22話:お父様とお母様の出逢いの詩。
ヒスイがチップと言っていたので、真似してみました。それにこのリュートにはそれだけの価値があると思います。精霊との相性も、マナとの相性も良さそうなので……。僕の演奏をどれだけ高めてくれるのか、今からとても楽しみです!
「……チップか、それなら、受け取っておこう」
「はい。それでは、ローガンのところに向かいましょう!」
リュートの音色を聞いてもらう約束もありますし、報酬金のこともあります。パウロに「大切にしますね」と笑顔で伝えると、彼は笑みを深くしてうなずきました。嬉しそうです。愛情を持って作成したのですから、当然と言えば当然かもしれません。
僕が鞄にリュートを入れると、パウロはぎょっとしたように目を大きく見開きました。入るとは思わなかったのでしょう。
「それは……まさか、空間収納?」
「はい。お母様が作ってくださいました」
ショルダーバックなので斜め掛けにして使っています。便利です。パウロはまじまじと僕の鞄を見つめています。……人間界ではあまり普及されていないのでしょうか?
「そうか、大切に使いなさい」
「……? もちろんです。それでは、失礼しますね」
パウロのお店を後にすると、そのままローガンの家……研究所? に向かいました。昨日の今日でしたが、ローガンは僕らの訪問にイヤな顔ひとつせず、招き入れてくれました。そのことにリリーはちょっと驚いたみたいです。
「昨日の今日じゃの」
「そうですね。パウロさんのお店に行ってきました。良いリュートに出会いました」
にこりと微笑んでそう言うと、ローガンは「じゃろ?」と満足げに笑いました。
「んで、どうしてギルドの受付嬢がここに?」
「リリーは僕たちに付き合ってくれているんです。お友達になるために!」
ローガンがぱちくりと目を瞬かせました。それからくっくっくと喉を慣らして笑いました。何かおかしいことを言いましたかね……?
「それで、リュートを買ったと言うことはその音色を聞かせてくれると言うことか?」
「約束しましたから」
「ならば、丁度いい場所がある」
と、僕らを奥へと案内してくれました。研究所……なのか、それともただ単にローガンの住んでいる家なのかよくわかりませんが、中々の広さです。奥へ進むと広間のようなところに出ました。会場みたいに広いです。ローガンの家にこんなところがあったんですね。昨日は全然気付きませんでした。
「ここで弾いてもらうか」
「はい、わかりました」
広間には椅子もあったので、ローガンたちはそこに座りました。ヒスイはマオの膝の上に移動して、ちょこんと座っています。何だか可愛いですね。マオとリリーはドキドキとワクワクが混ざったような表情を浮かべています。
僕は鞄からリュートを取り出すと、鞄を空いている椅子の上に置きました。僕は彼らの前に立ち、恭しく胸元に手を当てて頭を下げました。そして顔を上げて言葉を紡ぎます。
「紳士、淑女の皆様方。今日はわたくし、アイリスの詩を、心行くまでご堪能ください」
リュートを構えて僕は曲を弾き始めます。いつも、精霊界で弾いていた曲です。お父様とお母様の始まりの詩。お母様が作った詩です。すぅ、と息を吸って曲に合わせて僕の声を乗せます。
澄み渡る青空に 白い雲が流れ
アイリスの花畑で あなたに出逢った
一目でわかったわ あなたが私の運命だって
あなたもきっと そうだったのでしょう?
優しい眼差し 愛しい表情
私の唯一の人 愛しさを教えてくれた人
願わくば 私を永遠にあなたの傍に――……。
お母様は、この詩を口ずさむのが癖になっているようでした。ふたり揃って運命だと感じていたのなら、こんなに素敵なことはありません。僕は最後の一音を丁寧に鳴らすと、ゆっくりと頭を下げました。
みんなの顔を見ると、何だか頬が赤くなっています。ヒスイだけは表情が変わりませんでしたが、たった一言「心地良い音色だった」と言ってくれました。嬉しいです。
「……何だか、すごく綺麗な歌声なのにかなり情熱的な詩なのね……?」
「お母様が作った詩なんですよ。お父様との想い出をいつでも思い出せるように、詩に残したようです」
マオが頬を包み込むように両手を添えると、「情熱的ぃ……」とうっとり呟きました。リリーを見ると、なぜかはらはらと涙を流していました。びっくりして目を丸くすると、彼女は首を傾げました。泣いていることに気付いていないみたいです。
「リリー、これを使ってください」
すっとハンカチを取り出すと、リリーはますますわからないとばかりに困惑の表情を浮かべていましたが、ぽたりと自分の涙が手の甲に落ちたことで泣いていることに気付いたようです。
「あ、あわ、あわわっ。も、申し訳……ありません……! す、すっごく綺麗な曲で……か、感動し、ま、した……!」
リリーは慌ててそう言って、それからごしごしと目を擦りました。その手を取って、「ダメですよ」と優しく言って、彼女の涙をハンカチで拭きました。ごしごし擦ると目が赤くなっちゃいますからね。
「あ、あ、ありがとうございます……」
気恥ずかしそうに視線を彷徨わせながらも、リリーは僕にお礼を伝えてくれました。
そして――ローガンのほうへ視線を向けると、ローガンは口元を曲げて目を閉じていました。……気に入らなかったのでしょうか……?
「ローガン……?」
「いや。いや……、こんなに心を震わせる音色は、エラ以来じゃ……。アイリスは、本当に……エラの子なのじゃな……」
ローガンとお母様は一体、どういう関係だったのでしょうか……。ぐっと胸元に手を当てて、それからローガンは表情を緩めて視線を僕に向けました。僕が首を傾げると、「見事だったぞ、アイリス」と褒めてくれました。
褒められるのは嬉しいですね。
「……ところで、エラの頃から謎じゃったのだが、冒険者で吟遊詩人ってどんな役割になるんじゃ?」
「え? え? えええええ? あ、あ、アイリスさん……冒険者……ですよね……? ぎ、吟遊詩人って……?」
物凄く驚いたようにリリーが僕を見ました。冒険者が吟遊詩人ってそんなに変なことなのでしょうか。うーん? 思わずふたりを交互に見ると、ローガンもリリーもまじまじと僕を見つめています。そんなに視線を感じると、ちょっと照れてしまいますね。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです♪
※歌詞は自作です。




