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第55話 聖都のみる夢

突然現れた腐乱死体は、私達の横を素通りしてふらふらと市中へと歩いていく。

到底存在が信じられないような奇妙なものを見て、何とも反応しづらい。でも気付いたのはバノンだし、キエルもいつになく険しい表情をしているから、やっぱりこの世界でも死体が動くことは変なんだってわかる。


その時、左側から微かな声が届く。


「ん……ここは……」

「あ、目が覚めたのね。じゃあ降りなさい」

「うわっ!痛っ!」


ちゃんと受け身を取らずに顔から地面に突っ込んだ少女騎士が、真っ赤な瞳で恨めし気にこっちを見てくる。



「ちょっと何すんのいきなり!?って、あーー!あの時の神!よくもやってくれたな!と、バノンだったね、覚えてる!あなたもこの神に拉致されてるの!?許せない!って、キエルもいるじゃん!ていうかミラディス何やってんの!?意識ないの!?大丈夫!?」

「ソフェル、落ち着きなさい」

「あれっ、あたし名乗ったっけ!?まあいいや、ミウだったっけ?ここで会ったが百年目!」



そう言って勢い良く指をさされる。

意識を取り戻したそばから言いたい放題言ってくれるじゃない。しかも状況をよくわかってないとはいえ、誰が誰を拉致してるって言うのよ。私とバノンはアッツアツのラッブラブだとあれだけ見せつけてやったのに失礼な奴ね。



「ソフェルちゃん、ほんとに落ち着いてください」

「キエルまで!この神は教会を襲撃した奴じゃない!」

「あなたの友達を殺したのは誰ですか?ミウちゃんじゃないでしょ?」

「うっ……でも」

「でもじゃないです~!そんな場合じゃないって言ったじゃないですか~!」



キエルに窘められて、ソフェルは不服そうながらも私に向けていた指を引っ込める。

けれども、私から逸らされた視線が別のものを捉えた瞬間、より一層その眼光は鋭くなる。

誰が声を掛けるより早く、彼女は道端に落ちていた角材を拾ってまっすぐ走り出す。



まあでも、神の身体能力に敵うはずがないので、あっさり私に肩を掴まれるんだけど。




「ちょっと待ちなさいよ」

「放して」


振り返らずに低い声で言い放たれるが、突発的に動かれてはそういうわけにはいかない。



「あなたって暴走車みたいね」

「あんたどこに目つけてんの!?人が化け物に襲われそうになってるじゃない!」


彼女の視線を追うと、さっきの死体がゆっくりと屋台で青果を売っている女性の方に歩み寄っている。女性は品物の陳列を直しているようで、死体には気付いていないようだ。

だらりと今にも肉が垂れ落ちそうな腕が、女性の方に伸ばされる。


「逃げて!!!」


ソフェルが叫ぶのと同時に女性が振り返り、そして。






「168エンでーす、まいどありー」


果物を二つか三つ手渡して微笑み、何事もなかったかのように作業に戻った。

死体は受け取った果実を抱えて、喧騒の中に消えて行った。



「……」

「……」


私とソフェルはその一部始終を呆然と眺めた後、無言のまま目を合わせる。

ソフェルの目は落ち着きなく私と屋台の女性を交互に見ている。

いや私の方を見られても……。



「あの人全然気付いてないみたいだね、ミウ」


右肩の上からバノンの声が聞こえる。


「よくあることなのかな?」

「よくあることではなさそうよね……」

「よくあってたまるか!」



すぐ走り出すだけじゃ飽き足らず私とバノンの甘やかな会話に割り込んで来るし、こいつ本当に何なの?


そう思いながら、もう一度死体が消えて行った人混みの方をふと見てみると、そこには。







カフェのテラスでコーヒーを飲もうとしている人は、首がなくて全部シャツの上に零れて染みを作っている。

街角の新聞売りの手から、骨をむき出しにした手に、見覚えのある名前の新聞が渡っていく。

水路を行く船の上で安らかに寄り添っている恋人達の黒ずんだ皮膚には蠅がたかっている。





死体、死体、死体。



死体が街中のあちこちにある。いや、「いる」。

生きている人と同じように、当たり前のように、市民として存在し、それぞれの時間を過ごしている。



同じく周りを見渡していたソフェルが青ざめているのがわかる。








「よくあることです」




背後から澄んだ声が聞こえる。





振り返ると、その声の主――

キエルが、唇を噛み締めていた。

書いててユニバ行きたくなってきました

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