第二十一話 新たな出会い
「まずい、金欠だ……」
レインはメニュー画面に表示されている残りの残高を見て思わず顔を手で覆いながらため息をついた。
最近のレインは……というかここ二日のレインはクロナ、シーナの二人と一日ずつデートをして、そこで何かと勝手に見栄を張ってほとんどの店でレインがお金を払っていたためマッハでレインの所持金が減ってしまったのだ。
もちろん、二人のプレゼントもそれなりに値段のするものだったのでそこもかなり影響しているだろう。いくらイツラの森の中域を余裕で攻略することができるようになったと言ってもまだ冒険者ランクは一番下のGランクなのだ。
まぁ、そこに関してはすでにグルドマスターの方からもランクの昇格の話が出ているようなので近いうちにFランク冒険者に昇格するのだろうが、現状ではまだGランク冒険者のままなのでそこまで報酬も高くないのである。
きっとアイテムボックスの中で死蔵しているアイテムや武器を売ればすぐにでも億万長者になれるのだろうが、この世界で約二週間ほど過ごしてそれが得策ではないことは学んでいるので結局しばらくは無駄遣いを控えようという結論に至った。
レインも流石に生活できないギリギリのラインまで使っていたわけではないので、すぐにでも宿を放り出されてしまうということにはならないだろう。
「まぁ、これからまた頑張ればいいし、大丈夫か! 今日も頑張るぞー!」
レインは部屋で一人そう気合いを入れるとそのまま朝食を取るために一回の食堂へと降りていくのであった。
「「「恩人様、おはようございます!」」」
「お、おはよう」
朝食をとって準備を済ませた後、いつものように冒険者ギルドの中に入るとナウナーたちがすでに待ち構えておりレインの姿を見ると嬉しそうにしながら挨拶をしてきた。
レインもクロナとシーナに待たせるわけにはいかないので、いつも少し早めに冒険者ギルドに着くことが多いのだが、ナウナーたちはそんなレインの考えも見越してそれよりも早くこうして冒険者ギルドでレインに挨拶するためだけに朝早くから冒険者ギルドの中で待機している様だった。
「その、目立つから恩人様はやめようか」
「そ、そんな! やっぱり一度迷惑をかけてしまった俺たちでは恩人様と呼ぶのもおこがましかったでしょうか⁉︎ そ、それではもう神様と呼ぶしか……」
「お、恩人様でお願いします」
「「「わかりました! 恩人様!」」」
「はぁ……」
結局、メイルの街では結構有名な方なナウナーたち三人に敬われることになったレインは他の冒険者たちから注目されることとなり、他の冒険者たちから変な目で見られることになってしまった。
まだ朝早いこともあってギルドの中にはそこまで人数がいるわけではないのだが、ただでさえクロナとシーナという非常に可愛い二人とパーティーを組んでいて日々いろんな意味で目立っているのにここにきてまた新たに目立つ原因を作ってしまい半ばレインは諦めの境地に至っていた。
「おはようレイン」
「レインさん、おはようございます。朝から大変ですね」
「クロナ、シーナもおはよう。まぁ、慕ってくれるのは嬉しいんだけどね」
ナウナーたちと離れたレインが端の方でしばらく待っていると、クロナとシーナが二人で仲良く冒険者ギルドの中へと入ってきたので三人で挨拶を交わした。
一昨日昨日の二日連続でデートをしているため、レインはともかくクロナとシーナは「勘が鈍っているのでは?」と心配になったが、二人とも全く問題なさそうに武器を携えて今日もイツラの森の中心部で戦う気満々だった。
ちなみにレインは毎日しっかりと『練習部屋』でトレーニングを行なっているため、そこまで勘を鈍らせることなく常に戦えるようにしているので、急に戦闘が起こったとしても全く問題ない。
「二日空いてしまったけど今日もイツラの森で大丈夫?」
「うん。全く問題ない」
「私も大丈夫ですよ。レインさんは二日前よりも強くなっているみたいなので今日は出来るだけバックアップなしで頑張りましょうか」
「レインならすぐに私たちと同じように一人で中心部の魔物を対処できるようになる」
「あはは……お手柔らかにね」
というわけで今日もイツラの森で魔物を狩ることが決定したのだが、そこまでいくと本格的にGランクの依頼がないため、まだしばらくレインがナウナーたちのランクを超えることはないだろう。
別にレインも今急いで冒険者ランクを上げようとは考えていないため別にいいのだが、朝にも確認した通りそろそろ安定した収入先を考えなければいけない。
基本的に中心部で倒した魔物の素材をすべて売れば纏まったお金を得ることができるのだろうが、こちらも数を制限しないと市場が荒れるとのことで少しずつしか買取をしてくれないため、今日のレインの収入は中域までの魔物の素材のみとなった。
まぁ、中域の魔物の素材でもそこそこのお金にはなるためそこまで大きな問題になるわけではないのでレインは特に依頼を受けることなくそのまま出発することにした。
