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第73話 ふわふわこまんどー!

うげ!!酔ってきた!!

いつまで宙吊りにされなきゃいけないのよーー!!!



ちなみに今の状況はというと、まあたぶん地下は手遅れだ。

巨大な車両からごうごうと吐き出されているらしい毒は無色で私達には見えない。

一般的にこういうガスはすごく重いはずだ。下に向かって長いノズルで噴霧されていることもあって、上方に吊り上げられている私には今はまだ何の影響もない。

とはいえ、最大限に警戒すべきであることには間違いない。

ぶらぶら揺れる網の中でなんとかバノンの腕を手繰り寄せ、身体を私のコートの前身ごろで包み込む。

「目瞑っといて、バノン。念のためだけど」


そういやこのコート、フードあるんだった。被っておこう。

だぼだぼだからたまに不便に感じることもあるけど、私とバノン二人を包み込めるくらい大きいなんて。こういう役立ち方するとは思ってなかった。

どっちにしろ大切なものだから、置いていく選択肢はなかったんだけど。


あれ?なんでこれ、大切だったんだっけ?



って、よく見たらフロアちゃっかりガスマスクしてやがる!防護服も着てる!

神をこんな目に遭わせて、何て奴だ!



下の作業に従事しているのも、みんな頭部が縦長の奇妙な防護服を着ている。

「全員ハーフラビットなのね」

「そうだよ」


私の言葉に反応するくらいの余裕があるらしい。危険物取り扱ってるんだからちゃんと集中しなさいよ。


って言っても集中されても困るんだけど。こんな明確で用意周到な殺意を他人に向けるような奴等だ、私達だって何をされるかわかったもんじゃない。とっとと脱出しないと。


ていうかそもそも。

誰を狙って?何のために?なんで今?どこに隠し持ってたの?

それを尋ねて素直に答えてくれるわけがないし、知ったところで特にメリットはない。そんなことは承知の上で、憶測を口にしてみた。


「会社が爆破されて、そんなに嫌だったの?」

返事はない。

「社員を殺されて、会社を壊されて、教会に復讐するためにこんなことしてるの?」

「違うよ」


きっぱりと否定される。


「まとめて排除するだけだよ。これは僕の役割で、感情じゃない」

「役割?」


そんなことを誰かの口から何回も聞いた気がする。

というか、さっきの会話でこいつに確認されたのはマレグリットがいるかどうかじゃなかった。別の人物について尋ねられた。

そう、その誰かというのは。



「――!あなたまさか」

「まったく、早々にあいつらの手に渡っちゃって、護衛なんかつけてくれたりしてさ。ちょっとはわかり合えること期待してたけど、なんにもわかってなさそうだったし。何の恨みもないけど処分した方がマシ」

「キエルのこと殺す気なのね」


フロアはその問いに何も答えないけど、その態度が肯定であることはゆうに理解できた。

爆薬が次々に投下され、地面が揺れているのが分かる。

市街に死傷者を出さないために地下を一方的に蹂躙しているのはわかるけど、それにしてももうちょっと加減しないと余波で建物とか損壊するんじゃないかしら。


とか懸念している場合じゃない。

キエルがもう助からないとしても、このままではいけない。化学兵器なんてもんはバカスカ使っちゃだめだと相場が決まっている。一方的に勝たせるのも癪だ!



(プリズム・)……!」

「何をしても無駄だよ、ミウ」

「は?」

「あの穴を塞いだところで、地下空間の天井を塞いだところで、あの空間自体の底を地上と同じ高さまで押し上げたとして。逆に何ができるっているのさ、言ってみて」

「な……!」

「もう作戦は始まってるし、底に充満した毒素が体内に致死量取り込まれたら僕の勝ちなわけだし。塞いだところで死期を早めてくれてありがとうとしか。もしここまで押し上げたら僕等も関係ない市民もみんな死ぬ、それだけの話だよ。許容範囲内では最悪だけどね。ああでもいっそそっちの方が良いのかな?」

「私達も殺す気なの?」

「他のメンツ次第かな」


他の、ってなんだ。

キエルや教会関係者以外にまだ何かあるの?

そこに引っ掛かりを覚えると同時に、色んなことが繋がり出す。




八個の大聖遺物があるとキエルは言った。

私とキエルが世界を滅ぼす存在だとも。

ゼクスレーゼとの決戦の直前、キエルがフロアに頼まれた、謎の暗号の発見。あれ、誰が誰に宛てたもので、どういう意味だったんだろう。

マレグリットは何て言ってた?

思想の内容なんかに噛み付いている場合じゃなかった、手段は何て言ってた?

世界すべてを救うには、大量の力を処理できる容量を確保する必要があるって。大聖遺物であることに意味があるって。




「......フロア。このこと、いつ決めたの?」

「君が教会から生きて帰ってきた時だよ」

「なによそれ」

「あいつらの味方であるはずのゼクスレーゼを殺した君達がマレグリットに見逃されて普通に生きて帰されるなんてあり得ないでしょ、ゼクスレーゼ以上の価値がある以外には。もっと言えば」

「ゼクスレーゼじゃなくて、神殺し(ミストルティン)が大事だった。私じゃなくて夢鏡(プリズム・ドリーム)を狙っている。キエルじゃなくて」

聖歌(ヒュプノーゼ)伝承歌(ヒュムネ)を最優先で確保しなくてはいけない。でなければ目的は果たせない。逆に言えば」

「歌さえあればあいつらは取り返しがつく。そう言いたいの?」


大聖遺物が集められていたのはわかる。八個に近付けば近付くほど、マレグリットの理想への道程がより確実に、強固になっていくことを期待されていたのも。それをフロアが阻止したいのも、一応は筋が通っている。


でも、でも。何かが矛盾しているように感じられる。

その何かを突き止めることなんか私にとっては重要じゃないけど、でもこれだけじゃ絶対に説明できない論理の「穴」がどこかにあったはずだ。私は今この違和感を解消できていない状態でただただ持っている。



「……ねえ、セルシオールの正体を知ってる?」


下で繰り広げられる「作業」を見つめながらフロアがぼそりと問い掛けてくる。

まだ砲撃は止みそうにない。たった一人を殺すためには執拗と言えるほどに、念入りに攻撃を加えている。

ちょっと気分悪くなってきた。肉体的にじゃなくて、気持ちの問題。


「人を洗脳して眠らせて、それから歴史を圧縮して子孫に伝える一族でしょ?それのどこに、ここまでやる必要があるのよ」

「そんな生易しいものじゃないよ」

「は?」

「この世界に存在する無数の選択肢から、真実(ドミナティブ)を選び取っているんだよ。正しかろうが間違ってようが、自然だろうが無理があろうが関係なく、彼女が、彼女の認識を頼りに、歌うことで、自動的に、一本に統合されて。具体的に言うと事象の表層を覆い変換していき保存することで不可逆性を」

「わかるように言って」

「生まれながらの支配者ってことさ」



その瞬間。

不意に穴から大量の水が吹き出てくる。

上に向かってまっすぐ、まるで柱のように。

重力によって押し戻される水流の圧によって、縁に陣取っていた車両が次々に穴に引きずり込まれていく。



そして水の柱の中心から、弾丸がこちらに向かってくる。

いや、人だ。目にも止まらぬ速さで、人が一直線に飛び込んでくる。

それが誰か私にはわかる。

目で捉えられなかったとしても、フロアにだってわからないはずない。



「キエルキーーーーック!!!!!」



だって技名で名乗ってるから!

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