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第74話 大激突!害虫VS害獣!!

「なにしてくれてんですか殺す気ですか~~!!フロアくんのばか~~ッ!!!」

「しぶといな!この*☆◆♯㈱$〒(コンプライアンス的にとても表記できないえげつない悪口)!!!」

地上にキエルが舞い戻ってくると同時に、穴の近くに陣取っていた車は水圧で下に引きずり込まれるわ、フロアの指揮でそこかしこから銃撃が始まるわ、キエルがそれらをヒラヒラかわしながら砲台をキックで次々へし折っていくわ、もうなんだこれ。


飛んできた破片での巻き添え死だけは嫌だ!

死にたい死にたいとは思っていたけど、こんなしょうもない死に方は嫌だ!私はバノンと一緒に星が見渡せる綺麗な場所で眠るように息を引き取って幸せな最期を遂げるんだ!


「さっきから!なんなんですかあなたは!」

「説明するまでもない!僕は君の敵だよご機嫌よう!」


私だって説明されてないしご機嫌も最悪!そんな私達の様子にはお構いなく戦闘は続いていく。

展開されていく激しい弾幕は、それでもキエルを捉えられない。宙を自由に舞い、誰よりも高く飛び上がり、着地するだけで波のように周囲に衝撃を与えていくなんて彼女にとっては呼吸のように容易いはずだ。その機動力だけで十分だ。最大の武器である歌すら必要ない。いくら装甲を厚くしたところでハーフラビットみたいな小さくて弱っちい連中がどうにかできるわけない。彼女が疲弊するまで耐久する持久力か、きっちり沈めきるだけの速さと命中率。そのどちらも彼等にはない。


傍目に見てもわかる。一人また一人と沈められ、部隊は徐々に壊滅してく。どれだけ頭数が多くても、開けた場所じゃ飛べない彼等は絶対に勝てない。市街を破壊することを躊躇っている彼等には切り札なんかない。

いや、きっとさっきの毒が、車両群が切り札だったんだ。地下空間ならどれだけ破壊し尽くしても問題ないから、最大火力を投入できたんだ。キエルが地上に出てきてしまった時点で彼等は詰んでいるんだ。



「言い訳してもいいですよ」

ほら。もう司令塔しか、フロアしか立っていない。

防護服に覆われているせいで表情どころか、顔以上に感情を表していた耳の状態も見えない。

いつでもあなたを蹴り殺せる。そう言いたげなキエルの目線が彼の数メートル上から注がれている。若草色の髪が風に煽られようが途切れることなく。

いつも光を受けて虹色に輝いていた羽根は、彼女の怒りを表すかのように夕日の赤紫を乱反射させている。


「理由を教えてくださいって言ってるんですよ」

「…………」

「わたしがあなたにとってどう邪魔だったのか、言ってください。言わなかったら」

「殺す?それもいいね」

「ふざけないでください。信じてたのに」

「何回も殺そうとしたのに何を今更信じたいのさ」

「そうですね、何回も。今朝わたしたちとマレグリットさんたちで話し合おうとしたら『誰か』が割り込んできて、煙をもくもく~ってさせて刃物を投げ付けてきて。おかげで誰と誰が戦ってるのかわからなくなりましたし、ミウちゃんが来た時にはわやくちゃになってましたよね。『誰か』はさっさと逃げたし、わずかに金髪が見えただけでした。最初はマセリアさんかな?と思ったんですけど、ゆっくり考えれば考えるほどつじつまが合わなくて。思ったんです、これは教会がどかーんってなった時と同じだって」

「へえ。ゆっくり考え事なんかできたんだね、君」

「思えば何回もわたしの部屋に入ってきましたよね。で、ミラディスくんやソフェルちゃんに思いっきり警戒されるたびに、てきと~な話でうやむやにしましたよね。わたししかいなかったらどうするつもりだったんですか」

