皮むき機
「それで、シズさんへのプレゼントは何にする予定ですか?」
「分からない。何が良いと思う?」
「無難に馬用ビスケットですかね」
「全然無難じゃないよ!」
「そうですか? ピッタリだと思うのですが」
どうやら、シズはミユに馬だと認識されているらしい。悲しい現実だ。
馬用ビスケットをプレゼントにする訳にはいかないので、オシャレな雰囲気が漂う雑貨屋に入る。
「これとかどう思う?」
僕がミユに尋ねるのは、良い香りがする芳香剤。ドラッグストアなどで売っているものよりも格段にオシャレであり、大抵の女子は喜びそうな気がする。
「それ、シズさんなら割りかねませんね」
「・・・確かに」
その芳香剤は瓶の中に木の棒が入っているもので、落ちたら確実に割れるものとなっている。ミユが持っているシズへの偏見程ではないが、僕もシズは落ち着きがないタイプだと思っている。それに、今更それがトイレ用だと気付いた。これはプレゼントに適さないだろう。
「何が良いんだろうな・・・」
何か趣味になるものはないか、と探していたところに調理器具の専門店を見つけた。
「あ、見てきて良いですか?」
「全然良いよ。行こっか」
「はい!」
軽い足取りでお店に入るミユ。ミユは料理が趣味であり、その腕前は確かなものだ。料理人としても充分にやっていけると勝手に思っている。
「これ、凄くないですか!? ほら、こうやったら取っ手が外れて!」
商品紹介を嬉しそうにしているミユを見て、ふと思う。
ミユとシズは似ている。だから、料理にも高い趣味適性を示すのではないだろうか。
「何を買ったら良いと思う?」
「ミキサーですか? いやぁー、やっぱり値段を考えると・・・」
「いや、ミキサーじゃなくて」
目の前にあるミキサーを紹介し始めたミユを慌てて止める。
「シズへのプレゼントだよ。ほら、ミユとシズって似ているでしょ?」
「なるほど。そういうことですか」
考え込むミユ。
「確かに、本人も料理してみたい、と言っていました。断りましたが」
「断ったんだ・・・」
「はい。晩ごはんはスピードが命なんで」
「そ、そうなんですか。お疲れ様です」
プロ意識を感じて、思わず口調が変わってしまう。
「貰って嬉しいものですか・・・」
ミユが鋭い眼光で回りを見渡し、どれが良いか真剣に考える。
「皮むき機とかどうですか? 私でしたら大喜びです!」
「うーん、多分喜ばない事は僕にでも分かるよ。無難なものが良いかな」
シズの趣味がジャガイモの皮むきになってしまったらどうするんだ。ジャガイモ料理が毎日並ぶ食卓を想像して、回避したい未来と認定する。
「・・・・無難がいいですか?」
「うん。無難に。エプロンみたいな感じで」
「それならエプロンしかないと思いますよ」
不満そうに頬を膨らませて言うミユ。
「そうするよ。ところで何でエプロンだったら不満なの?」
「面白くないじゃないですか。皮むき機だったら絶対にシズさんの微妙な顔を伺えましたよ」
「それはプレゼントじゃないよ!」
どうやらシズに意地悪したかっただけらしい。