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第6話 私が神ヒーローになる!

海沿いの集落で飛竜を操る神、エズ。

南の海を支配する神、リガルタ。


その二人が海域の利権を巡って争っている。

保守的に現地民の生活を保護しようとするエズと、潤沢な海産資源を得たいリガルタ。

そういう構図が、二人との短い会話でなんとなく読み取れた。



いや、でも。

なんで!?

二人とも安楽死の志願者よね。いくら神だからって、むしろ神だからこそ、そんな面倒なことする必要性が全く感じられない。

心配なら所有物(ポゼッション)を適当に残しておいて、政治だの交渉だのは人に任せておけば死ぬことに集中できるのに。

NPCとは言えど人工知能なんだから、勝手に学習して社会を維持・発展させてくれるもの。システムメンテナンスだって入るはずだ。先のことなんか神が気にしたところで無意味だし、介入したところで不要な混乱を呼ぶだけだ。



そう、不要な混乱。

例えば。


「なんでバノンがさらわれなきゃいけないのよ!!」



エズの胸ぐらを掴んで怒鳴りつける。

このキツネ野郎!私にとってバノンがどれだけ大切なのか分かっていながら、リガルタにさらわれるのを見過ごしていたわね!何がご馳走よ、何が歓待よ!良いように利用されただけじゃない!



「私もこの不毛な争いを終息させたいのです」

「私という戦力を増やすためにバノンを守らなかったっていうの!?陰湿ね!」

「あれを守る必要は私にはありませんので」

「なんですって!」

「それで、どうなさいますか?死者の船(ナグルファル)は夜毎に来ますが」

「……このペテン師!ろくな死に方できないと思いなさい」



結局バノンがリガルタの手に落ちている以上、私には取り戻す以外の選択肢しかないのだ。気付かれないように侵入するにしても、正面から迎え撃つにしても、敵対する他ない。


バノンは私の結婚相手なんだもの、誰でもない私がこの手で絶対絶対取り戻してみせる。

そのためにまずは、この卑怯で陰湿で善人ぶってる神から搾り取れる物ぜーんぶ搾り取らなきゃいけない。



「エズ!ナグルファルの特徴を教えなさいよ!」

「私が知っている範囲の情報ならなんなりと。そうですね、まずは……」












「神出鬼没かー。確かにそうだねー」

「お前もわかんだろ!?俺に見える範囲の海ならどこにでも移動できる、それがこのナグルファルさ!昨日は一発喰らっちまったが、飛べるだけのデカブツトカゲなんかに捉えられるくらいぬるい船じゃねーんだよ!」

一方その頃、バノンはナグルファルの甲板でリガルタの船自慢を聞かされていた。

ここはマナウ海域から離れた、南の大陸の近海らしい。



「そうなんだー」

「まああのガキがどんなブツ持ってるかは知らねえけど俺の敵じゃねえな!サイズも火力も性能もこのナグルファルに勝る所有物なんかありはしねえよ!」

「へえ」

「……んで?お前は何モンだ?」

「ただの旅人だよ」

「ただの人がンな(リソース)持ってるわけねーだろ。まあ、戦うことはできなさそうだからな。抵抗せずに大人しくしてるのは賢いんじゃねーか?無駄に怪我したくもねえだろ。神でもないのならどうせ食い物にされるだけの存在だ」

