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第93話 ローグライク

名前を16字以内で入力してください。

[ミラクル・ヘヴンリー・スカイブル]


◇性別を選択してください。

オトコ

オンナ ←

ソノタ



◇髪の色を選択してください。

アカ

アオ

ミドリ

キイロ

ムラサキ

ピンク

ミズイロ ←

チャ

クロ

シロ



◇初期スキルを選択してください。

ジドウカイフク

スタミナモリモリ

スゴイパワー    ←

ネムリスキップ

タクサンモチモノ

オカネニバイ



◇下の欄に出てきたワードを組み合わせて二つ名を作ってください。

[白銀の魔女]







ーーここは夢みるもののための世界。


冒険を、商売を、研究を、芸術を、戦闘を、恋愛を、友情を、生活を。

そのすべてをかつて夢みた通りに叶えられる世界。


でも気を付けて。

命はひとつきり。

一度目覚めた夢は二度とみることができないの。


それに、ただ立っているだけでいろいろなことが起こる。

だってプレイヤーはあなた一人ではないのだから。

それでも諦めない限り道は閉ざされないから。


全力で生き抜きなさい、あなたの夢を!











主題歌のインストゥルメンタル版の音楽とともに流れるオープニングムービーが終わると、「私」が画面の真ん中にいた。

どうするのかわからず放置していると、二頭身の「私」がぱちぱちまばたきをして、ゆっくり頭を前後に揺らし始めた。



「動かないと眠くなっちゃうんですよ」

画面の前でぽかーんとしてる横からセルスが私の指をコントローラーのキーに添えて、「私」の動かし方を教えてくれる。


十字キーを押すことで移動。

オブジェクトにはすべて名前があり、密接してエンターを押すと選択されて様々な効果が得られる。


「私」を下……というか、コンパス表示によると南に歩かせる。すぐ近くに赤い木の実が落ちていた。

選択すると「私」がそれを拾ってムシャムシャ食べる。

左上の体力ゲージが少し回復して、それから。

デデデン♪という不協和音とともに体が黒い靄に包まれた。



「あーあ、呪われちゃいましたね。不用意に変な食べ物食べちゃうとこうなっちゃうんですよ。しばらく定期的にちょっとずつ体力が減ります」

「セルス。これは落ちてる場所が悪いわ」

「みんなこの場所からスタートなんですよ」

「性格が悪いの?」




「私」を適当に動かして、図書館に入って黒い本を読んでまた呪われ、安くで売ってるお肉を食べて食あたりになり、街を歩くとスリにぶつかってお金を失い、お金が足りなくて宿屋で門前払いされた。



「……セルス」

「はい」

「これ『あなたが考えて、セルスに作らせた』『遊び』なのよね?」

「そうですよ。エフィにもテストプレイしてもらってるんです。ゲームを進めたらいずれ会えるところにいますよ」

「……それ以前に」

「はい」

「私、体力が残り1なんだけど?」

「回復しないと死にますね」

「死ぬの!?」

「死にます」



それはまずい。なんとかして回復しないと。手段を探してうろうろ街中を歩き回ってると、十字キーを長押ししすぎて勢い良く溜池に落ち、その瞬間ゆっくりと画面の色が薄く白っぽくなって点滅し(それと同時にコントローラーもまた8万色に光り)、最後には真っ白な画面に文字が浮かんできた。



「おはようございます あなたの夢は終わりました」








「……セルス」

「はい」

「もう一回聞くわ。これ、あなた達が作った遊びなのよね」

「そうですよ」

「これどこがおもしろいの」

「30回くらい死んだらだんだんわかってきますよ。キャラメイクからやり直しですけど。同じ名前は二度と使えませんから頑張ってくださいね」

「馬鹿にしてるの?」




30回死ぬ、ですって。

こんなクソおもんない……あっクソおもんないって言っちゃった……もういいや!こんなクソゲーをあと29回もやれと!?

ばかなの!?何考えてるの!?

