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第89話 大歓迎

「きゃ~~!!!パソコン動かなくなりました~~!!!もうなにもわかりませ~ん!!!!!セルシオルどうすればいいんですか~~!!!」

「モニター!モニターのコード抜けてます姉様!あーっモニターぺしぺし叩かないでください!本体はもっとだめです!もうなにもしないでください姉様!!」

「ただいま麗しの女王様とナイト!今日も元気いっぱいだね、懐かしのミストシティの駒鳥が囀っているのかと思ったよ!また君達の笑顔を目に焼き付けられるのなら徹夜で運転した甲斐があったってものさ、おっと視界が霞んできたや本当にミストシティかなここは……すぅ……」

「おい誰だ冷蔵庫のサラミ食い散らかした奴!ちょっとずつ残しやがっていい加減にしろ爪剥ぐぞ!おいミナギ何サボってやがる!日課が終わってないだろうが!」

「ゴミみたいな外界さらば!ゴミそのものな我が家おひさー!」

「ミルフィアリス、ここに座れ。うろうろするな。おいセルス、私のファイルはどうした……いや今はいい、セルシオル後で教えてくれ」



なんなのかしらこの状況。


「着いた」

っておとうさんに言われた頃には夜が明けていた。いつの間にか眠っていたようだ。

目をこすりながら車を降りると、緑地公園のそばにある集合住宅の管理人室に案内された。建物は普通のランクとして建てられたように見えるけど、壁とか水道管とかがところどころ古くなってるし壁にツタが這ってる。


ドアを開けたらさっぱり整頓された事務机と金属製のキャビネットだけの殺風景な部屋が広がってたけど、キャビネットの引き出しについたダイヤルをエフィリスががちゃがちゃ回すと、何もなかったはずの壁に扉が浮かび上がってきた。その奥にある階段を上や下に進んで、たまに狭い通路を歩いて、それを繰り返して辿り着いたガラス扉の向こうに広々とした部屋があった。



床はフローリングで、奥に調理スペース、そのそばにたくさんの人が掛けられそうな四角いテーブルと椅子、手前に大きいソファーがある。それから部屋の真ん中に、上に続く吹き抜けの階段があって、たくさんのドアに囲まれるように見下ろされてるのもわかる。

いろんなものがごちゃごちゃ散らばってる。昨日までいた倉庫と違うのは、倉庫にあったのはもう使われないもの、いわゆるジャンクだったように思えるけど。


タイトルから発禁ものだと一発でわかるような本やディスクの山。どこにつながってるのかわからないコードの束に、二つの目では見きれないほどたくさんのモニター。大きさも色も硬さもばらばらな球状のもの。銃。筋肉に負荷をかけて訓練するための器具。実際見たことないくらい古い車両や飛行機、それに人間に似てるけど人間っぽくない何かの模型。奇妙に曲がった形状の棒。悪い食べ物やその空き袋。他にも何に使うのかよくわからない物が山ほどあるけど、そのすべて。

そのすべてが、ここに住んでいる人が欲しくて得たもの。今も使われているもの。生きているものに思える。



おとうさんに言われてソファーに座ったけど、後ろでみんながわあわあ忙しそうに叫んだり暴れたり騒いだりしてる。


さっきからずっと女の人が機械の前であわあわして、隣にいる人の腕を引っ張ってる。光に透けて緑に見えるくらい薄い色の茶髪が、肩の上くらいの長さで揺れている。

引っ張られてる男の人は、女の人と同じ色の髪を頭の下でゆるく結んでる。二人とも結構細身だけど、二人とも声が大きい。頭にぐわんぐわん響いてくる。


その二人が何かする度に紙の束が崩れそうになって、おとうさんが急いで食い止めながら

「おい何故これがここにある」

って二人に話し掛けてるけど全然聞いてもらえてない。


リアナは上着を脱いで、女の人とは思えないくらい筋肉でパツパツのTシャツ姿になったと思ったら、冷蔵庫から長めの水筒を出して勢い良く振ったかと思うと中身をごくごく飲み干した。

その後階段を上がろうとするパパの首根っこを掴んだかと思うと、床に勢い良く投げ飛ばした。

その後ずっと二人で

「まだまだ鍛え方が足りん!」

「勘弁してくださいよ師匠!帰ってきたばっかじゃないっすか!」

「そういう時に気を緩めるからお前はいつまで経っても勝てないんだろうが学習しろ!」

とか言いながら殴り合って……いや蹴ってもいるし、相手が床に伏せても腕や脚を固めて引っ張ってもいる。もう何なんだろう。


エフィリスはさっきの言葉の後、椅子に座ったきりすっと静かになったと思ったらスイッチが切れたみたいにうつ伏せになって寝てる。周りがどれだけうるさくても起きる気配がない。




することがない。



私が立っても、他の六人は気付かない。

何となしに部屋の中を歩き回ってみると、その度見たこともないものが目に飛び込んで来る。きらきらした石。布にくるまれたボタン。虫の図鑑。何だろうこの空間。

色々なものを見て回っているうちに階段を上がりきっていた。手すりの向こうを見下ろしてみると、うん。やっぱりごちゃごちゃしてよくわからない空間だ。どこかを誰かが片付ける度、別のどこかが散らかっていく。



