第二話 異世界転生 2
「オススメをください」
「はいよ。ちょうど今日レッドベアーの肉が手に入ったところだよ」
レインが注文をしようと手をあげてしばらく待っていると、恰幅のいいおばちゃんがやって来てレインのメニューを受け取る。
どうでもいいことだが先ほどレインが宿に来た時は男の店主が対応してくれたことからこの宿は夫婦で経営しているのだろう。
レインはこの世界にきて始めての食事だったのでとりあえず全ておばちゃんに任せることにした。
この世界にやってきてしばらく発っているのであればまだしも、現段階ではこの世界で何が美味しくて何が不味いのかまだ把握できていないからである。
「レッドベアー?」
ただここで一つ、レインは聞いたことのない魔物の名前が出てきて思わずそう声に出してしまった。
レッドベアーという魔物をレインは知らないのだ。
仮にこの世界がGMOと同じなのであればレインはゲーム時代の知識をフルで活用することができる。
それはレインにとってかなりのアドバンテージとなり冒険をするにあたってかなり有利に物事を進めることができるのだが、先ほどおばちゃんから発せられた『レッドベアー』という魔物はGMOには存在していなかった。
「何だ知らないのかい? Cランクの魔物だよ。強いしレッドベアー自体この辺ならタラニアの森まで行かないと遭遇できないから、なかなかこの宿までレッドベアーの肉が流れてこないんだけど、今日は偶々他の冒険者が差し入れに持ってきてくれたのさ。私は冒険者じゃないからそこまで詳しくは知らないけど、かなり厄介な相手みたいだよ。てっきりあんたも冒険者だと思っていたけど違うのかい?」
「いや、僕はまだランクが低いので……」
「そうかい。それならレッドベアーの肉を食って頑張らないとね!」
おばちゃんはレインにそう言って厨房の方へと戻って行った。
「大変だ。タラニアの森って何だ? そんなものGMOには存在しなかった筈……これは一回情報をしっかり集める必要があるね。まぁ、明日は冒険者登録をしにいくんだし、そのついでに情報を集めるか。と、いうかこの街もクラメルかどうか怪しくなって来たところだ……」
レインは一人になった瞬間に、今後の予定を迅速に決めて行く。
現時点でかなり不安要素は多いが、それでもレインは冷静に今後すべきことをアイテムボックスから取り出したメモ帳にメモをして行く。
伊達に長年GMOのトップを守ってきたわけではない。こう言ったハプニングがあろうとも、レインはそこまで大きく取り乱したりはしなかった。
ちなみに、メニューの中にメモ機能はしっかりとついているのだが、まだこの世界でメニューという概念が認知されているのかわからないため、メモを取り出してそちらに記入することにした。
「うん。とりあえずステータスが低いのが1番の問題だな。明日はさっさと冒険者登録を済ましてすぐに依頼を受けていこう」
結局のところ何をするにしてもステータスが圧倒的に足りない。
レインは今のステータスでは色々と不安が残ると言う決断にいたり、明日は早々に冒険者登録を済ませてレベル上げに専念できるよう、明日の計画を立てていく。
この世界ではどうか知らないが、レインがプレイしていたGMOではレベルがたった1違うだけでかなり差ができてしまいはっきりと力の差が出るようになっていた。
技術でなんとかできることもあるのだが、基本的にそう言うプレイヤーはレベルも高いためあまり参考にはならなかった。
幸い、レインは1からレベルを上げることに特に抵抗もないため、ステータスが初期化されてしまっている今でもショックはあるが心が折れるほどではなかった。
潜在能力がGMOのレインと同等程度あることがわかった今、レインはまたやり直せばいいと開き直ることにしていた。
「お待たせ! レッドベアーのステーキだよ!」
「ありがとうございます。思っていたよりも早いですね」
「そうだね。その分、中で旦那が頑張ってるってことさ」
「そうですか。旦那さんにもありがとうございますと伝えておいてください」
「はいよ!」
おばちゃんはそう言って厨房の方に戻って行った。
「異世界の食事というから少し緊張してたけど……めちゃくちゃ美味しそうだね」