「よし、じゃあ行こっか!」
「「うん(はい)」」
ということでレインたち三人はここも訓練の一環として走ってイツラの森まで向かうことになったのだが、メイルの街から出て早10分ほどでそれも中止となった。
というのも……
「レイン、誰かが倒れてる」
「みたいだな。ちょっと急ごう」
レインたちがいつもイツラの森に向かうために使う道に倒れている人影が見えたのだ。
まだその人影とレインたちとの間には約100メートルほどの距離があったのだが、三人とも目視でその人影を確認した瞬間一気にスピードを上げたので10秒もかからずにその人影の元までたどり着くことができた。
この時点で日本にいた時ならば世界で通用するレベルの陸上選手になること間違いなしなのだが、三人ともちょっとスピードを上げたくらいの感覚で誰も息を乱していないところを見るにまだまだ余裕そうであった。
「獣人? そういえばこの街で獣人を見かけたことはなかったけど……やっぱりいたんだ」
「亜人種はよく人族から蔑まれる対象になりやすいから、みんな人族の街では姿を隠して生きていることが多い。まぁ、そんなことしなくても亜人種の国や街があるからそこで生活するのが一般的」
「ですね。それに、彼女はちょっと立場的にめんどくさそうですよ」
「めんどくさい?」
「はい。この首についているやつなんですけど、多分隷属の首輪です。なのできっと彼女は奴隷か何かなのでしょう」
「ということはここで助けたとしても強制的に連れ戻されてしまうと?」
「いや、それは私が解決できるから大丈夫。解除」
「は?」
てっきり首輪が外せないから街に入れない〜とかだと思っていたレインはまさかクロナが一発で隷属の首輪を外せるとは思っていなかったのでびっくりして思わず素の反応をしてしまった。
そもそもGMOに奴隷システムがなかったので、この世界に奴隷の概念があるだけでも驚きなのに、それを簡単に解除できる魔法がすでに出回っていることにもっと驚きを隠せないレインである。
「クロナ、その魔法って一般的に知られてるの?」
「いや、たまたまレインも行ったあのお店で売ってたから買っただけ。普通はこんな魔法出回ってないって。私も役に立つ時が来るとは思ってなかった」
クロナの言葉を信じるならば、奴隷を解放する魔法が一般に公開されていることはないらしい。
別にレインからすればどっちでもいいことなのだが、この世界の常識をまだ把握できていないレインから見ても先ほどのクロナの行為はあまり褒められたことではないことくらいはわかる。
まぁ、今のこの状況では非常にファインプレーなのでレインも強く言及することはなかったが、一応今後のために「あまりホイホイ使わないように」とだけクロナにも注意を促しておいた。
その後、獣人の少女がまだ目を覚ます気配がないということで今日はイツラの森に行くのをやめて一旦メイルの街に戻ることになった。当然、その時にレインがその少女を運ぶことになったのだが、ここで一つ問題が起こってしまった。
「レイン、そういう子が好きなの?」
「私も一度お姫様抱っこをされてみたいです」
そう、レインが当然のようにその少女をお姫様抱っこをした瞬間クロナとシーナの目線の温度が一気に下がっていしまったのだ。
獣人の少女はクロナたちにも劣ることないくらい可愛い女の子なのも一つの要因かもしれないが……
「こっちの方が持ちやすいんだ。後、この格好の女の子をおんぶするのはちょっとまずいからね」
レイン的にはステータスの補正もあって獣人の少女程度の重さなど全く苦にならないのだが、今の獣人の少女の服がかなりボロボロで色々と見えてしまいそうなのでおんぶよりもお姫様抱っこの方がいいとレインは二人にしっかりと説明する。
ここであらぬ誤解を生んでパーティー内の雰囲気を壊すわけにはいかないし、何かあったら負けるのはステータス的に低いレインになるので誤解を生まないようにしっかりと説明をしておく。
「それならいい」
「ですね。それよりも、早く安全なところに運んであげないといけませんね」
「メイルの街まで大体3キロくらいか……歩いて行くのはちょっと時間がかかりそうだから走っていこうか」
「レインは大丈夫なの?」
「うん。とっても軽いし、最近ステータスもだいぶ上がってきたからちょっとスピードを落としてくれたら振動も抑えて走れると思うよ」
「やっぱりレインの成長速度は異常。普通、そんなことできない」
クロナの不満そうな呟きにレインは苦笑を浮かべることしかできないがそれがさらにクロナの機嫌を損ねることになってしまった。
クロナはレインが中域のグレートウルフに苦戦していた時のことも知っているので、この二週間ちょっとでここまで成長したことを不思議に思っているのだろう。
ただ今はそれよりも獣人の少女の方が心配ということで一旦話を打ち切り三人で行きより少しスピードを落としてメイルの街へと戻るのであった。




