村の伝説
その村は辺境にあるどこにでもある普通の村だった。
特に面白いものはなく、観光できる場所もない。
山間の奥深くにあって人口は100人弱の小規模なもの。
おもに生計は森で魔物を狩ってそれを加工して街に売りにいく。
土地を開墾して野菜などを育ててはいたが、毎年半分くらいは魔物の被害にあい、食い食われの関係だった。
村人はみんな裕福ではないが勤勉でよく働いた。
そんな村人の中に少し変わった男がいた。
その男は流れ者でいつの間にか村の端に住むようになっていたが、村人とコミュニケーションをとろうとせずいつも一人でいた。
その代わり、村の外で勝手に畑を作り、魔物を家畜のように飼って開墾を手伝わせたり魔物と意思疎通をしたと伝えられている。
村人たちはこの男を気味悪がり、できるだけ接触をさけていた。
そんな村にある日勇者と呼ばれる男があらわれる。
その勇者は魔王との戦いに敗れ、魔物たちに追いかけられていた。
100人しかいない村人たちは勇者を受け入れるか、それとも見捨てるのかの判断を迫られる。
勇者を救えば村人100人の命も危険にさらされる。
もちろん、その100人の中には女性や子供、老人なども含まれていた。
そんな中で勇者を助ける余裕などなかった。
ただ、村人たちは助けを求める勇者を魔物たちに売って自分たちが助かればいいなんてことは考えなかった。もともと魔物への対策から要塞のようになっていた村は勇者を受け入れ匿い、ありったけの薬草を勇者へ使った。
そして勇者をいざという時の為に作った地下壕へと隠した。
数人の勇者の護衛を残して子供から老人まで戦えるものは勇者を守るため武器をとった。
ただ、その武器も多くはクワや木の棒など武器と呼べるものではなかったが。
斥候の魔物がやってきてその魔物は人の言葉で
「勇者がこの村にいるのはわかっている。翌日の夜明けまでに勇者を渡せばお前たちは見逃してやる」
そう言って勇者を引き渡すように言った。
村人たちは少し時間が欲しいといい時間を稼いだ。
ただ、誰も助けがこないなかで籠城してもすぐにダメになってしまうのはあきらかだった。
その中で村の端に住み着いた男が村人たちにある提案をした。
「北の山には魔王も恐れる不死鳥がいるという。俺はその不死鳥に助けを求めてくる。その魔物の力を借りられれば魔王軍とも戦わずに済むはずだ」
村人たちはこの男がいったい何をいいだしたのかわからなかった。
不死鳥?そんなの聞いたことも見たこともなかった。
ただ、今はどんな手段でもいいから助かることができるならとその男を村からでることを許した。
ほとんどの村人たちはこの男が嘘をついて逃げ出したいだけだと思っていた。
村人たちのように守る家があるわけでもない。
ただの流れ者なのだから。
その男は狼の魔物にまたがると村の塀を飛び越え暗い森の中に消えていった。
残された村人たちに勇者を守るため武器をとり寝ずの番をした。
そして夜明けとともに村に魔物たちが襲い掛かった。
魔物たちと善戦をしていくが、少しずつ減っていく村人たち。
このままでは村人全員がそう思った時、空に太陽より輝く鳥があらわれた。
その鳥は魔王軍を追い返し村人たちを救ったという。
その不死鳥は村人たちに
「この村は私の支配下となった。私のためにかがり火をかかげる限りこの村を守ってやろう」
それが今からおよそ200年前。
それ以来この村ではかがり火をたき不死鳥との約束を守っているという。
その火守りの役目をすることになったのが俺の生まれた家だった。
不死鳥が本当にいるかどうかはあれ以来誰も見たことがないというのでわからないが少なくとも村は平和で勇者と魔王軍の対立も今は落ち着いているらしい。
かがり火は聖なる守りと言われこの村のシンボルとして今も大切に守られている。
これが俺が生まれてから何百回と聞かされ続けたこの村の物語だった。
俺はあれから成長し5歳になっていた。




