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妖異変超  作者: 青赤黄
神楽と言う女
15/39

変編4話 10月31日『不愉快』

「はぁ?」

 目の前の痩せた女から急に友達は何人いるかを訊かれて、ついつい素頓狂な声を出してしまう。

「あっ、えっ・・・・・・と、ね。あな、たに・・・・・・おっ、お友達が何人いるのかなぁって・・・・・・思っ、て」

 今、それはいるのか?

 別に答えるのはやぶさかではないが、数えるのがめんどくさいな。

「学校の全生徒とは友達になってるし、昔の友達も含めれば・・・・・・まぁ、400人は超えるかなぁ」

 その答えに、嫉妬どころか横の女も唖然としたようで、私も改めて考えて多過ぎるなと思う。

「そっ・・・・・・れは、いいなぁ」

 口調が変わる。

 いいなぁと、自分で聞いておきながら、私の言葉に嫉妬して、憎悪を募らせ、目を細めてこちらを見る。

「ほんっと、そのやり方どうかと思うわ」

 仲間の言葉すら聞こえていないような、そんな狂気に目を染めて、自給自足の憎悪は膨れ上がってゆく。

「いいなぁ・・・・・・いいなぁ・・・・・・いいなぁ・・・・・・」

 狂気を隠さない嫉妬は、呟き、短刀を握りしめている手を頰に当て、

「なんで?」

 自給自足の憎悪は容量一杯にまで溜まり、決壊する。

「なんでそんなに、あなたは友達がいるの?なんでそんなに。私は1人だけなのに、奇異ちゃんだけなのに」

 奇異?

 そんな特殊な名前を持つ人が2人もいるとは思えないのだが、とりあえず、聞いてみるか。

「ねぇ、あなた妹の朝金畏怖のこと、どう思ってる?」

「偽善だけを振り撒いて、不幸なあたしを慰めてる自分に酔ってる。

 凄くいい悪意を持ってるあたしの大好きな愚か者」

 隠す気はないのか、すぐに答えてくれはするが、どう贔屓目に聞いても仲が良かったとは思えない評価だ、でも、理由は知ってる。異形狩りの畏怖を調べた時の資料に姉のことも書いてあり、そこで理由は知った。

 今の彼女が異形狩りの中で『悪意好き』と言われているということも知っている。

「ねぇ!なんであなたが私の友達と話しているのよ‼︎なんであなたは私の友達を取ろうとするのよ‼︎あなたにはもうたくさん友達がいるでしょ⁈なのになんで私から友達も取ろうとするのよ⁈ふざけないで‼︎私の友達を、羽刃有無(うばうな)‼︎」

 叫ぶと同時に投げた無数の羽が、空気抵抗を受けるより先に刃となり、刃の当たった場所に有ったものが無くなってゆく。

 これは私の能力では無いか。

変無(かむ)

 だから、全ての変わったものは、この言葉で無かったことにできる。

 刃が羽に戻り、軽く面積の広い羽根は、空気抵抗を受けて勢いがなくなり、ヒラヒラと嫉妬と私の間に落ちてゆく。

「なんで、なんで当たってくれないのよ!あなたはいっぱい持ってるでしょ⁈安心できる家も‼︎美味しい食べ物も‼︎あったかい寝床も‼︎ものを買えるだけのお金も‼︎内臓も全部揃ってて、頭だって悪く無いし、顔だって私より可愛いし、きっと彼氏とかもいるんだ、大事にされて愛されているんだ、良心もあって両親もいて、誰からも蔑まれないでバカにされないで、石も投げられたこともないんだろうし、お金欲しさに体を売ることもないんだろうし、誰かに殴られたことも売られたこともないんだろうし、腕を切り落とされたことも目玉も抉られたことないんだろうし、爪を剥がされたこともないんだろうし、骨を砕かれたこともないんだろうし、泥水を飲んだこともないんだろうし、腐り切った肉を食ったこともないんだろうし、数ヶ月一緒に暮らしてた子と体を食い合ったことなんてないんだろうし、誰かになりたいと思ったかとなんてないんでしょ?」

 熱くなっていた頭が冷め、それでも冷静になることなんてなく、むしろ狂気は増して、五体満足の体で腕がなくなったように、爪を剥がされたように、目を抉られたように、誰かと食い殺しあったように、嫉妬はいう。

 そして、その嫉妬の言葉は当たっている。

 私の能力なら、どんな食べ物でも出すことができるし、あのクソババアのクソみたいな援助のおかげさまで、私の能力が通じる漢字が出るまで私は産まれてなかった。

 だから、一切の不便なく私は過ごしてきた。

 だが、長生きしている分、私はいろんな不幸を見てきた。

 彼女の言った不幸自慢が全て本当なことであれば、なかなかな不幸ではある。

 それがどうしたと言わざるを得ないが。

 そんな不幸を味わっておきながら、憎悪を募らせることなく、むしろ自分に不幸を与える存在に対して好感を持ってしまう存在だっている。

 隣にいる奇異がそうだが。

 だから、いちいち自分と他人を比べて不幸自慢をしている嫉妬に対して、少し腹が立つ。

 神楽と一緒にいる時間を邪魔されたというのが大体の理由なのだが。

「ふふ、いいでしょ?この嫉妬、こいつの本名はね、こいつがいた世界では無駄な命って意味なんだよ、そんなクソみたいな名前つけられりゃぁ、私の大好きな悪意をあんだけ振りまくよなぁ」

