が読み、

「ラジオネーム“貴方のファンです”さんからです。誰のファンなんでしょうねー?」

とにこやかに私に疑問を投げかけていたが、私はそのラジオネームを聞いた瞬間、遠い昔、まだ中学生だった頃の記憶が鮮やかに蘇えっていて先輩の言葉が聴こえてなかった。


中学生当時、何人かの女友だちと一緒になって同級生の男の子をからかっていたことがあり、その中の一つに、彼の机の中に手紙を入れたことがあった。その宛名に“貴方のファンです”と書いていた。

手紙の中で校舎裏に呼び出し、まんまと校舎裏に来た彼に「あんたのファンなんかいるわけないでしょ?」といつものようにからかっていた。

あれ?あの後、どうしたんだっけ?


「おーい?聞いてますかー?」

「はいっ!」

「収録中にぼーっとしちゃだめだぞー。」

「ごめんなさい。」

「じゃあ次のメールよろしく!」 

私は、思考の海から脱出して次のメールを読み始めた。

「続いてのメールです…」

と、ラジオネームを読み上げようとした瞬間、またも笑い声が聞こえた。

「もー!また誰が笑って…」るんですか。

と言い終わる前に皆が不審そうに私のことを見ていることに気付いた。

「ねぇ、本当に今日はどうしちゃったの?」

と先輩は心配そうに聞いてくる。

「いえ、何でもないです。私の気の所為(せい)です。」

実はまだ、笑い声が聞こえているのだが、無理やり気を取り直してメールを読む。


次のコーナーに入り、先輩が変な節をつけてコーナー名を読み上げてる途中から、前よりもハッキリと

「アハハハっ!」

と笑い声がしていた。

明らかに怪奇現象か私の耳がおかしいのでは?と青褪めた顔で(うつむ)いていると、コーナー説明を読み上げた先輩が私の名前を呼んでいた。目を上げると、先輩は驚きで全開に目を見開いた状態で私、ではなく私の後ろの方を見ている。

ここはビルの30階で私の背後には嵌め(はめ)殺しの窓があるだけだ。


「う、し、ろ、に」


先輩が絞り出すように声を出すが、後ろを振り向くまでもなく眼の前にあるパーテーション越しにそれと目が合ってしまった。


窓の向こうには顎が異常に尖っていて目玉をギョロリとさせた男がいて、その男の唇が動いた。

「お前に、ファンなんかいるわけないだろ。早く気付けよ。」

窓の外にいるはずなのに耳元で囁くように声が聴こえた。

「あははは!」

と私を嘲けるように笑いながらゆっくり消えていった。


そうだ、思い出した。わたしはあのあと同級生の男子に刺されて死んだんだった。

夢だった声優になれずに…。

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