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妖異変超  作者: 青赤黄
神楽と言う女
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異編4話 10月25日『開戦数分で決着はついた』

「本当にいた、情報は正しいか・・・・・・・・・・・・これも偽善って言うのかな?」

 朝金畏怖は呟いて、ズボンのポケットからスマホを取り出して、指をうごかす。

「情報は正しい、って言うのは?」

「答えていいって言われてるから、言うか」

 誰にも聞かせる気のない呟きだっのだろが、聞こえてしまった、俺の他にも聞こえた人がいただろう、その人が最後の四天王、鋭霊割鋭(えいれいかつえ)さんに畏怖の言ったことを伝えている。

「ここに私を殺そうとしている人がいるって知らせたのは神楽だよ、私の唯一の友達。教えてくれたから、これからも友達でいられるよ」

 冷めた目と声で畏怖が言う。

 その言葉を聞いて、鳳凰さんが額に手を当てて長いため息を吐く。

 やっぱり一般人を巻き込むんじゃなかった。

 きっとそう思っているんだろうが、神楽はたとえ異形狩りに入っていても教えていたと思う。

 人とはズレてて、ある程度は公平なやつだから、きっと教えていた。

「教えてもらったって言ってたけど、その情報は少し違う、私たちはあんたを殺そうとしてここにきたんじゃない。俺たちはまず、お前がやってる悪行を、人間としてやめてくれって言いにきたんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 畏怖が冷めた目で、見下すように鳳凰さんを見る。

 なぜ自分は悪くないのに交渉なんてしなくてはいけないのかと、そう言うように。

「お前がやってるのはただの殺人だよ、それをあんたの友達とか、お姉さんとか、母親とか、父親とか、そこらへんの人は許してくれるのかな?」

 鳳凰さん、それは多分意味がないし説得できない。

 神楽はある程度公平だ、理由が殺人をするに値するものであれば、殺人でも許してしまうだろう。

 ただ、止めるように説得はするだろう。

 あれが、あんな二度と見たくないと思うようなものが、説得と言えるのならだけれど。

 そして多分、今ここに、歩いてここに向かっていることだろう。できればここに着くまでに終わって欲しいものなのだけれど。

「はあ、なんであなたは勝手に人の家庭の事情に土足で入ってくるの?あなたには関係ないでしょ?私の父さんも母さんも、お姉ぇちゃんがどこ行ったかとか、なんであんな風になっちゃったかとか、そう言うので頭使ってるから、余計使うことになって大変だろうね、私よりお姉ぇちゃんの方が優秀だし、神楽は私の話を聞いて納得してくれると思う、お姉ぇちゃんとにてるから、私の話を聞いて、納得してくれたら許してくれるよ。お姉ぇちゃんなら私の悪意をいい悪意だって言うよ」

 そう、今畏怖も言っていたが、朝金奇異と神火神楽の容姿は、痣が無いだけで双子かと思うほど似ている。

 きっとそれが畏怖が神楽を友達にした理由だろう。

 だから余計に、説得に応じてほしいし、殺すなら神楽が来ないうちがいい。

 ただ、鳳凰さんもぼたゆきさんも、細霧さんも鋭霊さんも説得が得意とは言い難い。だからきっと説得には失敗する。

「あー、確かに今の姉ちゃんなら言うのかもしんねぇけどよ。前のねえちゃんならどうなんだ?お怒るじゃねぇの?」

「そうかもしれないけど、前のお姉ぇちゃんも私の話を聞いて、理由がダメだったら怒ると思う。怒られなくとも、警察には連れてかれるだろうけど」

「なら辞めればいいじゃん」

 その持って行き方はどうかと思いますよ鳳凰さん。そんな説得で辞める人はいないと思います。

「はぁ、そんなので私が、いや、私じゃなくても、辞めると思ってるの?」

「あー、自分でも無理だとは思ってたんだけどな?それでもさ、あんまり得意じゃねぇから他の人にやらせろよって言って、他のがひたすら自論に拘ってるやつだったり、全部公平にやるやつだったり、人見知り出しすぎて初対面の人と話せなかったり、そんな奴にやらせるか自分でやるか、どっちがいい?って訊かれたらよ、私がやるしかなく無い?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは、同情する」

