第二十二話 ルナ
獣人の少女が倒れているところを発見したレインたちは一旦メイルの街へと戻ってくることにしたのだが、ここでまた一つ問題が起こってしまった。
「私の部屋は無理」
「私もちょっと見られたくないものがあるので……」
「僕の部屋は……何もないけど男の部屋に入れるのはちょっと……」
「レインの部屋で決定」
「私もそれでいいと思います。さぁ、案内してください」
どこの部屋に運ぶのかという問題に直面した三人だったがそれもすぐに女性陣二人の発言によって解決されることになった。
まぁ、レインも流石にクロナやシーナの部屋に入るのはちょっとなと思っていたので別に構わないのだが、二人の部屋に一体何があるのか逆に気になってしまった。
二人とも部屋が散らかっているイメージはないので他に何か重要なものがあるのだろうが、最近自分だけ正体を明かされそうになっていることに不満を持っているレインは少しだけ仕掛けてやろうと二人に怪しむ視線を送ったが華麗にスルーされてしまい思わずレインも項垂れることになった。
「早く案内して」
「レインさんの部屋、楽しみです」
この時のレインに発言権など無いに等しいのとあまり長時間少女を、それに獣人の子を抱いていると良からぬ噂を流されかねないと言うことでレインはため息をつきながらもクロナたちに自分の寝ている宿まで案内するのであった。
「ん……ここは?」
「お、目が覚めたみたいだね」
レインの部屋に着いてから約一時間ほどで少女は目を覚ました。
レインは自分の部屋に入る際に宿のおばちゃんから「ヤルのはいいけど程々にね。一応外には聞こえないと思うけど、三人となると分からないからね」とあらぬ誤解を受けることになってしまったが、それは一旦置いておくとしよう。
レインが否定する前になぜかクロナが「気をつけます」と言ってしまっていたので取り消すにも取り消せなかった。
「私は、確か必死に魔物から逃げて……もしかして、あなた達が?」
「うん。とりあえず僕の部屋まで連れてきたんだけど、その前に僕はレイン。君の名前は?」
「失礼しました。私はルナです。ご想像通り、私は銀狼族で人族ではありません」
獣人の女の子改めルナは見た目17歳の非常に可愛いく真面目そうな女性だった。
ルナが自分で言っていたように、ルナの種族が銀狼族と言うのが関係しているのかルナの髪の毛は綺麗な銀色でとても綺麗なストレートのようだ。
「それは知ってるよ。っと、それよりも彼女がクロナで彼女がシーナ。僕たちが三人でイツラの森を目指している最中にルナを見つけたんだけど、何があったのか聞いても大丈夫かな?」
「え、えぇ。それよりも三人とも私が獣人なのに嫌がらないのですね。正直意外です」
どうやらルナは三人とも自分が獣人なのに嫌悪感を露わにしないのが意外なのか驚いたような様子で三人のことを見ている。
レイン的には逆に異世界らしいものに巡り会えて今すぐにでも控えめなケモミミや立派な尻尾をもふもふしたいのだが、流石にそれをしてしまうと一気に嫌われかねないので、もふもふしたい衝動を必死に抑えることにした。
「そこまで嫌がるものなのかな?」
GMOでは逆に進んで他の種族でプレイしていたもの達も多かったのだが、今のこの世界では獣人をひどく嫌う人族も多いらしい。
かなり排他的な状況にレインとしても非常に勿体無いなと思うところもあるのだが、人族全ての意識を変えることが不可能に近いことだと言うのは最初から分かりきっていることなので、変に「意識改革を!」なんて叫ぶことはなかった。
「人による。嫌な人はとことん嫌みたい。私たちは全然大丈夫だけど」
「そうだね。僕も全然大丈夫だよ。っと、それよりもルナの事情を聞いてもいいかな?」
「はい。もともと私もレインさん達と同じように他の街で冒険者として活動していたのですが、ちょっと依頼に失敗して奴隷落ちしてしまって……その後すぐに私が高値で売れると考えた奴隷商人が人族の街へと運ぶ最中に魔物の群れと遭遇しまして命からがら逃げてきたと言うわけです。って、あれ首輪が……」
「かなり大変だったみたいだね。あぁ、首輪はクロナが外してくれたよ。だから名実ともにルナはもう自由だね」
「え、わ、私は自由に?」
「うん。自由だよ。もう奴隷として生活することは……」
「あ、ありがとうございます! もう一生、普通の生活はできないだろうと思っていたのですが、あ、あなた達のおかげです! ありがとうございます! 『ご主人様!』」
「ちょ⁉︎ ん? ご主人様?」
急に抱きつかれたレインは最初、ルナを引き剥がそうとしたのだが、それよりもルナが最後に発した言葉の理解が追いつかなくてレインは一瞬頭の中がフリーズしてしまった。
