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第59話 神の末裔(中)

ラウフデル地下にて



「ってわけで、僕言っちゃったんだよその時『お前なんか兄でもなんでもない!出て行ってよ!もう二度とこないで!』ってー!ウワアアア自分で言っといてなんだけど、これ駄目だ黒歴史だーー!!」

「あーあ、それで?どうやって仲直りしたの?」

「結構グイグイいきますねソフェルちゃん」

「あー恥ずかしい!この話やっぱなかったことにして良い!?もう終わり!ここで終わり!」

「こんなところで切るなんて嘘でしょ!?ねえどうやって仲直りしたの!?」

「ソフェルちゃんこういう話すきなんですね」




カーテンの向こうで話が盛り上がっている。なんだか今から良いところのようだ。興味はないけど私が出て行ったら途切れるだろうし、私も記憶が頭の中でまとまらなくて、すぐに起き上がる気になれない。バノンもそばにいるし、このまま聞き流そう。




「そんなこんなで、僕、家飛び出しちゃいました☆」

「いや家出すんのあんたの方!?出て行ってって言っときながら!?」

「昔は若かったんだよ、やだほんと恥ずかしい」

「うっさいです最年少」

「友達の家とかに忍び込んだり、村はずれの洞窟とかで夜を明かしたりしてたなー懐かしー」

「ミラディスくん友達いたんですか……その性格で……くっ!」

「キエルは何と張り合ってるの?」



ほんとに一体何と戦ってるんだろう。



「言葉遣いもすっごい荒れてたし、あれもう反抗期だね。ていうか二人やミウが荒っぽいのって反抗期?僕もう終わったけどいつまでやってんの?」

「うわマウント取ってきてるよこいつ」

「人を煽らないと喋れないんですか?蹴っておきましょうか」

「いいよキエル、どうせ照れ隠しでしょ。放っとこう」

「えっソフェル今『やめて!彼をいじめないで!』って言った?愛だね愛、やーん流石に照れる」

「やっぱ蹴っていいよ、できるだけ強めでお願い」



こいつら話進める気あるのかしら。



「で?きっと魔物におそわれるか崖からすべって落ちそうになったところをお兄さんに助けられたんでしょ~!」

「キエル!話の先取りはよくないよ!」

「いや……魔物はその辺の棒切れで自力で倒した……僕天才だから……10歳でも天才……僕のスピードに追い付ける存在なんかあの村にはいない……」

「あ……そうなんですね……」

「あと崖とかで滑ったくらいじゃ落ちない……僕運動神経良いから……」

「地味にイラっと来る言い回し挟まないでもらっていい?」

「こう、崩れた足場を蹴ることで反動ついて飛び上がれるから後は木にぶら下がって枝が折れる前に次の木に移れば余裕なんだよ知ってた?」

「水の上で足が沈む前にもう片足出せば渡れるみたいなこと言うのやめてよ」



兄はどうなったのよ。脱線してんじゃないわよ。くっ、話が進まなさ過ぎて逆にちょっと気になってきた!




「学校でも『家にはちゃんと帰りなさい』とか『辛いことがあったら聞くよ』とか『エメルドくんが心配してるよ』とか言われてさ、すっごい嫌だったなー。で、学校も飛び出しちゃいました☆」

「あんたさ、あたしらのこととやかく言えないじゃん」

「そうですよミラディスくん、教会からにげるのとどう違うんですか~!」

「10歳と張り合うのはどうかと思うよ二人とも。それでさ、どこにいても兄さんがわざわざ連れ戻しに来るの。当然本気出した僕なんか兄さんにもどうにもできないんだけどね」

「お兄さんもマセリア様の孫でしょ?しかも4こ上なんでしょ?それでも追い付けないなんて受け継ぐ(リソース)の量ってそんな極端に個人差あるもんなの?」

「神自体が極端な存在なんだし、血が繋がってるから合うなんてもんでもないんじゃない?それに歳のこと言っちゃえば、ミウだってあんなにちびっこいのにここにいる誰も勝ててないじゃん」



