呻き
集金の仕事はろくでもない。
素直にお金を払わない人が多いからだ。
身の危険を感じることも珍しくない。
人間はお金が絡むとなにをしでかすかわからない。
でもそんなありがちな話ではないこともある。
あるアパートに集金に行ったときのことだ。
恐ろしく古いアパートで、一見廃屋に見えるのだが、人が住んでいる。
一人。
全部で六部屋あるのだが、住んでいるのは痩せて青白い顔をした中年男一人だけだ。
その男の部屋に集金に行ったことがある。
部屋には入口の横の目の高さくらいのところに小さな窓があるのだが、その窓がなぜか開いていた。
中を見たが誰もいない。
部屋は狭く一部屋なので、窓から内部が全て見える。
ちなみに風呂はなく、トイレと台所は共有だ。
――今はいないみたいだな。
そう思い、督促状をドアに挟んで帰ろうとした。
そのとき、聞こえてきた。
人の声。
なにを言っているかはわからない。
聞いているうちに、声と言うよりなにか呻いているように聞こえてきた。
驚き、もう一度部屋をのぞいたが、やはり誰も見当たらない。
――なんなんだ、いったい。
なんだか恐ろしくなり、その日は帰った。
しばらくして男を訪ねたが、また窓が開いていた。
中を見たが誰もいない。
もう一度督促状をドアに挟もうとした。
が、前に挟んでいた督促状がそのままになっていた。
どうしようもないなあと思いつつ、もう一枚の督促状を挟もうとした。
そのとき、再び聞こえてきた。
人の声。
呻いているような、もがき苦しんでいるような。
中をのぞいたが、誰もいなかった。すると呻き声が急に近づいて来た。
もう私のすぐ目の前から聞こえてくる。
それなのにどう見ても誰もいないのだ。
私は督促状を手にしたまま、その場から走り去った。
数日後、ある男が逮捕された。
容疑は殺人。
殺されたのは呻き声が聞こえてきた部屋に住んでいた男だった。
しかも男は、私が最初に訪ねた日よりも前に、殺されていたのだ。
終