閑話 シーナとデート
クロナとのデートが大成功に終わった次の日、レインはまた昨日と同じ時間に同じ場所でまたドキドキしながらシーナが来るのを待っていた。
いくら昨日のクロナとのデートが大成功したとはいえ、シーナも同じとは限らないのだ。
そのため、レインは昨日の寝る前に今日のデートプランを何回も考え直してシーナに満足してもらえるように最善を尽くそうと頑張ったが、そもそもどこに何があるのか、まだレインもほとんど把握していないため結局昨日と同じくシーナに全てを任せることになった。
男のくせに情けないことこの上ないのだが、ここで変に見栄を張っても誰も得しないため素直にシーナに色々と案内してもらうことにする。
「はぁ、緊張するなぁ……」
「ふふっ、昨日も同じことを呟いていたみたいですね。私たちを救ってくれたんですからもっとドーンと構えてくださいよ?」
「いやぁ、そうは言っても女の子とのデートって慣れな……」
レインは昨日のクロナのように驚かないぞと心に決めて声のする方に向かって振り向いたのだが、これまた昨日と同じように固まる結果となってしまった。
振り返ると、そこにはクロナとは違った可愛さで周囲を幸せにするシーナの姿があり、見ているだけでレインの緊張している心が浄化されていくような気がした。
周囲の人たちもシーナの姿を見て、目を奪われているようで特に男たちはシーナの姿を見て頰を赤く染めて、次にシーナの目線の先にいるレインの姿を見て嫉妬に駆られたようにキツく睨みつけている。
「どうしましたか?」
「いや、どうして僕は二日続けて可愛い女の子とデートできているのかな? と思ってね」
「ありがとうございます。この国では一夫多妻、多夫一妻が認められているので特に問題ないですよ?」
「そ、そうなんだ……まぁその話は置いといて。おはよう。シーナ」
「はい。おはようございます」
レインは明らかに話をごまかしてシーナに挨拶をすると、シーナもニッコリと笑ってレインに挨拶を返した。
ちなみに、GMOではまずそもそも結婚システムがなかったのでレインもシーナから一夫多妻制ということを聞いて少し男心をくすぐられたのは認めるが、それとこれとは話が別なので今はとりあえず放置することにした。
いくらクロナとシーナがデートという名の買い物に付き合ってくれるからと言って結婚できる……そもそも付き合えるなんてことは流石にレインも考えていないし、そこまで勘違いして恥ずかしい目に会うのはレインとしても真っ平御免だった。
「レインさん、今日はどうしますか?」
「それなんだけど、僕はまだこの街にあまり詳しくないから良かったらシーナが案内してくれたら助かるな。頼りなくてごめんね……」
「いえ、もともとそのつもりでしたから大丈夫ですよ。それにしても、この街はおろかこの世界のこととかもあんまり理解していないレインさんって不思議ですね?」
「そ、そうかな?」
明らかに含みのあるシーナのその言い方にレインは一瞬言葉を詰まらせて、それをごまかそうと無理やり笑顔を作ったが、確実に今のレインは挙動不審であった。
以前、レインがクロナとシーナにこの世界の常識なんかを質問した時からシーナはクロナ以上にレインのことを不思議そうにしていたが、まさか今ここでそれを問い詰められることになるとは思いもしなかったのでレインが挙動不審になるのも仕方のないことといえば仕方のないことであった。
「ふふっ、まぁいいです。いつか、私たちのことを信頼できるようになったら話してくださると嬉しいです」
「うん。その時には二人の秘密も聞きたいな」
「……やっぱりバレてますか?」
「『普通のAランク冒険者』でないことくらい、この世界に疎い僕でもわかるよ。まぁ、でも今はそれくらいかな? クロナとシーナの正体がなにか〜までは今の僕ではわからないよ。まだ鑑定のレベルも足りないし、ステータスも二人より低いしね」
「レインさん、鑑定スキルまで習得できたのですか? 本当にすごい成長速度ですね」
シーナはレインがまた新しいスキルを習得することができたことについて普通に驚いている様子だった。
現在のレインのレベルは26とまだナウナーたちと対してレベルは違わないのだが、すでにステータスのHPとMPは5000を超えており他の人ならばレベル100に到達しないと得ることができないほどのステータスをレインはレベル26の時点ですでに手に入れることができていた。
それでもなお近づいてきていることは実感できるのだがまだ足りないと思わされるクロナとシーナは明らかに普通の人間ではなく、レインも二人がかなり強くあまり正体を公にすることができない立場の人間ということだけはわかった。
「まぁ今はそんなことどうでもいいですね。それよりデートを楽しみましょう」
「そうだね。まずはどこから行く?」
「そうですね。まずは適当にその辺を歩きましょうか。昨日クロナさんに話を聞いているとあまり多くは回っていなかったようなので」
「二人は昨日会ったの?」
「えぇ、『レインからネックレスもらった』と嬉しそうにしていましたよ。私も期待していていいですか?」
シーナは少し頬を赤くしながらも、ちょっと意地悪な笑みを浮かべてレインにそう尋ねる。
「もちろんだよ。クロナもそうだけどせっかく休日にこうして付き合ってもらってるんだからシーナにも恩返しくらいさせてよ」
「むぅ、恩返しですか……まぁいいです。楽しみにしていますね。さて、行きましょ」
「ちょ! 大丈夫なの?」
シーナに急に手を繋がれたレインは驚いたような声をあげてシーナに大丈夫なのか尋ねたのだが、シーナはそれに応えることなくレインの手を引っ張っていく。
一瞬嫌なのかなとレインは心配になったが、レインが手を握る力を弱めるとシーナの握る手が強くなり絶対に離さないという意思が伝わってきたのでレインも少し嬉しそうな笑みを浮かべながらさりげなくギュッとシーナの手を握り返すのであった。