ちびっこいは余計よ。ていうかあなたも大概小さいじゃない。



「でもその頃の僕はわかってなかったからねー。村長とか他の大人に『あいつ家族じゃないかもしれない!』とか言いに行って諭されてさ。周り全員敵に思えたね。そんでもって、ますます気持ち悪くなって、兄さんと顔合わす度言っちゃいけないこといっぱい言っちゃったんだあ」

「あーあ……」

「たまに着替えとか取りにこっそり帰るじゃん?レトが泣いててさ、どうもお母さんの見よう見まねで料理しようとして火傷したらしくて『わたしがわるいこだからみんないなくなっちゃうのかなあ』とか言ってて、兄さんが水で冷やしながら『大丈夫、大丈夫だから。ミラは絶対帰ってくるから』って慰めたりしててさ、すっごい気まずかったな。速攻窓から外に出たもん」



「……」

「……」

「ミ、ミ、ミラディスのばかー!!」

「妹ちゃんがかわいそうです~!!」

「気まずかったなあじゃない!謝んなさーい!!」

「さ、さみしかったんですねえええ!!うわーん!」

「机の上には兄さんの作った三人分の焦げた卵焼きが」

「もういい、畳みかけなくていい!」

「ミラディスくんなにやってるんですか!」



「それで先生が家庭訪問してきてさ。『村長さんのところや他のおうちでも、一人ずつなら引き取れるって言ってくれてるよ。狭い村なんだからみんな親戚みたいなもんだしね』とか兄さんに言ってるの聞こえたりしてねー。ただ普通に生活するだけでも、大人でも負担が大きすぎる状態だって。兄さんも最近まともに授業受けられてないって言ってた」

「…………っ」

「それで、お兄さんはどう答えたんですか?」

「『ミラとレトの帰る場所はここです!二人がばらばらになるなんて絶対だめです、俺が何とかします』って」

「わー!かっこいーですね!」

「かっこいいんだよ兄さんは!それでね、その後兄さん本格的に学校来なくなってさ、家事とか畑のこと全部やってさ。その傍らで山沿いの網とか用水路の整備とか、誰の土地か曖昧で誰もやりたがらないようなこといっぱい進んでやったりして、一人前の大人として認めてもらえるように頑張ってさあ。特に料理は『包丁のおユキ』っていう村一番の料理上手のおばちゃんに弟子入りして毎日火を吹いて倒れるほどの厳しい修行に耐えて」

「…………?」

「ほうちょうの、おゆきさん」


どんな修行よ。字面が濃いのよ。



「そんな兄さんの涙ぐましい努力もあって、何回めかの家庭訪問でレトも『レトマーナからもおねがいします、だれもつれていかないで』って泣きまくって、とうとう大人たち根負けしちゃってさ。『でも学校は行きなさいね、畑のことは組合にも話を通して交代で手伝いに来てもらいますから』『お金のことも心配しないで良いからね、毎日誰か大人の人が見回りに来るようにするから家事全部やるなんてことしないでいいのよ』って、兄さんが卒業するまで助けてくれることになって、それからはずーっと三人で暮らしてます!」

「わ~!よかったですね!」


関係ないけどこいつ、人の発言モノマネしながら再現するの、ちょっと動きがやかましいわね……。




「これで兄さんがどれだけ根性あって優しくて頑張り屋さんで素晴らしくてかっこいい人かわかってもらえたかな?ってわけだから、僕は兄さんとレトと村のため以外じゃ頑張んないからね!この街なんかどうでもいいもん知らないもん!ぶっちゃけなんのために、どこのどんな街に連れてこられたかも知らなかったもん!」