その様子を眺めてると、背後で扉が開く音がした。

まだ人がいたんだ。そう思って振り返ろうとした。



振り返れなかった。




すごい勢いで後ろの部屋に引きずり込まれたかと思うと、床に引き倒された。


うつ伏せになるや否や大きい何かがのしかかってくる。はあはあと荒い息が耳にかかる。下敷きになった身体じゅうの骨が重みで悲鳴を上げてる。藻搔こうとしても指一本動かせない。

なんでこんな目に遭ってるのかわからない。荒っぽくて容赦がなくて痛い。なんとか声を絞り出そうとするけど怖いのと重いので呼吸すら途切れる。



こんなとき、何て言えばいいのかを知らない。何をすればこの状況から脱せるのかを知らない。上にいるのが人であるのかも知らない。

でも、でも。


パパに首を絞められた時。

銃弾が飛んで来た時。

SAITに囲まれた時。


虚無から恐怖へ、恐怖から絶望へと塗り替えられていく頭の中で、たったひとつだけ縋れるものの名前が、願望が、言葉になって浮かび上がってくる。



「……て」



さっきまで途切れ途切れだったのが嘘のように息が固まって、声になって出てくる。





「たすけて!おとうさん!」





ばんって扉の音がして、体がふっと軽くなる。

見上げると、普通の人の二倍くらいある身長の男の人が後ろから腕を捻り上げられて呻き声を出してる。



「ミルフィアリス!」

「おとうさん……!」




私が起き上がると、おとうさんが床に落とすように男の人からぱっと手を放す。私の腕を引っ張って、私を背中で隠すように扉側に後ずさる。

「おとうさん、私、私」

「目を離すんじゃなかった」


本当に来てくれた。

座ってろって言われたのに、勝手にうろうろしたのに、全然怒られない。



「アンソニー、こいつは侵入者じゃない」

「ぐるるるる!!!」

アンソニーと呼ばれた大きい男の人が飛び掛かって来たけど、おとうさんがその腕を掴んでくるっと回して、また床に叩きつけた。

でも何回も、腰ほど長いピンクブロンドの髪をぼさぼさにしながら彼は起き上がって来る。そっと覗くときつく睨み付けられたから、思わずおとうさんの背中に顔を埋める。




「そこまで、アントン」

急に上から声が降って来る。声だけじゃない。人がロフトベッドの上から飛び降りてアンソニーの背中をクッションにして床に着地した。


「ハ、ハルカ、おれ、おれ」

「うん。こわかったね、大丈夫だからね」

アンソニーは床に頭を擦りつけるくらい小さく丸まって震えている。飛び降りてきた人の身体全部包めるくらい大きい彼の手は、潰さないようにそっと耐えてるように見えた。

彼の頭をひと撫ですると、飛び降りてきた人がぱっと振り返る。


「イグナーツが悪い!」

「ハルカ、これには事情が」

「どんな事情があってもアントンに落ち度はない。おーよしよし可哀想に」


ハルカ。くすんだ金髪のショートヘアにだぼだぼのパーカーとズボンを身に着けてる人。

アンソニーが大きすぎてよくわからないけど、大人にしては背が低い。服装は男の人みたいだけど声も高いし、女の人だと思う。


「どうせその様子じゃ他の奴等にもちゃんと説明してないんでしょ。セル姐に至っては存在すら気付いてないんじゃない?荒れるよー」


彼女はふうっと溜息を吐いたと思うと、私の目の前に来て屈んでいた。

一秒前にはアンソニーの手で包まれていたはずなのに。それに私はおとうさんの後ろにいたはずなのに、顔をまじまじと覗き込まれている。



「おとうさん、か。あのさあ、イグナーツ」

彼女の言葉におとうさんは返事しない。

「どうせミナギでしょ、こういうこと考えるの。解るよ、一生無理だもんね。でも」

「……」

「それでもこれはどうかしてるって思うよ」


二人は無言で見つめ合ってる。睨み合ってるという方が正しいのかもしれない。アンソニーはずっと丸くなったままだし、私もどうしていいのかわからない。



結局その後傷だらけのパパが階段を上がってきて

「ミルフィアリスみっけー!あれっ何してんだ?」

って空気を読まずに入ってくるまで一歩も動けなかった。

パパは私を抱き上げると

「三人ともボーっとしてないで下行くぞ」

って言って部屋を出て行く。



動く様子のない三人をちらりと振り返るとパパは言う。

「昼飯いらないのか?」

「……ミナギ、あんた達さあ」

「うん、だから。説明したげるって言ってんだよ」


おとうさんの足音が聞こえて、その後に二人が続いてるのもわかった。

階段を降りると、他の四人がテーブルを囲んでいた。



眠そうな目をこすりながらエフィリスがひらひら手を振って来る。その隣の席でリアナが腕を組んで反り返ってる。

エフィリスの向かいにいた髪を結んでいる男の人も振り返って、私のことを二度見してきた。


そして、長方形の机の短い方。一番端の奥の席に、さっき機械の前で慌ててた女の人が座ってる。

パパの膝の上に座らされた私を見て彼女は口に手を当てて

「あ……ど、どうして……」

って言ってる。




パパがふっと笑う。

「セルス、そんなに驚かなくても。何度も殺した女の顔が出てきたくらいで」

九人も場にいるんですけど次どうしたらいいですか。ほぼ全員好き勝手喋る人なんですけど......。

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