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盗人
牢番が死んだ。錠前は未だ見つかっていない。秋風が耳朶を撫でて、愈々気味の悪い空気が充満していた。
「直ちに捜せ」
今更、命じても意味はなかった。今頃、捕物に躍起になっているのは、場内の男どもは皆そうだろう。彼の首には、中原の一城を治めるのに優に足りる金が懸けられている。
光芒を宿した鋭い目が、脳裏にちょっと浮かぶ。眼窩が深く、頬が痩け、乾いた瓢箪のような顔だったので、薄気味悪い妖術遣いのようだな、と思っていた。
城市の騒然の有様は、予想の通りだった。店を仕舞っても、何ら文句は言われない。最早、戦火に荒廃した時代の様と同じだった。奢侈の振る舞いを見せていた豪商も、今や、単なる小心者と変わりはなかった。肉が震え、脂に塗れて怯える様は、火が満ち空気が揺れる中に吊るされた豚を見ているとしか思えない。
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