「たしかにミラディスくん最初から全然やる気ないですよね~」




「……ちょっといい?ミラディス。よくわかんないところが二つあったんだけど」

「なになに?ソフェル」


ソフェルの声が何かを躊躇っているように聞こえる。


「最初の方に出てきたからつい聞き流しちゃったんだけど。……魔物って何?」

「え?」

「魔物って言ったら魔物ですよソフェルちゃん」

「何それ?聞いたこともない。動物?」

「まあ動物ではあるよね、特別狂暴で人を襲うんだよ。鹿や猿に似てるのもいるし、鳥や亀みたいなのもいるよ」

「魔物ってほんと~にそこらじゅうにいますよね、森でもよく戦いました~!」




いや。待って。




「私も知らないわよ、魔物なんて」


思わずカーテンを開けると、キエルがぴょーんと飛びついてくる。



「ミウちゃん!目が覚めたんですね!よかったー!」

「ミウならさっきからずっと聞き耳立ててたよ」

「バノン、なんで言っちゃうのよ!」

「えっ!恥ずかしー!ミウとバノンにまで聞かれてたなんて!」



キエルは私の手を握りながらぴょこぴょこ跳ねてるしミラディスは顔を覆って足をばたばたさせてるし、やかましいわね。

春風のようにふんわり微笑むバノンにはこんなにも癒されるというのに、こいつらが騒ぐと疲れるわ。



「バノン、あなたは魔物って知ってる?」

「旅の中で聞いたことはあるけど直接会ったことはないなあ。飛竜とは違うんだよね?」

「魔物は魔物で、他の名前なんかないよ。ねっキエル?」

「魔物はこわいんですよ~!とにかく人をおそうからこわいんです!教会では魔物の話ぜんぜん聞かないですけど!」



私もバノンもソフェルも知らなくて、ミラディスとキエルだけ知ってるってどういうことなのかしら。動く死体も魔物じゃないのなら、ラウフデルに魔物はいないってことなのかもしれない。



「つまり、私達の目下の脅威ではないわよね?バノン」

「そうかもね、ミウ」



「あっそうだ!それよりミラディスくん!レーヴァティンってどんな聖遺物(レリック)なんですか!?もっとくわしく教えてください!」

キエルが急に思い出したかのように声を上げる。


「えーっ、邪悪を払う聖剣で、ずーっと大昔にハルカっていう神様からもらったってだけだよ。でももうないし、ないものについて考えても仕方ないよね」

「……!それほんとなんですか!?」

「ほんとだけど、どうしたの?キエル」

「……あの、ですね」

キエルが深刻そうな表情を浮かべる。


「レーヴァティン、たぶんラウフデルにあると思います」

「えっ!?知ってるの!?」

「見たことはありませんけど、たぶん確実にあります。それも、教会に」

「えっなんでわかるの?えっえっどういうこと!?あるのなら取り返さなくちゃ!」




まただわ、この流れ。



「キエル、勝手に話を進めないで。最初から順番に整理して話しなさいよ」

「むずかしいこと言わないでください……」

「説明する時間が欲しいって言ったのはあなたよ。もう私は大丈夫だから、さあ説明なさい」

「ちょっと待ってください!今のミラディスくんの話で混乱してちょっと……待ってください!わー!もう何から言えばいいのかわかんなくなってきました!」

「あはは、大変だねキエルは」

「しっかりしなさいよ!私達をこんなところに連れて来たのもキエルでしょ!」



私達がそんな会話をしている横で、ソフェルがミラディスに何か言ってるみたい。あんまり興味ないし、もうこれ以上は聞かないわ。




























「ミラディス。もうひとつ気になってること、良い?」

「うん?」


僕は、ソフェルのこの瞳が嫌いだ。

見つめられるとこれまでの人生の中で一番面倒だって思う。

返事なんかしなきゃよかった。



「今のって作り話?」

「……え?」

「途中からあんたがどう思ってたのか、全然言わなくなったよね」

「言ったじゃない、『ここはみんなの帰る場所です』って言ってくれたんだよ。だから僕も頑なな心をやっとオープンハートして」

「言ってない。あんたと妹さんの、って言った。あたしがお兄さんの立場なら絶対そんな言い方しないって思ったから覚えてる」

「……」

「逆にあたしがあんたの立場だったら『なんで自分のこと計算に入れないの!?やっぱり家族だって思ってないの!?』って怒っちゃう。あんたってそういうの聞き逃したり言い間違えたりするような奴だっけ?それに、それにいくら頑張ったとしても……!」