 長い呆れたような沈黙の末に、畏怖に同情される。

 それに「ありがとさん」と答え、「それでなぁ、次はどうしようかなぁ」と説得を半分以上諦めていることを窺わせるような言い方をして、頭をかきむしる。

 乱れた髪を手で撫でつけ、少しの間唸ってから、

「じゃーさ、純粋に質問なんだけど、お前は何を目的で男殺しまくってんのかな?」

「日々辛い暴力に悩まされてる人を救うため」

「建前だろ?それ。お前が最近殺した男は確かに自分のガキを殴ったりしてたよ?それより前のもひでぇことしてる。でも、殺すことはねぇだろ。あのガキにとっちゃ、いつも優しいけど、たまに殴ってくる程度の認識で、怖いとは思うけど大好きなお父さんって感じだったんじゃねぇの?だとすればさ、お前のやってることって救いになってんの?」

「なってる。あの子の将来的に私は正しいことをした」

「はいはい、自分に酔って誰かを救った気になって、なかなか素晴らしい頭の持ち主ですこと」

 刹那、畏怖から殺気が漏れ出し、それは多くの隊員が息を呑み、固唾を飲むにふさわしい重さであり、その中で平然と「何?お前ってメサイアコンプレックスだったりすんの?」と訊くことができる鳳凰さんがどうかしている。

 俺も動いただけで殺されるとまでは思わないが、それでも動くことには躊躇するような、そんな空気の中で、なんとも自然に会話するものだ。

 目だけを動かすと、ほかの四天王も鳳凰さんと同じで、対して気にした様子はなく、改めて格の違いを思い知らされる。

「メサイアコンプレックスって何かはわからないけど、馬鹿にするのは辞めてほしいとだけは言っておく」

「んならテメェも本心で言えよ、あんな救いたいとかはただの建前だろ?」

 鳳凰さんがポケットからタバコを取り出し、指先に灯した火で着火して口に咥え、深く吸う。

 煙を吐き、丸い円を作るという一芸を披露してから、「お前がやってるのは自己満足、姉の変化に気づけなかったことに対する後悔でやってんだろ?それかこうやって男ども殺してけば姉にひでぇことした奴らも殺せるかもって思ってやってんじゃねぇの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「何?黙んなよ。私は漫画とかでよく見るセリフを適当に言ってるだけにすぎねぇんだぜ?反論しなきゃどっちかが当たっちまったって思い込むぞ」

 鳳凰さんが一瞬見直した俺の気持ちをすぐに打ち消すことを言って、畏怖は苦々しい表情を浮かべて数十秒沈黙したのち、長いため息をついて、

「どっちも違う」

 そうはっきりと言った

「へぇ、じゃなんだよ、お前の目的は」

「私の目的は、男全員を殺すことよ、そうでもしないとお姉ぇちゃんみたいな被害を受ける人は絶対にいなくならない。だから全員殺す。何か問題ある?」

 自信満々に、自分の目的を完璧なものだと思っている雰囲気が見ているだけでも伝わってきて、目の前で畏怖と話をしている鳳凰さんが、苦々しい顔をして何を考えているのかがわかってしまう。

 あまりにも考え方が極端すぎるのだ。

 0か100しかない。

 暴力を働くものだけを殺すのではなく、全員暴力を振るうかもしれないから全員殺す。

 どうしてその考えに至ったのか。

 少なくとも、学校のテストで首位争いをしているから頭は悪くないと思うんだが。

「ああー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメだ」

 鳳凰さんが頭を掻き、タバコを吸いきり、呟いた。

「もう説得できる気がしねぇや」

 その言葉が合図となり、家の屋根の上に乗っていた1番隊の隊員のうち5名が畏怖に飛びかかる。高低差などの違いをつくり、避けられても同士討ちの危険を無くした完全包囲の斬撃。

 勇み足でしかなかったと、結果を見てから思う。

 どうやら畏怖は、首無しは。

 S級の異形の中でも人魚や赤ずきん、シンデレラよりも次上に位置する存在らしい。

 少し見えた。5人のそれぞれの武器がゆっくりと動いている間に、畏怖の頭は大太刀となり、グルリと一周大太刀を回し、再び大太刀を頭に戻す。

 その結果が、胴を切られはらわたをぶちまけて血の池となった5人の姿だ。

「私の力はね、切りたいものだけを切れる力だって教わったんだ」

 返り血を浴び、静かに冷静に、慌てることもなく冷めて目をしながら畏怖が言う。

「ほら来なよ、皆殺しにしてあげる」

「うん、来たよ、畏怖ちゃん」

 ああ、来てしまった。

 毎日聞いている声だ、聞き間違えるはずがないし、彼女の家からここまでは約15分。少し走ったり、家を早く出たのであれば、このくらいの時間には着くだろう。

 ここからはもう、戦いは起こらない。

 起こるのは、神火神楽による、説得だ。

 アレを説得と言えるのであればの話だが。

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