失った物
―よし、全員救助しろ
―はっ
周りで物音、人の声が聞こえる・・・・。体を動かさなくちゃ、口を動かさなくちゃいけないのに動かない。
―脈は全員大丈夫か?
―はい、問題ありません!
―よし、担架を運べ
激痛で完結していた感覚に浮遊感が加わる。今だ、今しかない。
「・・・おい」
何とか目を開け、体を捻る。すると地面に体がぶつかる感触がする。
―逃げろ
―はっ
「おい!」
上下感覚が無いまま、何とか立ち上がる。
声を出し、さっきの声の持ち主を引き止める。
視界がぼやけて何も見えないが、何人かの集団が立ち去る姿を捉える。
「・・・シズ」
この体の状態では追いかけることが出来ない、と判断するとシズの名を呼ぶ。
「シズ!」
呼び声が聞こえてないだけかもしれない。
「シズ!!!! 返事をしろ!!!」
喉から血が出ようと構わない。出来る限りの声を出して、守りたい人の名を呼ぶ。
だが、いくら呼び続けても答えは返ってなかった。
守りたい人は、守れなかった。
前日のキャンプ地に共和国軍は退避した。
ネオの輸送車両を起点として前衛部分は全滅した。谷が通行出来なくなったこともあり、進軍するにしても撤退するにしても戻るという選択肢しか残っておらず、このキャンプ地に戻ることは仕方ないだろう。
「・・・ネオ」
救護車両にラウラがやってきた。
「シズは!? そして二人は見つかったの!?」
既に意識は完全に回復して、出血は止まっている。あることだけを願って数時間待っていた。
「全員、帝国軍に拉致されたということで間違いないと思う」
「・・・嘘だ」
にわかに信じられない予想は事実としてラウラから伝えられた。嘘でないことは僕が聞いた会話で結論付けることが出来る。だけど、信じることが出来ない。信じたくない。
「ネオの気持ちは分かるわ。だけど、認めないと始まらない。もう過去は・・・か、変えられないから」
ラウラが膝から崩れ落ちる。
「・・・部屋から出て行ってくれ」
これが精一杯、絞り出した言葉だった。返事をせず、部屋を出て行くラウラ。その背中を見送ると、こらえてたはずの涙が、止まることを知らずに流れ出した。
シズと過ごした日々が記憶以上にあふれ出してくる。ティトも、レイも。守れなかった悔しさに、そして、なによりも失った悲しさで壊れそうだった。