「……言わないで」

「えっ」


彼女の唇をそっと人差し指で塞ぐ。



「話は盛った方が兄さんの尊さが伝わるって思わない?つっこみなんてナンセンスだよっ」

「はあ!?なんなのそれ!」

「怒った顔も可愛いね♪」

「そういうのいいから!」






(なんでだろう、話し過ぎちゃった。でももうこの話はおしまい。誰にも触らせない)




(だって君は『そんなことできるはずがない』って言葉を続けるだろうから)




わかってる、僕だってわかってるんだ。

あの頃の兄さんと歳が近付くほどに、まともな状態じゃなかったってわかる。

そしてそれを思い出す度、まだ心が軋み出す。





(――もう三年前かあ)



一日中後をつけてた。レトに見つからないように、家の外で会う必要があった。

今思えば、たぶん気付かれてた。村はずれの、誰も近付かない、光なんかわずかに差し込むだけの洞窟で、やっと二人きりになれた。



何もする気はなかった。

ただ、確かめたかっただけだ。


「いつまでそうしてるの?」

って。


冷静になって考えれば考えるほど、兄さんが家族じゃないわけがないって思えた。

僕やお母さんに似た髪の色も、祖父の肖像画によく似た顔立ちも、物心ついてからの思い出すべても、僕達が本当の兄弟だって示すには十分だと思った。

レーヴァティンだけがおかしいって思ったほうがいいくらいだった。


それなのに、兄さん自身が変わっていった。

表面上はあんまり変わらなかった。特におかしい表情もせず笑ったり困ったり焦ったりしてた。

でも、言葉の端々に違和感があった。僕達に尽くさなきゃいけない存在だって、自分の中で完全に認めてしまっている気がした。ろくな睡眠もとらず、食べられるものは僕とレトばかりに回して、手も髪もぼろぼろにしながら一日中延々と働き続けた。一部の大人から面倒事を押し付けられたこともあった。

疲れた顔もたまにはしていたけど、疲れたからといって休んだり行動を変えたりなんてことはせず、本当にそれが当たり前で自然なことだと言わんばかりに、淡々と粛々と働き続けた。


それがなんだかとても怖いことに思えて僕は、兄さんが悲鳴を上げるくらい傷付けようとした。試すように、祈るように。心を抉るような言葉をぶつけたし、とても言えないような酷いこともした。でも全然抵抗されなかった。注意されたのなんか、僕の身体に危険が及びそうな時だけだった。前まではお菓子の取り合いとかそういうくだらないことで喧嘩しては泣かされてたのに。