レインの目の前には厚さ5センチは優にあり、レインの手よりも大きいステーキが鉄板の上でジュウジュウと音を鳴らしてレインに食されるのを待っていた。
ただ、レインに食されるのを待っているのは肉だけでなく野菜やスープ、異世界名物の黒パンなども同じであった。
レインとしてはステーキのお供はパンではなく白米を所望したいところではあったが、そんなものが都合良く手に入るわけなく、本日のところは黒パンで我慢することにした。
「とりあえず、このレッドベアーのステーキから……」
レインはそう言いながらアイテムボックスから取り出したナイフとフォークを器用に使いステーキの一切れを自分の口に運ぶ。
「ん〜美味しい! 歯ごたえはすごいけど全くしつこくない。それに味付けも良い。こんな肉が異世界でも食べられるなんて……幸せだ」
レインはレッドベアーのステーキの余韻を楽しみつつ黒パンをちぎって1口で食べる。
「うん。こっちは普通のパンだ。やっぱりご飯がいいなー」
レインはレッドベアーのステーキが想像以上に美味しかったこともあって思わずそんなことを口にしてしまうが、そうは言いつつもステーキや黒パンを食べる手と口は止まらない。
なんだかんだで結構ハマっているレインであった。
「ふぅ、美味しかった。自分でいうのも何だけど結構舌が肥えてるから心配だったけどそれも杞憂だったね」
レインが日本にいた時は自他共に認めるお金持ちだったので、その分食材などもいいものを使い料理をしていた。
ちろん外食に行くときも一般人が行くのは憚れるようなところばっかりだったのでレイン自身、かなり舌が肥えていて並みのものでは満足できないと少し心配していたのだが、レッドベアーのステーキはそのレインでさえも美味しいと思える一品だった。
レッドベアーのステーキは高級な感じではなかったが、それでもしっかり歯ごたえがあり、しつこくもなかった。
ステーキにかかっているタレも家庭的だったがレインはとても美味しく感じられた。
きっと素材がレッドベアーだったこともあるが、それ以上に厨房で料理をしてくれた男性の腕がいいのだろう。
「これからしばらくはここでお世話になるけど食事に関しては心配なくなった。今日はお酒は控えたけど今度一度飲んでみるのも悪くないかもね」
レインはすべて食べ終わるとしばらく休憩してから自室へと戻ることにした。
まだ、陽は落ちたばかりで食堂では酒を楽しむものや純粋にここの食事を楽しむものなどたくさんいたが、レインはこれからもすることが多いためさっさと部屋へと戻ってきたのだ。
「えーっと、当然お風呂はないとして……確かタオルとかお湯は銅貨1枚で借りれるんだっけ。あとで、借りて体を拭いておこう。何もないよりかはマシだしね」
GMOにはお風呂なんてものは当然存在しなかったのであまり期待していなかったが、それでもしばらくはお風呂に入れないとなるとレインにもしんどいものがある。
レインはいつか必ずお風呂を作るぞと心に誓いながらも今日のところは体をさっと拭くだけで我慢するのであった。
「次に服装か。これもいいけどなんか魔術師っぽいしなー」
今のレインの格好はこの世界に飛ばされてから変わっていない。
魔法耐性が少しあるローブを一番上に羽織っておりその中にはいかにも駆け出し冒険者が来てそうな動きやすそうな服だった。
別にレインもこの装備に不満がないわけではないし、本当の駆け出しよりかは装備に関していえばかなり整っている方なので文句は言えないが、それでも不安は残る。
この世界では一度死んだら本当に死ぬはずである。
ゲームなら何度死んでもリスポーンできるので多少の無茶をしてもデスペナルティーがあるだけなのだが、ここでもし死ねばデスペナルティーだけで済む筈がない。
「しばらくはこれでいいか。スキルに火属性魔法があるから魔法は使えるはずだし一応魔術師を名乗れる。しばらくは面倒ごとを避けたいし冒険者ギルドに行っても静かにしておこう」
異世界生活一日目。
いきなり異世界転生という体験をし、色々と戸惑うことが多いレインであったがなんとかやっていけそうである。
レインはその後、色々とするべきことを終えて、異世界生活一日目を終えるのであった。