「あっそぉ、別にあんたらの不幸自慢も悪意好きもどうでもいいから、私は嫉妬さんにに何をあげればいいのかしら?」

 嫉妬がわざとらしく首を傾げて、不思議そうな顔を作る。私が質問することが予想できなかったような顔で「私が欲しいのは」と流暢に話す。

「あなたの命、それか体」

「うわひでぇ、殺されたく無かったら股開けってか?最低だわぁ」

「えっ、い、いや、ち、違・・・・う・・・・・・よ」

「その言い方だと信用できない」

 うぐぅと呻いて、上げていた顔を下げ、地面に短刀が付く。

 そして何の抵抗もなく、短刀が地面に沈んでゆく。

「ま、いぃいやぁぁぁ」

 嫉妬が言って、

 跳ぶ。

 体勢は低く、ナイフの刃は地面の抵抗を一切受けず、なめらかに滑り、一瞬で目の前に来て、体を逆袈裟に切り裂かれる。

 だが、私は『治師鬼(ちしき)』も使えるから、すぐに治る。

 だがちゃんと皮膚が裂かれ、肉を斬られ、骨を断たれ、内臓がひしゃげる感覚があったのに、服はどこも破れていない不思議現象が起こっている。

 だから彼女の能力は生命以外の物質を透過する能力といったところだろうか。

「嫉妬の能力は、自分の見た相手の能力を完璧にコピーする能力、ものを透過するのはナイフの効果だよ」

 奇異が私の間違った結論を正しい結論に変えて、私が考えていた能力が短刀の方の力だったと教えてくる。

「ちょっと!なんで教えちゃうの!」

「だって、裏切りって、最っ高の悪意じゃない?」

 見ていて腹が立ってくる笑みを浮かべながら、堂々と味方を裏切る。

 こいつの性格なら躊躇わずに裏切るだろうなと、私でも思うのに、嫉妬は「えっ?」と声を出す。

「え、なんで?なんで裏切るの?悪意が好きなのは知ってるけど、なんで友達を裏切るの?」

 嫉妬の瞳は様々な感情が渦巻いていて、その感情はすぐには分からない。

 ただ、困惑、悲しみ、この二つが1番強いのは見てとれた。

 そして、それは大きな隙となる。

 走り抜けて、私の横を通って行ったその背中に向けて、

腐始(ふし)

 腐り始める。

 自分の体が腐り出したことを実感しながら、

強指(しし)

 強い指。

 強化した指先で、嫉妬の肩甲骨の間に刺突。

 あっさりと、指は肉を抉って、背骨をひしゃげ,肺と肺の間を通って,貫通する。

 嫉妬は,動かなかった。諦めたように,避けることを,生きることをめんどくさがったように。

 私の体は未だ腐り続けて,その腐敗は嫉妬にも影響を与えて,傷ついたところから腐ってゆく。

 私は『腐始』を解除して,『治師鬼』で体を治す。

 『治師鬼』で治すためには体液が必要だから、血液でもいいわけで、使えばすぐに治り始める。

「あー、まー、そーか」

 聞いたことのある声音。

 人が絶望しきった時の声だった。

 体が腐る痛みはよく知っている。

 それでジュクジュクと腐って行っているのに、痛覚なんてないかのように、叫ぶことも、歯を噛み締めることもなく、虚な瞳を空に向けて両手から短刀を落とす。

「そーだ、そーだ。いつも通りだ。結局私には何にもない。欲しかったものが自分のものになってもすぐに無くなって、亡くなって、安心できる場所も、美味しい食べ物も、あったかい寝床も、ものを買えるだけのお金も、全部揃った内臓も、賢くなった頭も、自分よりも可愛い顔も、彼氏とかも、大事にして愛してくれる人も、良心はどうにもできないくらい無かったし、両親も私を産んで母親は死んだし、男親はクズだし、誰からも蔑まれてバカにされて、石を投げられて死にかけたことだってあったし、お金欲しさに体を売るのだって、何回やったか覚えてないし、誰かに殴られたことも売られたことも数えきれない、腕を切り落とされたのは24回で、目玉を抉られたのは57回で、総額金貨50枚、家ひとつたつくらいの金も盗られたし、爪を剥がされたのは、まぁ私の失態なんだけど、骨を砕かれたことも私のせいだからなんも言わないけど、泥水はその味しか知らなかったら特に何も思わなかったし、腐り切った肉でも意外と食えないことはなかったし、腹下しだけど、数ヶ月一緒に暮らしてた子と体を食い合って、そう言えばご馳走様でしたって言い忘れてたなぁ、知らなかったのもあるけど」

 肺が腐っていても、遺言くらいは聞いてあげようと、『変止(へんし)』で腐るのを止めているが、やらない方が良かったかもしれない。

 その方が、すぐに死ねて楽だったのかもしれない。

「『変無』」

 腐敗を止めていた変化を、嫉妬は無かったことにする。

 止まっていた腐敗は進み始める。

「ねぇ、奇異ちゃん。恨むから、憎むから、呪うから、さっさと死んでね?」

「その悪意、大好きだよ。せいぜい恨んで憎んで呪ってちょうだい」

 グズグズと腐ってゆき、嫉妬の口の端から一筋、液体が溢れる。

「あー、もーいいよねぇー。私も悪意を持ってリークします」

「何を?」

「私たちのボスは、狂滎凶介、能力は知らない。最終目標は全生物の死」

 嫉妬の言葉に、笛の音のような響きが入り出す。

「いるのは、わぁたひふくへえ、ふにん、れぇいんおぉおくをおおえて・・・・・・・・・」

 音は小さくなって、聞き取りにくくなる。

 私のつけた傷は、直径10センチほどの大きさとなっていて、息苦しそうだ。

 口から流れる血の量は増えて、服を赤く染めてゆく。

 それでも、最後の一言はとてもらしい物だった。

「いいなぁ、生きてて」

 もしかしたら、幻聴だったかもしれない。

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