「嫌んなっちゃうな。君の護衛くんと騎士ちゃん、仕事できるね。こっちの絶好のタイミングを悉く潰してくれたんだから。うちの会社で雇いたかったくらいだよ」

「わたしね、嬉しかったんですよ」


淡々と詰めるつもりで話しているのだろうけれど、キエル。

もう声色に出ちゃってるわよ。ぶちぎれてるって。私も同じくらいあなたを怒らせたことあるからわかるわ。


「知らない人に脅されて無理矢理連れてかれて、誰を信じられるかわかんなくて。そんな時に、教会の外から会いに来てくれる人がいることで、すっごくほっとしたんですよ。教会の窓から見えるよりずっと外側にもちゃんと世界が広がってるって、繋がっているって思えたんですよ!お茶も、お菓子も美味しかったです!教会の中で口にしたものの中で一番美味しかったです!これが美味しいものなんだって、あなたが教えてくれたからなんですよ!」

「たった一晩泊めたくらいでそこまで心を開いてくれるなんて役得だね」

「友達だと思ってたのにどうして!」

「友達、ねえ」


フロアの声に嘲笑の色が浮かぶ。


「なってくださいなんて言った覚えはないよ」


それを聞いた瞬間キエルが急降下してきた。

フロアの防護服のフードを乱暴に剥いで、白黒の長い耳を片手で鷲掴みにして持ち上げる。

彼は一瞬びくっと身体を震わせて硬直する。


「動けないんですよね、うさぎさんは。地に足がついてないと」

狩猟の成果のように吊り下げられた身体。その短い手足では彼女に抵抗すらできずにいる。


「勝負ありました。ごめんなさいしてください。そしたら許してあげます」


いつかキエルに言われたことを私は思い出していた。

「この程度なんですね、神様って」

そう言われた。

そうだ、彼女はきゃいきゃい煩い割に、あどけない振る舞いをするくせに、感情をたっぷり込めて喋るというのに。いつだって相手を見定めている。

そういう意味ではこの二人は似た者同士だ。


一つ違うのは、キエルはじわじわと無秩序に手の内を明かしてくること。

フロアは。



「……!いけない!」

私がそう叫ぶのと同時に、彼が自分の胸元のファスナーを下ろす。

中に着ていた服の大きめのポケットには、見覚えのある――私がついこの間、ゼクスレーゼに向けて使ったのと同じものが入っていた。



「地に堕ちろキエル・セルスウォッチ!」


銃声が、響く。




呆れた。使い方をよく知らないって本当なのね。まるでなっていない撃ち方。狙いが全く定まっていないし、肘が開いているし腰も引けている。そもそも反動があることすら理解していなかったみたいね。完全に仰け反って、隙だらけだわ。私の戦い方とか見て勉強しなさいよ。

こんなので今まで騙くらかしてきたつもりなら本当にお粗末。

歌姫から命を、声を、歌を奪うにはあまりにも歪な軌道。


だけど、ああ。


空から妖精を奪うのには成功してるじゃない。



透ける羽根には穴が開き、キエルは大きく体勢を崩す。

衝撃で開かれた彼女の手から長い耳が滑り落ちる。



仲良しか。私が助けてあげられない状況だって、見たらわかるわよね?無茶苦茶な戦い方するんじゃないわよ。

二人して近くの建物の屋根に叩き付けられて倒れ込むなんて、何の冗談なの。



「……フロアくん」

「…………」

「わたし、別に教会のものになってないですよ」

「……どうだか」

「ミウちゃんとゼクスレーゼさんがあんなことになって、思ったんです。わかり合えたら良かったのにって。会う人会う人みんな、どうしても気持ち悪いところとか、許せないこととか、協力できないことはあるけど、できるだけけんかしたくないです。わたしと関係ない人同士でも、けんかしてほしくないです」

「強者の発言だね。勝った後に平和を説くなんて卑怯だよ。反吐が出る」

「わかったかもしれません。あなたの正体」

「…………君の言葉で語らないでくれる?」

「じゃあこれはセルス様の言葉。あなたは『敵の手の者』です」

「君の敵だって言ったじゃん」

「そうじゃないです」


屋根の上で痛みに耐えながら、どうにかキエルが顔を上げる。

フロアは顔を伏せたままだ。


「あなた、最初の神じゃなくて『せいふ』に造られたんでしょう?」

「勉強しなさいよ」ってミウに言われたかないな

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