6話:冒険者として頑張ってください。
マオの部屋に居る三人もこっちの部屋に来てもらいました。その間にマオは着替えたようです。ハロルドは「私も立ち会う」と言って朝の食堂を閉めました。突然閉めて大丈夫なんでしょうか。心配です。
僕の部屋に侵入してきた三人と、マオの部屋に侵入してきた三人。ハロルド、マオ、僕……ヒスイはまぁ、小さいから僕の頭の上で良いとして、中々ぎゅうぎゅう詰めですね、この部屋。
「質問しますので、答えてください」
「はっ! 誰がお前なんかの……ッ」
「あ、ダメですよ。この人たちは人間なんです。手加減してください」
精霊たちが怒ってしまいました。ぎりぎりと歯向かう者を痛めつけています……見ているほうが痛いです。……まぁ、彼らにとっては目に見えない何かが自分を攻撃しているので、多分お化けに襲われているような感じでしょう。
「どうやって部屋に侵入したのですか?」
「……ここの鍵、単純だからすぐに開けられる」
「器用なんですね」
ぎょっとしたように見られました。何か変なことを言ったのでしょうか。
「僕とマオの部屋に侵入して、欲しかったものはお金なのですか?」
「そうだよ! 金さえあればいい装備品も変えるし、冒険者は金が掛かるんだ!」
ほぼヤケになっているような気がします。確かにお金があれば良い装備品が買えるでしょう。品質の良さは命の保障にもなりますし……。ちらりとマオを見ると呆れたような顔をしています。ハロルドも。
「ですが、人のお金を狙うなんて、冒険者ではなく盗人では?」
「……ッ、それは……、お前らが、新人だから……」
「新人だから? あなたたちは何もわからない新人を狙うのが好きなのですか?」
「ああ、そうだよ! 新人ほど楽な獲物は居ないからな!」
「……そうですか。悲しいです、あなたたちのような人が冒険者なんて……。冒険者とはダンジョンに潜ったり、依頼を受けたり、世のため人のため自分のための職業だと思っていたので……」
「……っせぇな! てめぇらに冒険者の何がわかるってんだ!」
反省しているようなら、と思っていたのですが、この人たちはあまり、いえ全然反省していないようですね。このままでは僕たち以外の犠牲者も出るかもしれません。ハロルドに顔を向けると、ハロルドはぴきぴきと血管を浮かび上がらせるくらい怒り心頭のようです。……我慢して下さっているのでしょう。ありがたいことですね。
「――汝たちに問う。己の所業を改める気はあるか?」
すぅ、と目を細めて問いました。彼らはごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだようです。
「アイリス……?」
マオが僕のことをじっと見ていました。ヒスイは空気を呼んだのか、それともただ単に飛びたくなったのか、パタパタと飛びました。僕が一歩彼らに近付くと、彼らは息を止めます。息はしていて良いのですけどね。
「――二度とこのようなことをしないと誓えるのならば、汝らに温情を与えよう。だが――この誓いを破りし時、その時はその命、天に還ると心得よ」
ガタガタと六人が震えています。じっと彼らを見つめると、彼らは神妙な表情でこくりとうなずきました。人間にはもしかしたら、刺激が強かったかもしれません。精霊たちも大分落ち着いたようなので、僕は目を閉じてゆっくりと息を吐き出しました。
「では、温情を与えましょう。これで装備を整えて、弱きを助ける冒険者になってください。約束ですよ?」
鞄の中から財布を取り出して、財布の中から金貨を一枚取り出して一番よく答えた人の懐に入れました。みんな呆然と僕を見ています。
「約束を破ったら――二度と、冒険者にはなれないでしょう」
にこっと微笑んでみせると、彼らは「ひっ」と恐れたように短い悲鳴を上げました。精霊たちに彼らを解放するように伝えると、精霊たちは渋々と彼らを解放しました。そして――僕はマオに視線を向けて手招きしました。
「えっと……?」
「マオ。彼らを回復してください」
え? と目を大きく見開くマオ。唇がわなわなと震えています。それでも、ぐっと下唇を噛んでから「仕方ないわねぇ」と彼らの前に座って祈るように両手を組み、祈りの言葉を捧げた。すると、柔らかな光が彼らに降り注ぎ、精霊につけられた傷が回復していきました。
彼らは傷が回復したことに驚き、そして改めてマオを見てハッとしたように息を飲んだようです。
「……おれらは……めがみに……なんてことを……!」
「えっ……?」
マオが引いています。マオは美人ですからね。女神のように見えても仕方ありません。……うーん、僕が威圧するよりマオのほうが効果が高そうですね……。それはそれでがんばった甲斐がないような。まぁ、改心してくれるのなら、それが一番なんですけどね。
「……で、結局どうするんだい?」
「悪いことは出来ないようにしましたので、このまま放置で構いません。マオ、ありがとうございました」
「いいえっ。でも、どうして私が回復魔法を使えることに気付いたの?」
「だって、マオは神様に愛されていますから」
僕がそう言うと、マオはきょとんとした顔をしました。ハロルドが「ふむ」と興味深そうに僕らのことを見て、それから「腹減ったろ? 今から食事の準備をするよ」と言い、「てめぇらも手伝いやがれ!」と六人を引き取っていきました。朝ご飯はまだなので、確かにお腹空きましたね。
「食事が出来たら呼んでください」
「ああ、わかったよ、アイリス」
ハロルドはひらりと手を振って扉を閉めました。僕はベッドに座って「ふぅ」と息を吐きます。
「……びっくりしたわよ、キャラ変わりすぎ」
「そうですか? お父様を意識してみたのですが、難しいですね」
「……アイリス、気になっていたのだが聞いても良いか?」
「はい、なんでしょう?」
僕の隣に座ったヒスイがじっと僕を見つめました。
「人間と精霊のハーフと言ったな。どの精霊のハーフなんだ?」
「あ、お父様のことですか? お父様に名前はありません。精霊たちからは精霊王と呼ばれています」
「……せ、精霊王と人間のハーフ!? どういうことなの……?」
マオが混乱しているようです。そんなに混乱することなのでしょうか? 尋ねて来たヒスイは「くっくっく」と笑いだしてしまいました。どうして笑っているのでしょうか。
「エラは種族を超えた恋愛を果たしたと言うことか」
「そう言えばお母様のことを知っているのですよね。どういう出会いでした?」
「マオとは違う村の生贄の身代わりに自ら立候補したらしくな。その後すぐに里に送ろうとしたが、折角竜と話せる機会だからゆっくりで良いと言われた」
「ああ、お母様らしいですね……」
僕のお母様はとても楽しい性格の持ち主なので、なんとなく想像がつきます。そしてヒスイは僕の顔をじっと見ると不思議そうな表情を浮かべました。
「だが、お前は……不思議な顔をしているな。エラの面影があるような気もするが、性別が定まっていないだろう?」
「僕の顔や髪色は全て『誰にとっても好感の持てる』ものになるみたいです。男性でも女性でも、その人の深層心理によって違うようですね」
「え、そ、そうなの……?」
こくりとうなずくと、マオが「そうなんだ……」と感慨深そうに呟きました。一体どういう姿に見えているのか、ちょっと気になりました。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです♪