僕は馬鹿だからそんなやり方しか思い浮かばなかった。

ただ、怒って欲しかった。痛がって欲しかった。嫌がってほしかった。もうこんなのやめるって言って欲しかった。

何度も伸ばされた手を拒んだ。それでも兄さんは僕達のために動き続ける。何度やっても同じで、もう疲れてしまった。



でもわずかな光の差す中で、微笑みながら返された言葉は、僕の望むものじゃなかった。



「ごめんな。お前が大人になるまでは俺、頑張るから」

「……ぼくが、大人になるまで?」

「大丈夫、大丈夫。その後はちゃんといなくなるから」


最悪だと思った。


親が死んで、剣に選ばれなくて、僕に突き放されて、レトはずっと泣いてて。

一体いつから?そんな疑問は意味がないと子供心にわかった。

壊れているのか、狂っているのか、病んでいるのか、元々こういう人だったのか。

どれでもいい。どれでも最悪だからなんでもいい。

回らない口を必死に動かした。




「……やだ」

「ミラディス?」

「やだやだやだやだお兄ちゃんだめもうこれ以上はたらいちゃだめ!!」

「そんなこと言っても生活しなきゃ」

「お兄ちゃんまで死んじゃうよ!ごめんなさい、ぼくもちゃんとはたらくから」

「それは無理だな」

「むりじゃない!」

「俺のやることだから」

「もうがんばらないでよお!」

「俺は必要だと思ったからやってる。お前らを守るのにお前らがどう思おうが関係ない」

「かんけいなくない!」

「あのな、ミラ」

「やだやだやだきかない!ぜーったいきかない!いやなもんはいや!」

「あんまり良い暮らしじゃないかもしれないし、俺といるの嫌かもしれないけど我慢してくれ」

「そんなこと言ってない!そんなことどうでもいい!いなくならなくていい!ずっといていいってぼくが言ってるの!なんかもんくある!?もんくいうな!」

「お前何が言いたいの」

「わかんない!」

「じゃあ聞けない」

「だって、だって、だって、ぼくは」



そこまで一気に喋って叫んで泣いてわめいて、次第に息が苦しくなってきたことははっきり覚えてる。

あまりにも苦しくて、それ以上何も言えなくなったことも。

おんぶされて家に連れて帰られたことも。

帰り道で手放しそうな意識を必死に保たせて話したことも。



「おにい、ちゃ」

「無理にしゃべるな」

「どこにもいっちゃだめだよ」

「出て行って欲しいんじゃないのか」

「そんなこと、言ったっけ……。おぼえて、ない。ぼくあたまわるいから」

「お前ってやつは」

「えへへ……。ね、おにいちゃん」

「ん?」

「ぼく、がっこう、で、いちばん、あたまわるいし、じゅっさいのなかで、いちばんちいさいし、いちばんよく、かぜひくよ」

「そっか」

「おとなになんかならないからね。ずっとかわいいからずっとずっとずっとおにいちゃんがあそんでくれなきゃだめなんだよ」

「ずっと遊ぶのは無理だろ」

「んーん。だめ。あそんでくれなきゃ、いっしょにおひるねしてくれなきゃ死んじゃう」

「死ぬとか簡単に言うな」

「んー」



そこらへんから記憶が曖昧だからたぶん寝ちゃってたんじゃないかな。




その後も兄さんは結局変わらずに、村の大人が色々手伝ってくれてやっと学校に戻ってきたような感じだったし、どっちにしろすぐ卒業だったからその後また働きまくろうとした。ていうか、してる。僕は僕で兄さんのキャパを埋めちゃいそうな仕事は騒いで邪魔して大人にアピールして押し付けたり、何の助けにもならないのに兄さんに寄ってくる女を片っ端から撃退したり色々忙しかった。



でも時々思う。僕のあの時の言葉は子供のたわ言だったけど、兄さんは切り捨てずにちゃんと聞き入れてくれたんじゃないかって。

僕やレトが寝転がってたら自分も昼寝するようになったし、遊ぼうって言ったらちゃんと時間作って付き合ってくれる。

重荷になってないかなんて考えるだけ無駄だと思う。だって何をどれだけ言っても悩ませても、必要だと思ったことなら結局やってしまう人だから。

ちょっと悔しいけど、この程度のことが僕にできるすべてだ。何も変えられやしない。





だから僕は今も、細かいことを考えるのは心の中だけにしておく。

真面目に生きてるといつか大人になっちゃうからね。これでいいの。村でのあの生活が僕達にとって一番幸せなの。










「……ス」







「ミラディス!聞いてる?」

「そんなに大声出さなくても聞いてるよソフェル、そんなに僕が好きなの?」

「聞いてるなら返事しなさいよ!いきなり考え込むからどうしたのかと思っちゃったじゃないの!」

「あはは、今日もやっぱりソフェルは可愛いね♪」

「……あのさ」


首に回した手を払い除けられ、さっきまで突っかかってきた声のトーンがすっと落ちる。



「思ってもいないこと言うのも、やりたくもないことするのもやめなよ。あんた見てるとイライラする」



「……僕も」

「ん?」

「僕も君のこと見てるとドキドキする、両想いかな?」

「だーかーらー!」



うん。僕もだよ。



こんなことではどうしようもないって、時間は止められないって、人はいつか別れなきゃいけないって。

そういう「当たり前」が突きつけられる時が来るのが怖くて怖くてたまらない。



いつか君がそれを運んできそうな気がして、イライラする。






兄が兄なら弟も弟だし、

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