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2話:初めて(お母様を除き)精霊以外の種族と話しました。


 目を閉じて耳を澄ませます。先程の悲鳴はどの方角からか……。すると、声が聞こえました。怯えたような声と威圧するも困惑しているような声。


「あっちかな?」


 半分精霊だからか僕の身体は軽く、風の精霊に頼んで騒ぎのあるほうへと運んでもらいました。空中から人のような姿をしているのが五人、あと、大きな竜です! 竜……良いですね……。緑色の竜です。遠目で見ていても格好いい!

 トン、と真ん中になるように地上に降りました。みんな僕の登場に驚いているようです。目を丸くする人たちと竜の姿。お母様以外の人間を初めて見ました! 竜も絵本で見るよりも実物は何倍も格好いいです!


「ええと、何かあったんですか?」

「え、いや、それこっちのセリフ……!」


 怯えていたように見えた人たちは、僕の登場に呆気に取られたいたようで、ハッとしたように顔を上げると「どうかお助け下さい!」と僕に手を伸ばしてきました。

 助ける? と思い竜のほうへ顔を向けると、竜はフルフルと首を横に振りました。ええと、何を助ければ良いのでしょうか……。


「だ、ダメだ! お前は竜の生贄なのだから……!」

「生贄? え、生贄ってこの世界では普通なのですか!?」

「――わ、私は生贄になんてなりたくないッ!」


 僕と同じくらいの子でしょうか。黒髪に黒目、着ている服は真っ白でまるでウェディングドレスのように見えます。ええ、本で見たことがあるだけですが……。生贄よりも花嫁のほうがぴったりな衣装です。


「――何度言えばわかるのだ、人間たちよ。生贄など要らぬと!」

「そ、それでは困るのだ! 頼む、竜よ、この魔女をどうにかしてくれ!」

「魔女?」

「黒髪黒目なんて魔女の特徴ではないか!」


 僕はその言葉に首を傾げました。魔女と言うのは黒髪黒目が主流だったのでしょうか、知りませんでした。そして魔女と言うと悪いイメージがありますよね。邪悪なもの、みたいな感じが。だけど、この子に感じるのはそんな邪悪なものではありません。むしろ、もっと神聖なもの――……。


「もしかして、ずっと嫌がらせを受けていましたか?」


 僕が彼女に話しかけると、彼女はこくんとうなずきました。彼女を連れて来た人たちに顔を向けると、彼らはびくっと身体を震わせました。……何もしていないのに怯えられるのはなぜでしょうか。


「人の里に災いが起きたのは、彼女に嫌がらせをしたからですよ」

「な、何を言っている! 災いを呼んだのはこの魔女――……! ……待て、なぜ災いのことを知っている?」

「流行り病に飢饉、さらに大雨ですか。神様は随分とお怒りのようですねぇ……」


 精霊たちが僕に教えてくれました。彼女の両親が流行り病に掛かって亡くなり、そこから彼女への嫌がらせが始まったようです。流行り病はもう治まっているみたいだけど……。その次には日照りが続き野菜も麦も育てられず、追い打ちを掛けるように豪雨が襲ってきたみたいで……。それも全て彼女のせいにされているようです。人って怖い。


「……哀れですね」

「なんだと!?」

「ところで、彼女が必要ないというのであれば、僕が連れていっても良いですか?」

「え? わ、私を必要としてくれるの……?」


 彼女の目がうるっと涙で潤みました。ああ、人とはどうして……どうして、こんなにも惨いことをするのでしょうか……。


「はい。あなたの力が必要です。そして、そちらの竜も、良ければ一緒に行きませんか?」

「……あ、忘れられてなかった」


 僕が彼らと話している間、竜はずっと待っていてくれたようです。


「待て! なにを企んでいる!?」

「企むと言うか、旅は道連れ世は情けって言うでしょう? ここで会ったのも何かの縁だと思うので……。あ、ちなみにあなたたちの里は後五十年もしないうちに土地が腐り住めなくなるようですので、移住するなら今のうちですよ」

「なぜそんなことがわかる!」

「――精霊の力が微量にしか感じられません。精霊が住まない土地は枯れる運命ですから……」


 僕がそう言うと、竜は驚いたように僕を見ました。竜にも精霊のことが見えるのでしょうか。そして、竜は僕に向かって「気に入った」と笑いながら言いました。何を気に入られたのでしょうか。


「我はお前と一緒に行くことにしよう。毎回毎回要らない生贄を捧げられるのにも飽きたしな!」

「な、それは困る……!」

「困るのは我だ! 毎回毎回生贄を別の里まで運ぶのに疲れたぞ! そもそも我は草食だ!」


 ……竜って草食だったんですね。初めて知りました。いっぱい食べないと大きな身体を保てないのでは……?


「全く、我の話を聞く前に逃げおって……!」


 竜もお怒りのようです。ぎろりと睨まれて、彼らは逃げていきました。残ったのは僕と彼女と竜のみ。僕はこほんと咳ばらいをしてから自分の胸に手を置いて自己紹介をしました。


「僕はアイリスと言います。本日十五歳になりました。あなたたちの名前を聞いても良いですか?」

「私はマオ。平民だから苗字はないわ。十六歳よ」

「我は――あー、そう言えば名前がないな。歳も忘れた。百五十までは数えていたんだが……」


 名前がない? それでは呼ぶときに困りますね。


「僕が名付けても良いですか?」

「ああ、好きに呼ぶがいい」


 竜をじーっと見つめて……、ふむ、と小さく呟きました。緑色の大きな身体。ふわりと浮いて竜の瞳を覗き込んでみると、これまた綺麗な緑色。草食とのことなので、草を食べているから緑色なのでしょうか……。………………そんなわけありませんよね!


「では――あなたのことを、これから『ヒスイ』と呼ぶことにします」

「それが我の名か?」

「そうですよ、ヒスイ」


 僕の付けた名前を竜は呟き――ぽんっと軽い音をさせて小さくなりました。竜の姿のままです。手のひらサイズまで小さくなったヒスイに手を差し出すと、ヒスイは満足げに僕の手のひらに乗ってきました。


「よろしく頼む、アイリス」

「こちらこそよろしくお願いします、ヒスイ」

「ねー! ちょっとー! 私のこと忘れていないー?」


 こちらを見てぶんぶんと手を振るマオ。僕とヒスイは顔を見合わせて小さく笑い、彼女の元へと向かいました。



少しでも楽しんで頂けたら幸いです♪

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