30回も死ぬなんて、死ぬなんてそんな――



ーーそんなのリアナとの修行で換算したら2時間で達成できるな。

しかもゲームだから私自身は痛くないし。

死にっぱなしっていうのもなんか悔しいし。

少なくともエフィリスはそれなりに続けられてるらしいし、スタート地点は同じだし、私にだって。



ごちゃごちゃ言い訳をする頭が急にすっと冷めて、それなのに体が熱くなっていくような変な感覚に襲われて、気付いたらニューゲームをまた選択していた。



街の外に出て、なんか気持ち悪い「魔物」とかいう鳥に襲われて死んだ。

街の外で、魔物じゃないから大丈夫と思って近付いた人間が追いはぎで殺された。

澄んだ泉で水を飲んだら高額の料金を請求されて、食べ物を与えられず働いて衰弱死した。

なんとか次の街に行ったら高い塔があったので登ったら螺旋階段での操作をミスして転落死した。

人の好さそうな村人たちについて行ったら土着宗教の生贄にされて埋められて死んだ。

畑にふらふら入ったら害獣用の電線に触れてしまって感電死した。



その他にも。

「ちょっと!薬使ったらダメージ入ったんだけど!?」

「あっそれ爆弾なので自爆しました~」

「なんで傷薬と同じ見た目なのよ!」

「爆薬も薬剤ですから」

「ふざけないで!」



またある時は。

「セルス!村人を雇って作らせた建物が崩壊したんだけど!?」

「渡したお給料が少なすぎたんですね~、そもそも大工さんを雇ってないのが問題ですね」

「もう無一文なのに借金まで増えちゃった!どうしたらいいの!」

「急いで工面しないと取り立てが来ますよ」

「待って怖い顔の人達に取り囲まれてる、イヤー!いっぺんに攻撃してくるー!」




またまたある時は。

「……セルス。だいたいの理不尽には慣れたけど、急に地形が抉れるほどの爆弾を街に落とすのはナシでしょ!また死んだじゃない!」

「でも二国間の戦争の噂あちこちで聞いてましたよね?どうして両国の上の人にコンタクトをとろうとせず、かといって避難もせずのんびり滞在してたんですか?」

「前触れに対して事が大きすぎるんだけど!?」



などなど。

多種多様な死にざまを見せる「私」を作っては動かし作っては動かして、横で「あっ」とか「んっふふふ」とか「もーいっかい♪」とか言うセルスを無視したりしばいたりして、やっと48番目の私「鏡合わせの乙女 スカイブルー」が森の奥のお屋敷に住んでる「色彩の賢者 エフィリス・アレイルスェン」に会えた頃には窓の外が黒から青に変わるようにうっすら明るくなっていた。




「った……やったわセルス!やっとたどり着いたわよ!」

「うふふ、よくがんばりましたね」

「それにしてもエフィリスだって話すまでわからなかったわ。髪型も服装も全然違うじゃない。まあお菓子とお茶いっぱいくれるところはあんまり変わらないわね」

「本人と同じようなキャラクターを作らなきゃいけないなんてルールはありませんから」

「それ早く言ってよ!ミラクル・へヴンリー・スカイブルー死にすぎて名前略すしかなくなってるじゃないの!」



さすがに47回も死んだらこのゲームがどういう世界なのかはわかるようになってきた。



様々な土地があって、街や村みたいな人が多く住む場所もあれば、洞窟や塔みたいな魔物がたくさんいる危険な場所もある。それに、歩いて進むのはものすごく厳しいけど信じられないくらい美しい海や崖の光景も。


いろんな見た目の人、いろんなことを考えている人、いろんな仕事をしている人、話してくれる人、話してくれない人、敵意を持った人、好意を向けてくる人、騙してくる人、こっちに興味がない人、それぞれたくさんいる。


大きい国の大きい都市、小さい国の小さい村それぞれに「これまで」があって、歴史と呼ばれるその記録はプレイ時間が進むごとに少しずつ増えていく。それに伴ってそれぞれの街にこれまでいなかった見た目の人が増えたり、あるいはこれまでいた人達がいなくなったりした。


小さいふわふわの動物、しっぽの長い動物、建物より大きい動物、建物を壊すほどの腕力のある動物、いろんなところにたくさんいる。

赤い花、白い花、蔦の長い草、背の低い草、葉の大きい木、葉が尖った木、場所によって生えてるものが違う。




難しいことはたくさんあるけど、それ以上に今まで見たこともない鮮やかな世界が画面いっぱいに広がって、進んでも進んでも新しいものに出会える。


とにかく広くて風の音だけがびゅうびゅうする草原。

天気によって麓から見える色が全然違う山。

暗い路地にある暗幕をめくれば視界いっぱいに広がるランプの光。

お金を払うと一定時間乗り放題のすごく速い自転車。


「ちょっとだけおもしろい……って言えなくもないかも」

「よかった」

「それにしても変わった世界ね。セルス、これを一から全部考えたの?それは純粋にすごいわ」

「……最初はそのつもりでした」


セルスが少しだけ寂しそうに微笑んだ。




「どこにもない、現実とはまったく違うファンタジーの世界を作りたかったんです。実際途中まではそのつもりで作っています。でも今は、現実自体が大きく変わってしまいました」

「……大戦のこと?」

「わたし達が失った世界の、わたしが失いたくない記憶。かつての現実にDreaming Worldはどんどん近付いているんです」

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