追放? いいえ、解散です。
短編チャレンジ
「ミスト、貴方にはこのパーティーを出て行ってもらいますわ」
「そうだそうだ。あんたみたないお荷物、私達にはいらないんだから」
冒険者ギルドの酒場で4人で構成されたパーティーの魔法使いと盗賊が錬金術師の青年に対し、詰め寄っていた。
「マギサ、シルフィ、それは俺の除名を提案するということか?」
「……そ、そうよ。貴方は錬金術師、戦闘では後ろでちょろちょろしているだけで役立たずですし、貴方が作った錬金薬は効果がありませんでしたわ」
「それに、あんたが付けてる収支報告書? だっけ? 同じ薬草を私が売りに行ったら、もっと高値で買ってくれたよ。あんた、差額をちょろまかしてるんじゃないの?」
酒場は静まり返り、二人の告発する声だけが響いていた。
リーダーである剣士の少女リリィは静かにジョッキを傾けるだけで、事の推移を見守っている。
「今まで私腹を肥やしていた分の罰として、全ての装備と財産を置いて出ていきなさい」
「そうだそうだ。これからは私達3人だけでやってくから、あんたはいらないの。荷物全部置いてさっさと出ていって」
ゴトッ
ジョッキを置く音がすると、マギサとシルフィがその音の方へと視線を向ける。
「マギサ、シルフィ、ボク達パーティーでは除名を提案したら、対象を除いたメンバーの過半数の賛成がで、除名が出来る。賛成は2人、この時点でボクの意見に関係なく、除名は決定される。けれど、如何なる理由があっても、本人の装備と私物を置いていかせることはルールに反する。そして、除名であってもパーティー資産の分配はミストの当然の権利だ」
リリィが率いるパーティーには加入・脱退・除名に関して、きっちりとルールが決められており、加入の際にしっかりと説明されている。当然、そのルールを定めたリリィはすべてを暗記していた。
「でもリリィさん、ミストがいなければ私はもっと自由に魔法を使えましたわ。そうすれば、もっと多くの依頼を達成することも出来たはずですわ」
「そうだよリリィ、こいつが差額をちょろまかさなければ、もっといい装備や道具を使ってもっと報酬のいい依頼を受けられたんだよ」
「じゃあ、出して欲しい。マギサ、キミがミストの錬金薬を効果がないと断言した証拠を。シルフィ、キミがミストの収支報告を虚偽だと断言した証拠を」
二人は声を詰まらせた。証拠など出せないからだ。
マギサはマギサ用に細部に至る部分まで調整された錬金術による強化薬を横流しし、売りつけた相手にマギサが使った時ほどの効果がなかった、などと。
シルフィが別の依頼の際に偶然見つけた薬草を懐に入れ、それがはやり病のために通常以上の価格で集められていた薬草だと知ったから、などと。
マギサが行っていたことは横領であり、シルフィはそもそも通常価格ではない。つまり、ミストを除名するための理由はこじ付けでしかなかった。そう、ミストを追い出し、リリィを二人で共有するための行動だ。
「いいですわ。わたくし達は優しいのですから、役立たずの錬金術師に餞別としてちゃんと分配しますわ」
「そうだね。あんたと違ってルールはちゃんと守るから」
「そうか。なら、俺はもう行くぞ」
決定事項ならしかたない、そう判断したミストは酒場を後にし、除名時における分配分の手続きをし、宿へと引き上げていった。
それを見送ると、再びジョッキを置く音が響いた。
「それじゃあ、解散ということで」
「そうですわね。邪魔者を追い出したとはいえ、打ち上げをする気分ではありませんわ」
「そうだね。明日、ちゃんと3人で宴会だね」
「そうですわ、リリィさん、パーティー資産に影響があるのですから、これからは個室ではなく、3人で一部屋にしましょう」
「いい案だね。ちょっとは節約しないと」
「ボクはもう行くよ」
それだけいうと、リリィは受付で手続きをし、宿へと引き上げていった。
マギサとシルフィは邪魔者を追い出したことを祝うため、ささやかな祝勝会をしてから宿へと引き上げた。
翌朝、街の門が開く時間になるのをミストは今か今かと待っていた。
どんな理由があろうとも除名された身、冒険者として活動するための場所を変えるためだ。
けれど、そんな彼の背に鞘に入った剣が突き付けられた。
「ボクを置いてどこへいくんだ?」
声の主は前日まで所属していたパーティーのリーダーであるリリィ。彼女は、ミストが動かないと判断すると、剣をおろす代わりに手を伸ばし服を掴んだ。
「俺は除名されたから、他の街へいくつもりだ。お前こそ、なんでいるんだ?」
「ボクは昨日、解散を宣言した。そして、他の二人も賛成した。つまり、賛成3。その前にキミは除名されたから、数に含まない。つまり、満場一致でボク達のパーティーの解散は決まった。なら、どこへ行こうとボクの自由。それに、昨日までのパーティーはボク達で作った。君を放り出すのなら、ボクは君と一緒に行く。約束だろ?」
「そうか。……しっかし、これで何度目だろうな。お前が見付けてくるのは、いつも力だけのやつだ」
「君がいれば、戦力以外は低くてもいい。でも、それが迷惑なら、もう少し頭がいいのを探すよ」
「……しばらくは、二人でいいだろ」
「そうだね」
門が開く時間になり、二人は共に街を出て行った。
日が高く昇った頃、前日に追放から解散という茶番劇が開催された冒険者ギルドで二人の女冒険者が騒いでいた。
「どういうことですの」
「なんでパーティーがなくなってるの」
「昨日、リーダーであるリリィさんから解散届が提出されました。貴女方のパーティー内ルールにのっとっての解散だそうで、こちらとしては受け取りを拒む理由はありません。ただ、伝言があります。聞かれますか?」
すると、自分たちに都合のいい解釈をしたのか、満面の笑みを浮かべ、その続きを促した。
「『他のメンバーの領分について、わからないのはいいけど、間違った見方をして侮辱するのは許さない』だそうです。貴女方が他のメンバーを追い出そうとした時に上げた点についてもお預かりしていますが、お聞きになられますか?」
「そんなわけありませんわ。わたくし達は正当な理由があって、あの男を追い出したのですわ」
「そうだそうだ。その伝言もあの男が仕組んだんでしょ」
「それでは、伝言を続けます。『まず、マギサ、キミが使っていた錬金薬だが、あれはキミ専用に調合されていると説明を受けているはずだ。キミが横流しして使った相手から効果がなかったと言われたことに関しては、調べがついている。次に、シルフィ、依頼の途中であろうとも、キミ個人が見付けた薬草に関しては何も言わない。けれど、それが高騰している時の価格と、随分前にパーティーで売ると決めた時の通常価格を比べるのは間違っている』とのことです」
受付の職員は伝言メモを読み切ると使えた表情を見せる。
二人が用意した理由が全て言いがかりであったことが人の多い場所で明らかにされ、ただただ絶句している。
しばらくして、周囲からの視線に気が付いた二人は、足早に立ち去るが、これらのやり取りを聞いていた冒険者は多く、これから笑い話や教訓として語り継ぐ。
その結果、濡れ衣を着せたマギサとシルフィはどこへ行っても、まともなパーティーを組むことは出来なかった。
続ける続けないではなく、こんな感じのが読んでみたいのを書いてみました。
こんな感じの教えて