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妖異変超  作者: 青赤黄
神楽と言う女
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異編3話 10月25日『作戦とか守るの苦手』

 誰がこんなにあっけなく終わると思っていただろう。

 物質を透過して、どこまでも斬撃を届かせることのできる相手を、こんなにあっさりと平伏させることができると、誰が想像しただろう。

 目の前には5人の死体と、その血溜まりの中でこの状況を作り出した者が蹲って泣いている。

「結局、できなかったね。ほら立てる?」

 神火神楽が、手を差し伸べる。



「それでは、今日は私の彼女のぼたゆきからの報告だ」

 異形狩りの大規模討伐戦は、相手の情報収集の結果報告から始まる。今日は四天王の全員が集まっており、相変わらず現リーダーはいない。

 内容はなるべくまとめられた調査結果を読むだけで、大体A4用紙2〜3枚に纏められている。

 はずなのだが、今回のは10枚近くある。

「えーと、今回のは情報が集まりすぎてな、これでも纏めたんだよ。で、こっからさらに纏めたのが今から配る方だ」

 最初からそれでいい気がするのだが、そう思うが、相手が絶対に勝てない相手ですぐに手が出る人なので言わない。

「なー、最初からそっち出せばよかったじゃん」

 そんな相手に同じ四天王のうちの1人、斬駒細霧(きりごまこまぎり)さんはあっさりと言う。

「アン?別にいいだろ?ちょっとしたサプライズってやつだよ」

「嘘つけ、纏めるのもテメェの通い妻がやってっからみんなに見てほしーってことだろ?隠し事はなしでっせ」

「へーへー、そうですよー、よく分かりましたねぇ、とりあえず読むぞぉ」

 鳳凰さん、めんどくさくなったな。

 回されてきた資料を受け取りながら、そう思っていると、耳元で急に「きっとめんどくさくなったんだろうね」と囁かれる。

 耳に息がかかる感覚に、全身がゾクッと震える。声の主は、本来ここにはいないはずの存在なのだが、今回の作戦に必要不可欠なので呼ばれた一般人だ。

 名前は神火神楽。

「やめろ、せめて肩叩くとかしてからにしてくれ」

「わかった」

 耳を抑えながら囁きかえすと、ニコニコと笑いながら、神楽は俺に寄せていた体を元の場所に戻す。

 息のかかった部分から、息の吹きかかった感覚が消えず、擦ってなんとか感覚を消そうとしていると、「おーい、己龍。聞いてっか?」と、鳳凰さんに名指しで呼ばれる。

「あの、聞いてませんでした」

 言い訳はしない、そんなことしたら鳳凰さんにキレられて、斬駒さんにも叱られる。

「おーしおーし、素直でいいな、褒美として一枚目全部読め」

 これはもう仕方ない、わかっていたことだ。黙って読もう、一枚目と言ったって両面印刷ではないのだから。

「えー、『S級異形、首無し。及び、首無しの可能性のある朝金畏怖(あさがねいふ)の報告書』」

「ねぇ、S級異形って何?」

 今聞かないでくれ神楽、後で色々教えてやるから。今は罰として読んでるんだからわかってくれ。

「あー、しらねぇよな、一般人だかんな、よし己龍、教えてやれ」

 マジですか。

 まあいいさ、教えてやれって言われてるんだから教えないと酷い目にあう。

「おい、なんか失礼なこと考えてねぇか?」

「いえ考えてません。異形には等級が存在して、下からC、B、A 、Sの4段階で、S、A、B、Cの順で弱くなっていきます」

「やっぱり漫画とかでよくあるかんじか」

「まぁ、そうだな」

「どうやって強さを測るの?スカウターみたいなのがあるの?」

「それは一度相手と戦って、その報告で決める」

 へー、と神楽は納得する。できれば割り込まないで欲しいのだが。

「では、報告書に戻りますよ」

「おう、さっさと読め」

 あんたがさっさと読めなくしたんだけどね。

「首無しの出る日には決まって朝金畏怖は暮らしている家にいない。これは今までになかった人が異形には転じ、さらに自由に人と異形の姿を切り替えることのできる可能性があることを示唆していたため、調査を開始した。

 調査1日目、夜10時43分。

 朝金畏怖が異形に転じるところを確認」

 すげー速さでバレてんじゃん隠す気なかったのか?あいつは。

「亡くなった首は、大きな肉切り包丁(刃渡り3メートル弱)へと変わり、首無しの武器となった。この夜に向かったのは20キロほど離れた街のとある家につき、そこで男性1人を殺害、そして家に戻り、そのまま家から出てくることはなかった。

 殺害現場には血飛沫も何もなく、部屋のどこを調べても血痕が残ってはおらず、死亡解剖の結果、ほかの被害者同様に内臓のみを斬られて死んでいることが確認できた。その際部屋の壁も天井も、それ以外の調度も、少しも傷ついておらず、首無しはなんらかの能力を持っているものと思われる。