「…………」

「後で残さず食ってやるよ。お前一人驚異でも何でもない、夜まで好きに過ごしてろ。俺は寛大だからな、残り少ない人生楽しませてやる」






「……とは言われたものの、自由行動といっても船から出られないしなー」

バノンが船内をふらふら歩いていると、数名の乗組員とすれ違う。どうやらリガルタ以外は「人」で間違いないらしい。



「こんにちは」

「ああ、昨夜保護されたっていう子供か」

「皆さんはどこから来たの?」

「ここから更に南の大陸さ。リガルタ様の名前を拝借して、マートリーガと名付けられているのさ」

「リガー海だってそうさ。大陸の玄関口はリガー海の真南、スードリーガって名前なんだ。どうだ、カッケエだろ?」

「皆さんはリガルタさんのこと好きなんだね」

「好きなんてもんじゃねえぞ、あの方こそが神の中の神!」

「長らく不毛の大地だった大陸が、あの方のお陰で豊かになったんだからな!」

「食い物や衣服には困らねえ、海賊やよその国の海軍が来ても無敵のナグルファルで追っ払える!まさにこの世の楽園だな!」

「そんなに満たされているのにマナウ海域を攻めてるのは?」

「あの方は先見の明があるからな!ただ漁をするだけじゃない、世界中の漁業の発展を目指されているのさ!ただ守るしかできないショボい神とは違うんだよ!」

「子供には難しい話だったか?まあ、お前にもそのうちあの方の偉大さがわかるさ!」



ガハハと豪快に笑い乗組員達は持ち場に戻っていく。

「ふーん」

本来の機能から逸脱していても、自分達にとって有利な働きをする存在は人にとっては邪魔なものではないらしい。

それもそうか、と呟きながらバノンは無為に船内の探索を続ける。ナグルファルは巨大で、ただ見て回るだけでも数時間は経過しているようだ。

甲板だけでなく、機関室や調理場にも専属の乗組員がいるようだ。調理場は極めて忙しそうで声を掛けられる雰囲気ではなかった。

機関室の責任者は金髪の男性のようだ。

「そのへんの物に触るんじゃねえぞ」

目も合わせずにぶっきらぼうに吐き捨てられ、これといった情報は得られなかった。





ふと、床に不自然な窪みがあることに気付く。

それは光がほとんど当たらないほど暗い場所に位置しており、見過ごす者が大半だろう。

その窪みに指をかけると、更に下に空間が開けていることがわかる。




バノンがその空間に降りると、奥から何かの息遣いが聞こえる。

それは、人だった。

猿轡を噛まされ、手を身体の後ろで縛られている人。

「大丈夫?」

バノンが拘束を外すとぐすぐすと泣き始め、暫くしてやっと言葉を発した。

「助けてくださってありがとうございます」

「なんでこんなところにいたの?」

「スードリーガでただ普通に過ごしていただけなのに、わけもわからないままリガルタ様に連れて来られたのです」

「俺もわけもわからないまま連れて来られたのは同じだよ、あはは。俺はバノン」



船の向きが変わったのか、上から微かな光が射す。

拘束されていた人の姿が照らされる。


色素の薄い長い金髪と、涙で潤んだ碧い瞳を持つ、彫刻のように整った顔立ちの女性がそこにいた。

「私はクラリスといいます」




バノンがクラリスともっと話をしようと口を開いた時、船体が大きく揺れた。

「わあ。飛竜かな?」

「いえ、この衝撃は……違います!」

二人は人目を避けてこっそり空いた船室に移動し、窓から外を確認する。



「別の船に攻撃されてるよ?」

「あれは……スードリーガの艦隊です……!」

「え?」


先程の乗組員の話によると、マートリーガ大陸はリガルタの恩恵を受けて豊かになったとのことだ。

それゆえにリガルタは崇拝されていると聞いた。

しかし現在、ナグルファルはスードリーガ艦隊の砲撃を受けている。



「もしかしてあれは君の味方?」

「……リガルタ様は偉大な神です。あの方なしでマートリーガ大陸の繁栄は有り得ませんでした。でも……」

クラリスが少し言い淀んでから続ける。

「食糧も、土地も、富も、女性も。あの方が望まれるものは何でも差し出さなければいけないのです……。最初は神様を心を尽くして歓迎していましたが、だんだん人々の生活が立ち行かなくなってきまして。限られた層にしか恵みを与えられず、富める人達はますます富み、貧しい人達は更に貧しい生活を強いられているのです。神様への反乱など愚かかもしれませんが、もう耐えきれないところまで私達は追い詰められているのです……」

「君も差し出されたの?」

「ええ、きっと捧げ物として……。こんなことなら豊かな暮らしなんて必要ありませんでした。貧しくても家族や友人と自由に笑い合えることこそが満たされた時間だったのに、どうしてこんなことに……」



さめざめと泣くクラリスの視線の先で、ナグルファルの反撃を受けたスードリーガ艦隊が損傷している。

艦隊は無秩序な寄せ集めといった雰囲気ではなく、バノンの目にも統制が取れているように見えるが、神の所有物であるナグルファルには圧し負けているようで、じりじりと後退を迫られている。





その時。反対側、船の上部から衝撃が走る。

乗組員の怒声や悲鳴があちこちから聞こえる。

突然のことに動揺するクラリスを連れてバノンは甲板に走り出す。





「チィッ、そっちから来やがるとはな!」

リガルタの忌々しそうな声が聞こえる。

上空には悠々と飛び回る影がいくつも見える。飛竜が群をなして現れたのだ。


そして。



「バノン!来たわよ!!」

「あっミウ」


そのうちの一匹の背に乗って、空の色に似た長髪を風に靡かせながら、白い服の少女が急降下してきた。



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