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第53話 デッドヒート・インザ・サンクチュアリ

前作(後編)からの恒例行事、始めます

爆音!

爆速!!

私達を止めるものなど誰もいない!

教会の中に乱入してきた私達を見て司祭達があわあわしてるけど関係ない!

この速さでぶつかったら吹っ飛ばされて死ぬ、そんなことは本能的にわかるはずだ!ほら散った散った!



たまに車体があり得ない角度に傾いたり飛んだりするから前の奴の腰に掴まってなきゃいけないのは癪だけど!

いや、バノンの身体だから本当は役得なのだ。思いっきり抱き着けるならそれに越したことはないのだ。でも今運転してるのはバノンの中に巣食ってる神なので、なりゆきでこいつに私とバノンの生命を預けてるの、すっごい腹立つ!



とはいえ最短ルートでキエル達のいる階に行けるんだから我慢してやる。

何段もの階段を駆け上り、何人もの司祭を散らしていく。


あがががが。振動が、振動が身体にダイレクトに伝わってくる。顎がガクガクする。首が身体からすっぽ抜けそうだ。

ちょっとでも手を離すと後ろ向きに吹っ飛びそうだ。こんなところで脱落なんかしてたまるか!


「わっぷ!」


風で髪の毛がぶわぶわのばっさばさに乱れる。前髪を整える余裕もない。前が見えないんだけど今ここ何階なのよ!前に行くのか上に行くのか予告しなさいよ!



「まだ着かないの!?」

「黙れ雑魚神!」

「なんですって!?」

「結界がある、(リソース)ぶつけて突き破る!衝撃に備えろ!」


備えろったって手を離せないこの状況で何をしろと!?


そんなこと考える暇もないくらいに、膜のように広がった空気が私達を拒むように激しく波打っているのが伝わってくる。車輪が回っているのにじわじわとしか進んでいない。

この手に込めた力を少しでも緩めたら落とされる。

怖くて目をぎゅっと瞑る。



いや、待って。

怖いって何よ。

何トチ狂ったこと言ってるの私は。



こんなの、Dreaming world に来た時から。

あの雪原に落ちた時から。

安楽死に同意した時から。

何回もいろんな方法で死のうとした時から。


初めて――に足を踏み入れた時から。





覚悟の上じゃない。

死ぬためにここにいるんだ。

死ねない理由をブッ潰しに来たんだ。

怖い物なんかあるわけない。

あるもんか。




「さっさと、しなさい」

「うるさい黙れ!」

「出し惜しんでんじゃないわよ!」

「全力だ!」

「は?遅いんだけど!?」



そういや言ってたわね、ここでは本来の力が出せないって。本来の力って何よ!今使えないんだったらそのしょぼいのがあなたの実力でしょうが!雑魚はどっちよ!


埒が明かない。身体能力強化に使っていた私の力を車体全体に広げる。



もわっとした空気の層が体に纏わりついてくる。それでも私の力が加わる度に進むのが少しずつ速くなっている。

速くなればなるほど、浴びる空気の圧が強くなっているのがわかる。

ええい、邪魔!



「かっ飛ばしなさい!!!」




ぽんっと栓が抜けるように、阻んでいた空気から出られる。

やっとか。



「もう対抗する必要ないでしょ!ほら早くギア上げて!」

「おいこら乗り出すな!後ろから勝手にいじるな、おいやめろそれは違う!」

「偉そうなことばっか言ってないでちゃんと運転しなさいよ!」

「運転の邪魔すんなって言ってんだ!こういうのはリズムが」

「ほらそこの扉からすごいいっぱい声するじゃない!きっとここよ!突っ込みなさい!」

「着いたんなら普通に開けさせろ、って止まらない!!」




轟音が響き渡り衝撃で投げ出されたけど、それを利用してバク転することで受け身は取れた!前の奴は知らないけど上手いことやったに違いない!

部屋の内部、窓の近くの壁際を見ると、ちゃんと立ち上がってるし怪我してなさそう。バノンの身体は無事ね。じゃあいい!



体勢を立て直し部屋全体の状況を確認する。


「なんてことなの!」



思わず声に出してしまう。

部屋の中で五人の人物が倒れていた。



キエルと教祖マレグリットと、何て言ったっけ、そうだソフェルだ。

あと知らない男の人と、ちらっと見たことある気がする男の子。

顔や四肢から血を流す者もいれば、服がボロボロに破けている者もいる。でも全員に共通して言えることは、部屋の中で散逸するように倒れている。

家具は全部倒れてるしカーテンも破けてるし壁は傷だらけだし窓枠も折れてる。




「ちょっとキエル!生きてる!?」

駆け寄って頬をぺちぺち叩く。



「ん……ミウ……ちゃ……」

すぐに意識を取り戻したキエルは、はっとしたように起き上がり、他の四人を見て絶句する。



「わーいミウちゃんだ~!来てくれたんですね~!あれっ、でもいったい何があったんですかミウちゃん!?」

「こっちが聞きたいわよ!戦ってるみたいだから加勢しに来たのになんで全員倒れてるのよ!」

「なんでって、さっきすごい音がして扉がどかーんってなって、戦ってたみんな吹っ飛んだからですけど~!?」


それって今のことじゃない!つまり私達がやり遂げたってこと!?



「こうしちゃいられない、マセリアのところカチコミ行くわよ!ほらまたエンジンかけて!」



壁際で佇んでいた前の奴に声を掛ける。

が。


「バイクならもう壊れた」

「なんでよ!」

「扉に激突したからだが!?」


なんて脆いの!私が溜息を吐いている一瞬の間に、瞳の色が変わる。バノンだ!ああ可愛い。

彼女は大破したバイクからシートバッグを取り外して確認する。



「中の物は無事みたいだよミウ。あっキエル、話すの久しぶりだね」

「えっバノンくん?なんかさっきちょっと様子が変だったような……?」

「後で説明する!キエル、あなたまだ飛べるわよね。窓から外行ってなさい!」



教祖マレグリットは倒れてる。

図らずも邪魔なのを戦闘不能にできた。とにかく神をササッとぶっ叩けば私とバノンの目的は果たされるんだ!


バッグを抱きかかえたバノンの手を握り、走り出そうとしたところをキエルに服の裾を掴んで止められる。







「だめです、ミウちゃん。まだマセリアさんと会っちゃだめです」


キエルのこの表情は見たことがある。


「ここから一刻も早く出てください。でないと」


真夏の(ア・ミッドサマー・)夜の夢(ナイツドリーム)の中だったか、教祖達に拐われた時だったか。


「二度と出られなくなりますよ」


誰かからの明確な悪意を察知した時の表情。



(悪意を持つ人物が他にどれだけいたとしても、大した悪意もなく扉を破壊したのは主人公達なんだよなあ)

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