 この日の被害者の家のことを調べると、両親は離婚、5歳の一人娘は男親に引き取られており、男親の方は仕事で残業が多く、家でも娘の世話であまり休めず、娘に暴力を振ることもあり、ほかの被害者と同じ、女性に暴力(性暴力を含む)を振るっていたと言う特徴に当てはまる。

 ここまで女性に害を与える男性を襲っているのは、姉のことが関係していると思われる」

「うい、よくやった。んじゃ続きは俺が」

 コロコロと一人称の変わる鳳凰さんの言葉を聞きながら椅子に座る。

 隣で鳳凰さんの報告を聞いている神楽は、まるでテレビの向こうの殺人事件の話を聞いているような気楽さで聞いていた。

 だがこの話は画面の向こうの話ではなく、今までの被害者の殺された場所は、下手したらテレビに映るかもしれないほど近いのだ。

 鳳凰さんの報告は、2ページ目と3ページ目は俺たちの方がよく知っているような学校生活のもので、学校生活をしていて、たった1人の女子生徒と仲良くしていることも、学校中の男子に悪感情を持っていて睨みつけていることも知っている。

 だが、4、5ページ。

 畏怖の姉、朝金奇異(あさがねきい)の過去については知らなかった。


『朝金畏怖が首無しへと転じる理由には朝金奇異の過去が関連していると思われる。

 以下、朝金奇異の過去である。

 朝金奇異は生まれた頃から人とずれたところのある子供だった。

 冬に、火が熱いのなら、自分が燃えたらずっとあったかいままなんじゃないのかと考え、自分の体を燃やそうとして母親に止められる。それが5歳の時。

 7つの時は、公園の地面に直接寝そべって、蟻が群がってきたのを楽しみ、噛まれるまでずっと笑っていて、噛まれてからも暴れて蟻が離れてからもう一度寝っ転がって、蟻に群がられるのを楽しんでいた。

 8つの時は、家に早く帰るためにと学校の3階から平気で飛び降りるということもしていたらしい。

 そんな彼女でも顔は良く、体の発育も良く。

 そのせいで3人の男(名前は伏せる)に襲われた。

 一年前、9月11日、学校帰りに3人の暴漢に車に連れ込まれて、森の中に連れてゆかれ、そこで処女を喪失した。

 その際、1人、喉を噛みちぎって殺しており、それは正当防衛として成立した。

 発見されたのは9月13日の昼ごろで、両腕が折れ、顔も腫れ、病院に運ばれ、緊急治療室に連れてゆかれた。

 8ヶ月で完治し、PTSDも負うこともなく、退院した。

 その後は何事もなかったように学校に笑顔で登校した。

 その異常性に、クラスの全員が慣れていたため、すぐになじみ、奇異も少し怯えるような仕草を見せはしたが、すぐにそれもなくなり、何も起こらなかった頃と同じ日々になった。

 だが、日々、ズレは埋められ、ならされ、日々少しずつ恐怖はつのり、笑わなくなり、学校に行かなくなり、もともとずれていた思考は人よりずれた結論を出した。

 人は悪意だけしか持っておらず、善意に見えるものはただの偽善でしかない。

 その理屈は初めに妹に向けられ、妹の心配をただの偽善と言い、学校に行ったものの他の人にも悪意を振り撒いて帰ってくることが多く、次第に奇異を疎ましく思うものが増え、余計に奇異が自分の結論を確信してしまった。

 そして首無しが磊落高校に転校する原因となった全男子生徒を襲った理由は、奇異が人は悪意しか持っていないという自論を持ったのは周りに男がいたからだ、と思い込んだことが理由だと思われる。

 首無しの行動開始は9月28日であり、ちょうどその3日前に磊落高校3年4組の集団失踪が起こり、それによる不安等の悪感情によって、異形化したと思われる』


「えー以上が報告で、作戦は前伝えた通りな。一応確認で言っておくが、まず神火神楽に朝金畏怖を呼び出してもらい、次に交渉、決裂した時には殺す。異論は認めない」

 鳳凰さんがそう言っていたことは、5枚目の裏の朝金奇異の写真を見ていて、聞いていなかった。


 そして、10月25日。

 人が来ないように鳳凰さんとぼたゆきさんが結界を張り、その中の十字路の中心を囲むように、四天王と俺の第五部隊が隠れている。

 隠れる直前に、もし交渉が失敗して、隊員が死ぬようなことがあれば、神楽に任せる、とぼたゆきさんに言われた。

 あの人はどこまで知っているのだろうと思い、同時に交渉は成立してくれと祈ったところに、

 目標は現れた。

 十字路のの中心に立ち、周りを見渡すように、首のない体を一周させ。

「本当にいた、情報は正しいか。これも偽善って言うのかな?」

 持っていた大太刀がなくなり、顔へと変わり、朝金畏怖は呟いた。

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