「レインさん、こういうのはどうですか?」
「いいね。シーナにとっても似合うと思うよ。っていうか、シーナなら何を着ても似合いそうな気はするけどね」
「ありがとうございます。最近あまりこうやってゆっくりと買い物をする機会がなかったので、やっぱり楽しいです」
シーナはレインに褒められて嬉しいのか、微笑みながら今手に持っている服をそのまま元の場所に戻すことなく持っている。
現在レインとシーナは二人の服を見に行こうと、主に服屋がたくさん並んでいる通りまでやってきている。当然一人客もいるのだが、現在レインたちがいる店には男女のカップルが結構な数いるのでレインも強制的に意識してしまう。
「うっ……ごめん。やっぱりもっとたくさん休日を増やさないといけないね」
「そうですね。でも、私たちもそうですけどレインさんもだいぶ強くなってきましたし、そこまで頻繁に休みは必要ありませんよ。こうしてたまにレインさんが付き合ってくださるのならそれでいいです」
「僕もシーナと買い物をするのはとっても楽しいからこっちからお願いしたいくらいだよ。まぁ、休みの間隔は明日にでもクロナも含めて三人で話し合おうか」
この世界の普通の冒険者であれば基本的に三日に一回は休みをとるのだが、レインたちはそこまで頻繁に休む必要はないようで未だレインがこの世界にやってきてからこの一回しか休みを取ったことはない。
GMOではそもそも休むという概念がなかったのでレインはそこらへんの常識もかけているがシーナはあえてそれを指摘することはなくレインの言葉にニッコリと笑うだけであった。
ここら辺でも色々と疑われているのだろうが、当の本人であるレインは全く気づいていない様子で普通にシーナとの買い物を楽しんでいる。
「やっぱり、レインさんって不思議ですね」
「……まぁ、そこらへんの人たちと同じってことではないのは認めるよ」
「そうじゃなくて、今まで私もクロナさんも周囲に怖がられたり敬われたりすることが多かったですから……こうして対等に話せる相手というのは私たちにとってとても幸せなことですし、レインさんといるとなんだか温かい気持ちになります」
シーナは心の底からそう思っているのかいつものようなどこか余裕のある笑みとは違う、本心からの笑みを浮かべているようだった。
シーナが今どんな気持ちなのか、レインはよく理解することはできなかったが、少なくとも明日からもシーナとの関係を変えるようなことは絶対にしないと心に誓うレインなのであった。
昨日と同じように夕日で空が赤く染まってきたところでちょうど今朝の集合場所であった噴水の前まで戻ってくることができた。
シーナとのデートは非常に有意義なもので、主に買い物がメインであったがレインがまだ行ったことのないようなところにたくさん行ったのでレインも飽きることなくシーナと二人で買い物をすることができた。
もちろん、昨日同様にレインの隣には絶世の美女であるシーナがいたおかげで非常に注目されたが、直接声をかけてくるような愚か者は一人もいなかったので楽しくデートをすることができた。
「今日はありがとうございました。おかげですごく楽しかったですし、なんだかまた救われた気がします」
「そうかな? 僕は何もしていないような気がするけど……」
「そんなことはありません。すごく助けられましたし、今日でもっとレインさんのことを知っていきたいなと思いました」
「僕も同じだよ。もっと強くなってシーナのことを守れるくらいにならないとね」
「ふふっ、それは楽しみです」
レインの言葉にシーナはいつものように笑いながらレインに向かってそう言った。
実際にレインは現在普通では考えられないほどの成長速度で成長していっているためそのうち二人に負けないくらい強くなることができるのだろうが、こうして余裕の笑みを浮かべられるとレインとしても少しムカッとくるものがある。
「本当に追いついてみせるから楽しみにしててね。それと……今日はありがとう。これ、シーナに似合うかわからないけど……」
レインはそういってお店の人に大事に包装してもらったものをシーナへと渡した。
シーナは何のことかと首を傾げていたが、中身を見た瞬間に驚いた様子でレインと包装されたものを見ていた。
「っ⁉︎ あ、朝の約束、覚えていてくださったんですね。そんなそぶりはまったくなかったので、てっきり忘れられているのかと思ってました」
「全力で自分の気配を消してたからね。これは一本取れたんじゃないかな?」
「そうですね。完敗です。でも、すっごく嬉しいです!」
シーナはそういって今日一番の笑みをこぼした。
ちなみに、中身は白いきれいな花の髪飾りでレインがシーナの金髪にあうだろうなと思ってわざわざ全力で気配を悟られないようにしてこっそりと購入したものだ。
その時のレインと言ったらバレるかどうかヒヤヒヤしながら今までで一番迅速な行動を心がけていたのだが、それがこうしてシーナのとびっきりの笑顔という功をなして返ってきたのだから、レインとしても頑張った甲斐があったなと内心でよしッと喜んだ。
「本当にありがとうございます。それと、これはお返しです」
シーナはそう言ってレインに近づくとそっとレインの首に十字架で中心にきれいな金色の宝石がはめ込まれているネックレスをかけた。
「すごくきれいな宝石だね。本当にいいの?」
「はい。私の秘密のおまじないつきネックレスなので大事にしてくださると嬉しいです」
「もちろん。一生大事にするよ。本当にありがとう」
「はい! 私もこの髪飾り、一生大切にしますね」
二人はお互いプレゼントされたものを大事そうに、優しく触りながらそういうと最後に二人で揃って別れの挨拶をして本日のデートが終了するのであった。




