表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/43

聖剣使いと思念術士

それは古代文明跡から発掘されたものではなく、また神の力を宿したものでもない。思念術士によって放たれた思念と共鳴出来る剣。それが聖剣なのである。

 「ネオ! 次の出動はいつになったの?」

 ルーベル共和国。第三基地軍宿舎のエントランスでそう声を掛けられた。

 「部屋で待っててって言ったよね、シズ」

 ハスキーな声と東洋人に近い顔立ち、肩までの長さがある黒髪の持ち主はシズ。生まれながらにして僕の専属思念術士。

 「長すぎて待てなかったー。それで、何か決まった?」

 「ここではあれだから部屋で話すよ」

 「えー! 面倒くさい! ここが良い!」

 「ダメ。ほら、部屋に帰るよ」

 シズの手を引き、部屋へと移動する。握った手はまだ小さく、こんな女の子が戦場に出て良いのか、なんて意味のない事を考えてしまう。シズは今年で14歳。生まれた直後から思念精錬場という教育設備に入所し、12年間の訓練を受けてきた。その12年は思念を飛ばすことだけに専念しており、普通の女の子が経験するはずのことは一切排除されている。学校生活、友人関係、年相応の遊び。そして何よりも親の顔を覚えていない、親の名前を知らない。

 「そういう僕も他人の事を言える立場じゃないんだよな・・・」

 3歳の頃から軍部の剣士精錬場で訓練を受けた。剣の扱い方を覚え、剣で人を斬ることを覚えた。兵器として12年間育てられた僕は、僕自身で進路を決める経験をしないまま兵士となった。だけど、シズと比べては恵まれた環境だったのだろう。精錬場では友人を作ることが出来、何よりも僕は3年間、両親と一緒に過せた。今でも1年に1回ほど会えるし、たまに連絡もする。

 「ネオ?」

 怪訝そうにシズが僕の顔を覗いてる。

 「どうしたの?」

 「分からないけど、なんか想いが沈んでたよ」

 独特な表現で確信を突かれる。

 「少し考え事をしててね。さ、部屋に入ろう」

 「うん!」

 シズの部屋に入ると、相変わらずの殺風景が目を襲う。

 「シズ、何か欲しいものはないの?」

 「欲しいもの?」

 「うん、部屋に何か置いたら良いと思うんだ」

 部屋はベッドと小さな机だけ。綺麗、というより異常な程の清潔さで部屋が完結されている。

 「ネオが良い!」

 「それ以外で」

 「えー、別に欲しいものなんてないし、大丈夫だよ?」

 「部屋に何かあった方が良いだろ。こんな殺風景だと気が滅入るんじゃないか?」

 「別にそんなことないけどなぁ。あ、それならネオが決めてよ!」

 「僕が? センスないけど大丈夫なの?」

 「大丈夫だよ! ネオが選んだやつなら何でも大切にするから!」

 「・・・そこまで言うなら分かったよ。期待はしないでよ」

 「うん! 楽しみにしてる!」

 「それ、期待してるって事だよね・・・」

 女の子にプレゼントを買う機会なんてこれまで無かったからな。思い返せば、2年間一緒に過ごしてきたのに1度もシズにプレゼントを渡したことがない。・・・思い返せばフッと笑ってしまう。2年前のシズに、今のシズを見せてあげたいな。

 「どうしたの? 急に笑って」

 「昔のシズを思い出してね。あの頃は・・・」

 「またその話だ! もう何回も聞いたよー!」

 「僕から見たら、それくらいシズは変わったんだよ」

 「そんな変わってないよ! 私は私なの!」

 「はいはい」

 シズの頭を撫でながら思い出す。初めて出会った時の印象は、表情がない人形だった。さらに人と話すことが苦手で、僕と話す時も目を合わせてくれることは無かった。こちらが何を問いかけても「はい」としか返さず、何を考えているのか分からない幼い少女。今ではこんなに話せるようになって・・・。まだ、僕以外と話すのは苦手なようだけど、成長を感じるな。

 「それで、今回のミーティングでは特に発表は無かった。いつも通り、帝国が仕掛けてきたら防衛するだけだ」

 本題を切り出す。

 「分かった!」

 「・・・あと、噂程度だけど、来月あたりに大規模遠征があるかもしれない」

 「そうなんだ。でも、今の時期にする意味はあるの?」

 「それは上の人達が考えることだ。僕たちは僕たちにしか出来ないことをしよう」

 「そうだね。うん、分かった!」

 「よろしい」

 頭を撫でるとエヘヘ~と嬉しそうな声を出すシズ。関係性は軍の上司と部下だけど、ついつい妹みたいに扱ってしまう。

 「それじゃ、また夕飯の時に迎えに行くよ」

 「えー、もう行っちゃうの?」

 「うん。少し仕事があるんだ」

 「そうなんだ。行ってらっしゃーい!」

 ドアまで見送りに来てくれて、手を振るシズ。

 「行ってきます」

 手を振り返して、再び会議室へと向かう。長期遠征計画の最終会議の為に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