始まりの日
「お客様閉店のお時間になりましたので」
そこは田舎のさびれたパチンコ店。店内には俺と冴えないオッサン以外にお客の姿はない。
愛想笑いを浮かべた中年の女性店員が俺に声をかけてくるが、俺は聞こえないふりをしてそのまま回し続ける。スロットの画面には残り125と書かれている。
「お客様!閉店ですので」
この店員は俺がいったいいくらつぎ込んで当てたかわかっているのだろうか。
6万かけて、まだ2万くらいしか取り返していない。
ここでやめたら軍資金が底をつきる。
無視して続けていると今度は屈強なゴリラのようなゴリラがあらわれた。
思わず二度見してしまう。
服を着ていなければ間違いなくゴリラだ。
横で先ほどの女性店員がどや顔でこっちを見ている。
わかったよ。ゴリラには勝てないよ。
俺が席を立とうとしているのにわざとらしくそのゴリラは野太い声で
「お客様ルールを守っていただかないと」
そして少しあざけわらうかのようにニコリと笑顔を作る。
でも目だけは全然笑っていなかった。
「はぁ」
短いため息の後俺は席を立ち清算にむかう。
俺はこの時年齢33歳にしてパチプロとして生計をたてていた。
本当はニートになりたかったがニートになるだけのお金の余裕はなかった。
たまたま見つけたスロットの必勝法。
いや必勝法なんて言うのも恥ずかしい。
勝てる可能性の高い方法をひたすら繰り返していた。
なんとか毎月プラスになり少しだけタンス貯金もできていた。
だけど、ここ1ヶ月行く先々で負け続けた。
何かに呪われているのではないかと思うくらいに。
「はぁ」
店員から渡されたお菓子と換金用の四角い板をもらいパチ屋の外にでる。
店の中にいたオッサンはもう帰ったのか俺が最後の一人になっていた。
「なんでこんな人生なんだろう」
思い返せば小さな時からなにをやってもダメダメな人生だった。
それでも大人になれば何か変わると思っていたあの頃。
でも小さな頃憧れていた大人とはまったく違う今の姿。
小さな頃の俺に胸なんてはれない。
そんな情けない大人になっていた。
換金所でお金をもらい車に乗り込む。
今日は2万円の負けだから夕食は食べない。
あの2万円があれば美味しいご飯が食べられたのに。
そんなことを考えてもすでに後の祭りだ。
俺は車に乗り、一人で近くの山の上へ車を走らせる。
田舎のいいところは一人になる場所に困らない事。
そして星空がきれいなこと。
満天の星空は自分の小さなことを忘れさせてくれる。
俺はこの場所で星空を眺めるのが好きだった。
駐車場につくとそこにはいつもの先客の人がいた。
その人もいつも一人で星を見ている。
最初は絶対に危ない奴だと自分のことを棚にあげて思っていたが、だいたい同じ時間に帰っていく。
何より、俺と同じ車に乗っているというのが彼に親近感をわかせた。
もちろん話したことはない。
ただ、平日の夜の23時過ぎの小さな山の山頂に車できているというだけで不審者だ。
その日は雲一つなく星空を眺めるには絶好の日だった。
俺は車の中でシートを倒し空を眺める。
この時間はボケっーっと空を投げ目ていると一時間にいくつか流れ星が見える。
今日も空から星が降ってくる。
明日はスロットで勝てますように。
そう願いをこめて星に祈ると。
星は無情にも俺の頭の上に降ってきた。
そして俺は何もない白い空間へと飛ばされてしまった。