第20話 なにか足りない
月島、ありがとう。
適当に言った夢。今ではお前のために頑張ろうと思う。
次の日、月島さんは転校したと知らされた。
「それでは授業を始めます。」
俺の心にぽっかり穴が空いてしまったような気分だ。
授業が頭に入らない。
もう4時限目だ。
僕は授業を抜け、屋上へ行く。
春の風に苛立ちを感じる。
「あーあ、やってらんねー」
「何がやってられないんだ?」
この声は……
「返原先生ですか」
今は一人でいたいんだ。
「何があった」
「別に、何もないですよ」
話しかけるな。
「どうせ月島の事だろう。」
僕の動揺した表情を見て、確信に変わったのだろう。
「君はまだ若い。焦る気持ちは分かるが悔やんでも仕方ないぞ。」
お前には分からない。
「先生に何が分かるっていうんですか」
僕は怒り気味に言う。
僕の気持ちは分からないだろ。
「分からない。だから分かりたい。 だって私は教師なんだ。この先いろんな生徒を見ていく。だから分かってやりたい。」
魔法で二人の世界を創れたら、どれだけ良かったか。
「魔法は万能という訳じゃない」
もっと月島さんと一緒に居たかった。
「でも魔法を嫌いになるな。」
無理だ…
「魔法で救われた人もいる。そうだろ。月島のお母さんはどうなった」
何であんたが知ってるんだよ。
「私も魔法使いさ。月島の気持ちくらいわかる」
あんたもか
「少なくとも月島は魔法が好きだ。そしてその魔法で月島を救ったお前の事がもっと好きだ。もっと前向きに生きろ」
「どう生きるか。」
世界にはそんな難しい質問をした者がいる。
これでいいのか分からない
「ただ……ただ…強がりを言えるなら言わせてくれ」
「存分に叫べ。お前の思い、届けてやれ」
こんないい先生に恵まれた俺は嬉しかった。
「月島ー、俺もお前の事が」
あの時言えなかった一言を、君に届ける。
本当は君に直接贈りたかった一言。
「好きだー」




