第62話 大聖遺物
1.世界を描く言語 ――世界の合言葉――
「皆さん、私達はこうして永遠に生きられる方法に辿り着いたのです」
2.無から創造される領域 ――夢みる空間――
「理論は完成しました。後は運用だけです、姉様。必ず理想を叶えてみせましょう」
3.新たなる生命体 ――根源からの呼び声――
「最悪の害獣がいてこそ盛り上がるよね~、例えばこんな!」
4.完全なる分断 ――御霊降ろし――
「お前らが自分のことばかりで仕事しないからこんなことになったんだ!本当に最低の屑だな!」
5.殲滅の光 ――天上の青――
「もう終わりなんだから、もっとたくさん殺そう!もっと華やかに、もっと残酷に、もっと絶望的に!」
6.文明の炎 ――死と再生の流転――
「元凶がわかった。何を犠牲にしても絶対に見つけ出して殺してみせる」
7.星に届く剣 ――反証される因果――
「それでも私はここでやっと、初めて受け入れられる気がするんだ」
8.神を殺す刃 ――最後の審判――
「ああ、ああ。本当に消えるべきは――」
「――っていうのが、伝わってる中で最後に『カンソク』された八人それぞれの言葉です!」
「まともそうな奴いないんだけど大丈夫?」
「ほとんど死んじゃったことがかくにんできてるので大丈夫ではなかったみたいですね~」
「生きてる可能性がある方が大丈夫じゃないでしょ!?セルシオル以外にもまだいるの!?」
「そこまではわかりませんね~」
呆れた。
「殺されかけた奴が生き延びるための世界」ですって?
結局いつかは死ぬんだから意味ないじゃない、往生際の悪い。安楽死のために運用されてる今の方がずっと健全よ。
政府と敵同士だかなんだか知らないけど、死刑になるようなことして、足がつくようなヘマしたんならそりゃ殺されるでしょ。
ーーそんなの、私だって、
「……『私だって』?」
まただ。靄がかかったように思い出せない部分から、勝手に感情が湧き出てくる。
やるせなさが波のように押し寄せてくる。
そのことがなんだか怖く感じられて、バノンの手を握り締める。
優しく握り返してくれる体温を感じて、ふうっと息を吐くことができた。
「ねえねえ、この世界にいる神って全員、島流しされてきたんじゃなかったの……?」
「子孫のあんたですら知らないのにあたしが知ってるとでも?でもそうだね、追放されたから絶望して死にたがってることが多いって話だったと思うんだけど……。最初から死ぬために来たってこと?」
横の方でひそひそ小声で話してるけど聞こえてるわよ、紫とピンク。そして失礼な言われようをしているのもなんとなく把握したわ。
「それで何よキエル、そのキャッチフレーズ的なの」
「聖遺物を表した言葉ですね!」
「私達とは違う経緯で入ってきた割に、所有物は持ってたのね、そいつら」
「所有物じゃないですよ?」
「だから遺物なんでしょ?生きてた時は所有物じゃない」
そんな当たり前のことを言ってるのに、キエルが
「えーっこれってどう説明したらいいんですか」
って、うんうん悩んでる。
「この八人の場合、聖遺物はモノである必要はないんですよね~。モノの形を取ってるものもあるんですけど、そこは形だけというか」
話し疲れてきたのか、食べて眠くなってきたのか、キエルがベッドにうつ伏せにダイブする。
「それぞれの願いを言葉にして、この世界の言葉に変換したら、本来世界全体が持ってたはずの力をはるかに超えちゃうほどの量の力が観測されちゃったみたいなんですよね~」
その横にバノンと一緒に腰掛けて会話を続ける。
「じゃあ何、『願い』っていうのが実体化して、それがそいつらの遺物ってこと?」
「そうなんじゃないかなって思います。『願い』っていうのは肉体がなくなってもなお心の真ん中にあるものですから、だから……」
「……実質、『最初の八人そのもの』ってわけなんだ、その聖遺物は」
さっきまで黙ってたバノンが口を開く。
深く俯いてて、覗き込んでも表情がわからない。心配になって腕にぎゅっと抱き着くけど、特に反応は返ってこない。