「はい! ご主人様です!」
「彼女は?」
「クロナさんです」
「右にいる彼女は?」
「シーナさんです」
「僕は?」
「ご主人様です!」
「なんでだよ⁉︎」
クロナのことを名前で呼んでいたところからだいたい予想はついていたが、自分だけご主人様呼びに納得できないレインは思わずそう叫んでしまう。
そして、それ以上に謎なのがあたかもそれが当然だという風に納得しているクロナとシーナの二人である。
最初、レインがルナのことをお姫様抱っこしただけで冷たい視線をレインに送っていたのにも関わらず、今はルナがレインのことをご主人様と呼んでいても全く視線が冷たくなる気配がない。
「私知っているんですよ? 途中、一瞬だけ意識が戻ったんですけど、その時にご主人様はお姫様抱っこをしてくださっていましたよね? その時に、この人に私を買ってもらおうって思っていたんですけど、もう奴隷で無くなったので、今度はメイドになります。あぁ、安心してください。冒険者としても頑張りますので。その時はパーティーに入れてくださると嬉しいです」
「ぱ、パーティーは構わないけど、その、ご主人様っていうのは……」
「だめ、ですか?」
「レインがルナを泣かせた。あーあ、ルナが可愛そう」
「ルナさん、これからよろしくお願いしますね。それで、これからどうやってレインさんに納得していただきましょうか?」
「だ、だめじゃないです。ルナ、これからよろしく」
「はい! よろしくお願いします。ご主人様」
レインから直接OKがでた瞬間ルナは先ほどの悲しそうな顔は何処にやったと思わず突っ込んでしまいそうなほど嬉しそうな顔でレイン達に再度挨拶をした。
レインもできることならルナの呼び方に了承したくはなかったが、相手に回った二人が話し合い(物理)を仕掛けてきそうだったのでレインも渋々了承することにした。
一対一なら少しは傷を負わせることができるだろうが、一対二では流石にレインでは勝ち目など皆無である。
なのでレインも早々に諦めて話を進めることにした。
「それより、さっきも話したけどこの世界で獣人ってどういう扱いなの?」
「この世界? ご主人様は他の世界から来られたのですか?」
いつもならレインのちょくちょく出てくる怪しい言葉にクロナもシーナもなんとなく察して突っ込んでくることはなかったのだが、ルナはまだそういうのを全く理解していないためいきなりレインにとっては爆弾のようなものを突っ込んできた。
レインも油断していたためいきなりのルナの発言に思わず吹き出しそうになった。
「い、いや。僕も色々と事情があってね。あまり世間の常識とかを知らないんだ」
「そうなんですね。それじゃあ私が説明しますね」
「た、助かるよ」
なんとかこの場は凌げたがルナもなんとなくレインが隠し事をしているのは察したようでいつかのクロナやシーナたちのように含みのある反応をしている。
だが、ここでは追求してくるつもりはないのか大人しくレインに現在の人族と獣人の状況について説明してくれるようだった。
「人族と獣人が中が悪くなったのは300年前の戦争が原因とされています。当時、私はまだ生まれていなかったので詳しいことはわかりませんが、文献では人族側の王様の暴走が開戦のきっかけだったと書いてありました」
「ルナの説明に間違いない。あの時の戦争は見ていて酷かった」
「え、クロナって300年前から生きてるの?」
クロナの今の口ぶりではすでにクロナは300年前から生きていることになる。
魔族や亜人種ならば300年くらい前なら確かに生きていてもおかしくないのだが、人族の寿命はだいたい100年だ。10年20年の誤差はあるだろうが流石に300年も人族は生きていることはできないだろう。
「……酷かったらしい。私も文献を読んだ」
「どうやら、隠し事をしているのはご主人様だけではないようですね。クロナさんたちにも何やら大きな秘密がありそうです」
ルナもこの会話でだいたいレインたちの関係を察したのかため息を吐きながら「これから頑張らないといけませんね」と呟いていた。
クロナは頑張って平然を保っているつもりなのかもしれないが急に一昨日レインが買った魔道書をアイテムバッグから取り出して抱きかかえており、明らかに動揺しているのが目に見えてわかった。
レイン的にはもう少しいじめてやろうかとも考えたが、自分が買った魔道書を大事そうに抱えているクロナを見ていると自分まで恥ずかしくなってきたようでそれ以上追求することはなかった。
その後しばらく雑談に花を咲かせていたレインたちは結局人族と獣人のいざこざの話を詳しく聞くことができなかったのであった。




