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最初の夜
最初の夜がやってきた。風が無く、ただ早朝の雨が水溜りを作って、ゆっくりと大気を蒸らし、髪を触るとすこし湿っている。
牢破りの足跡は、一切見つかっていない。城内外の往来は、全て止めている。足跡を付けるのは、兵卒に配られた草鞋のみに決めてある。その草鞋の在庫も、具に確認して、別状は全く見受けられなかった。
馬の、興奮した鳴き声が聞こえた。ここから四、五里は離れている筈だった。夜半と雖、そんな声まで届くとは、異常としか言いようがなかった。
足下の草鞋が、泥にまみれて、松脂を塗りたくったような汚れようだった。指と指、指と爪の間に水気をたっぷりと含んだ土が入り込み、我身に接したところは、やや乾いた感じがあり、非常に心持ちの悪い有様だった。