「あっ、それです、それが一番近い言い方だと思いますね~!そうなんですよ~!」
キエルが枕から顔を上げてぱあっと笑顔になる。
「例えばセルスさまは、ずーっと続く命を願って、世界のすべてを遺せる歌になったってことです!レーヴァティンやミストルティンもそんな感じでしょ~!」
「えっレーヴァティンって言った!?」
「ミストルティンもなの!?」
横から激しく食い付いてくる奴等が来た。
「たぶん絶対そうですけど?」
「えっ聞いてない聞いてない今まで全く聞いてないよキエル!!」
「わたしだってレーヴァティンって名前だったんだ~って、さっきのミラディスくんの話で初めて知りましたよ」
「ゼゼゼゼゼクスレーゼ様なんつーもんを持ってたの!?」
「ミストルティンはわかりやすいですよね、明らかに神を殺す刃そのものじゃないですか。なっとく~」
「今納得してるのあんただけだよ!!!」
「それをマレグリットさん達は大聖遺物って呼んでるみたいなんですよね」
「あー確かにそんなこと言ってたわゼクスレーゼ様!それにしても、あんたあたしたちが納得してようがしてなかろうが話し続けるつもりなんだね!」
キエルは必死の形相の二人にぶんぶん肩を揺すられてる。
この程度じゃこいつは目を回しもしないだろうからほっといても良いか。
「で、それが私やこの空間とどう関係があるって……」
そこまで言って、ふと思い当たる節があることに気付いた。
「キエル、あなた言ったわよね。セルシオルも最初の神の一人だって」
「そうですよ」
「念のため訊くけど……何番目?」
「二番目ですよぉ」
「………………まさか」
夢鏡を懐から出して見てみると、鏡面が見たこともない色を映している。
モザイクのような、オーロラのような、絶えず変化する様々な色が波打っている。
ふと、キエルの先祖の一人である彼を殺した時のことを思い出す。
「絶対に幸せになれない」
という呪詛を吐かれて、そして。
そう、彼は私よりずっと「格が高い」神だった。
戦闘力こそ素人レベルだったけど、死に際に圧倒的な力で私の所有物の定義を、名前を書き換えられたんだ。
「ーー今思えば、あの方は長い時のなかでセルスさまを失ったからか、狂ってしまってたのかもしれません。本当は世界を救うために尽くせるはずの方なんです。そうでなければ『何百年も何千年も血を繋ぎなさい。世界中の人が困るようなことが起きたら私の弟をさがして歌を捧げて、共に永遠の楽園を完成させなさい』なんて、セルスさまから言い伝えられるわけがないんです」
「その割には言いなりになってたじゃない」
「だって!よくわからないけどこういうことなのかなーって思ってたんですよ!そしたらセルスさまが復活するみたいなこと言ってるし、え?そうなんだ~?って思ったそばからミウちゃんに殺されたからますますわけがわからなくなったんですよ!」
「私のせいみたいに言われても」
「半分くらいミウちゃんのせいなんですよ!」
あの時は10:0で私は悪くなかった。私とバノンに手を出す方が悪いので。
でもキエルが言いたいのはそういうことじゃないみたい。
「ミウちゃん。その鏡、名前が変わった後どれくらい使いました?」
「四回くらいは使ってるんじゃないかしら」
「……たった、四回で」
ああ、うん。流石に私も察しがついたわ。
「大聖遺物」なんて大袈裟な名前がついた所有物を持ってた、「最初の八人の二番目」。
そんな奴に憑依されて、効果が「夢の中で話せる」だけなんて、そんなはずなかった。
そして二番目の大聖遺物は何て呼ばれてたっけ。
2.無から創造される領域 ――夢みる空間――
「……あー、そうなのね」
「そうなんですよ~」
「……ミウ、君は」
バノンの声が少し震えてる気がした。
何に怯えているのかはわからないけど、私は私の持つものを認識せざるを得ない。
この空間で感じてる、妙に突き刺さってくる懐かしさの正体。
「私が夢を見る度に、意識の中にあるものが空間として実体化してしまうってことね」