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第67話 誰も知らない獣の名

愛とは何かしら。


少なくとも冷水がいっぱいに張られたバスタブに頭から沈められることではないし、食事と称して床に落とされた生ごみを舐めさせられることではない。

同じ能面みたいな顔をした集団で輪になって手を繋がされることでもなければ、全員上の空で誰も見ていないような「きょうしつ」の床を毎日拭かされることでもない。


だからそれらのことしか知らないなら、愛なんて知らない。知るわけがない。



ああ、でも。でも。

この世界で初めて手に入れたのに、ここ以外にあるはずがないのに、生涯得ることなんかなかったはずなのに、やっと最も美しい形で持つことができたのに、



私はどこかで、確かに
















「そんなの愛じゃないよ」


はっと目の前の人物にぼやけていた焦点が合う。

私の意識を現実に戻したのは、私の意識を逸らさせたのと同じ、対峙している敵の声。

私を否定する、同じ言葉。



「寂しいから誰かについてきて欲しいだけ。綺麗な存在を手元に置いておきたいだけ。肯定されたいだけ。否定されたくないだけ。ずっとずっと本質からは目を背けてる」


ダルネは話しながら一歩踏み出してくる。

どんな軌道も見えなかった。でもさっきまで何もなかった箇所に裂傷が増えている。


「嫌いだなあ、そういうの」


指に、手の甲に、前腕に、上腕に。出血自体は多くないのに、動かす度にひどく痛む。


「世界が死体まみれなくらいなんなのさ、何がおかしいのさ、何が醜いって言うのさ」


この身体は強化されているはずなのに、目線を切っていないはずなのに、何も見えないなんて。


「誰が生きてようが死んでようが世界の構成要素に変化なんかない。俺にはそんなことどうだっていい。でも愛を騙るのは何よりも醜いと思うよ」


何もできないまま再び膝を着いたのと同時に、首に冷たいものが当たっているのを感じる。


「マリーは君にまだ生きてて欲しいみたいだけど、不愉快だなあ。もう死んじゃえば?」


刃がゆっくりと皮膚に食い込んでくる、その刹那。

すぐ後ろからものすごい熱気を感じる。


「×こそは××なり……」


よく知った声がぼそりと聞こえ、ダルネの身体が熱風によって後ろに吹き飛んだかと思うと、一瞬にして炎に包まれる。


生命の起源(ジェネシス)


……かと思ったけど、ほぼ同時に別の声が淡々と発せられ、大量の水が彼を膜のように覆い、炎は消える。

水の膜がぱんっと風船のように割れて消え、中から出てきた彼は、軽く皮膚が赤くなっているものの重い火傷を負っているわけでもないようだ。


彼は嘲るような笑みを向けてくる。


「ほらやっぱり。使えるんじゃん」

「何がよ、何が起こったのよ」


あまりにも速くその攻防は行われ、状況を必死に頭の中で整理する。

ジェネシスを使うのはマレグリットで、それからあの熱は、ゼクスレーゼと初めて戦った時と同じ……


「なんで今まで使わなかったの?」

ダルネがしゃがみこんで語りかけてくる。けどその目線の先にいるのが私じゃないことに気付く。




「ずっとそばにいる子、怪我してるよ?なんで君はそんななのさ」

「…………」

「ちゃんミウが強いから一人で戦わせてもオッケーって思ってるわけ?そんなに甘えてて良いって思ってるんだ?」

「…………」

「それとも、何。そんなに()()()が嫌いなの?君の愛はそんな気持ちに負けてるの?」

「…………っ」

「そんなのしか持たない奴等に俺は負けないし、マリーにだって触れさせないから」




「あなた何よ!何勝手にバノンに話し掛けてんの!?何訳のわからないこと言ってるの!?」


そう怒鳴って、黙り込んでいる彼女の方をふと振り返り、はっと息を呑む。

見たことがないような顔をしている。

ううん、見たことある。ついさっき、運び込まれたベッドの上で。光の届いていない瞳、笑みも痛みも何もかも消えた表情。

バノンがダルネの言葉に反応して、閉ざされていた唇を開いていく。



「バノバノさー、目の色たまに金色になってるじゃん?」

「…………て」

「そういう時さ、必死にちゃんミウのこと助けようとしてるじゃん?」

「…………やめて」

「でもすぐ茶色に戻って、何もしなくなるよな?」

「やめて、言わないで!」

「まるでさ、別の自分がちゃんミウを助けるのを抑えて邪魔してるみたいにさ!」

「やめてって言ってるの!!」

「そんなの愛じゃない!!!」



バノンに投げつけられた刃を咄嗟に夢鏡(プリズム・ドリーム)で弾き飛ばす。



彼女は何もかも終わったような呆然とした顔で俯いている。

ダルネはじゃらじゃら長く垂れているピアスをいじりながら話し続ける。



「俺はね、マリーの願いが叶うなら、そばにいて守れるなら何だっていい。マセリンの力がないと存在すら成り立たなくても、レーゼがいないと教会が機能しなくても、必要とされてる力を持ってるのがキエっちゃんでも。そういうことに関して俺が何の役に立てなくても、先に死ねって言われる時がいつか来ても、マリーが傷付くことなく最後まで理想を追えるなら、何だっていいんだ。だってマリーは俺のマリーだけど、俺だけのものじゃないもん。みんなの家族で、みんなのマリーだからこんなに綺麗なんだもん。だから」


ピアスをいじる手が止まる。


「そんな汚い欲をマリーの目に入るところで垂れ流さないでくれる?」






う、う、うるせーーーーーーー!!!!!



もう許さない!黙って聞いてれば言いたい放題言いやがって!

そんなしょうもないことでバノンのこと責めるんじゃないわよ!!



何が腐乱死体だ、何が暴風だ濁流だ暗殺者だ!!


誰がこの空間の主か忘れたのか、ばかめ!

そんなことで揺さぶられて思考を止めるとでも思ったか!


私に考える時間を与えたことがあなた達の敗因よ!!!



「夢鏡!!!!!」



年内はファイアーエムブレムやるので更新しません!



今年はたくさんの人に作品を読んでいただいて嬉しかったです、ありがとうございます!

来年もよろしくお願いします!


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