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第52話 デスカーニバルの幕開けだ!

はー、朝から疲れた!



「もう入らない……どれだけあるのよ」

「あと12個はあるよね」

「まだ半分じゃない!」


朝早くから行動してたのに、街中の宿屋にフロアが隠してる密輸品を回収しているうちに三時間くらい経過していた。

一泊一泊ちまちま集めてたら効率悪いわ。あいつなりの気遣いだったのかもしれないけど、まだるっこしいったらありゃしない。近場から順番に訪問していって、捜索しては荷物に詰め込む、それだけの作業。

私もバノンも大きな袋や鞄なんか持ってないんだけど、密輸品の中に「収納にぴったりな品」があったから、そこにぎゅうぎゅう詰めては移動を繰り返している。



「まあ、使い捨てだし所有物(ポゼッション)ほどの性能はないにしろ、対教会の武器はあればあるほどいいでしょ。……なんて思わないとやってられないわ。それにしてもこれ、どこに片付けとこうかしら。休憩挟まないときついわ」

「持つの手伝おうか?」

「いいのよバノン、取り扱いを間違えると危ない物ばっかだから……いえ、念のため使い方教えておこうかしら」

「ミウは何でも知ってるね」



広場の噴水前に腰かけて、近くのカフェでテイクアウトしたジュースをきゅるきゅる一気に飲み干す。働いた後はこういうのがないとやってられない。

それにしてもつくづくのどかな街だ。幽霊騒ぎとは何だったのか、というかそんなものなかったんじゃないかというくらい街行く人々の足取りは軽く、通りはとても賑やかで、柔らかい空気が頬を撫でる。


平穏な午前の光景だ。








そう思ったところで、ふと気付く。





歌が聞こえない。


噴水から離れて耳を澄ませても、静かな路地に入っても、キエルの声は全然聞こえない。

今までは教会から遠い地区にいても微かに耳に届いていたはずなのに、風が運んでくるのは街の喧騒だけだ。



「バノン……」


いつもと違うね、不思議ね。

隣にいる彼女にそう話しかけようとしたけど、自分の声はびっくりするくらい震えていた。


「うん。何かあったとしたら、大変かもね」


私の心の中をなぞり取るようにバノンが呟く。

こくりと頷いて、教会に向かった。










市民達は知らないだろうけど、それでもゼクスレーゼの一件があるから、なるべく目立たないように静かに移動する。


どうしてだろう。さっきまでは柔らかかった風に何かが腐ったような臭いや錆の臭いが混じっている気がする。気がするだけじゃなくて知っている。


こういう空気の中、私は何回も。そしてこの間も身を置いてきた。





だから教会前に辿り着いた時は驚いた。





血。

死体。

呻き声。






そういうものが、一切なかった。



拍子抜けした。

和やかな雰囲気の人々がいつも通り集まっているだけだったのだから。なんなら前に見た時よりずっと多いし活気がある。

でも様子がおかしい。




キエルがバルコニーに出ている。これもいつも通り。

でも、いつも以上に暗い顔をして押し黙っている。



人々も何かおかしいと思ったのか、次第にざわついてくる。



「歌姫様が、歌われない」

「どうしたんだろう、お身体でも悪いのだろうか」

「早く歌ってくださらないと」

「永遠の恵みが」

「このままでは」

「ダメダ」

「カラダガ」

「トケル」




……!?


何か、誰か。


変なこと、言わなかった?







人々の方を眺めてみるけど、特に変わったところはない。




空耳かしら。そう思ってバルコニーに視線を戻す。






すると。








「バノン、何あれ……」

「ミウ、何も見えないよ?」



バルコニーの様子がおかしい。

人々のどよめきも大きくなってる。





キエルが部屋の中に向かって何か叫んでる。

誰かの腕がキエルに向かって伸びてくる。

その手には何かが握られてる。光ってるし刃物っぽい。

でも別の誰かの影が見えて、その腕は空を切る。

キエルじゃない誰かの怒声が聞こえる。





でも室内だし高所なので何が何だかわからない。

誰が誰に攻撃を仕掛けていてどっちが優勢なのか、これっぽっちもわからない。

なぜかなんて、もちろんわかるわけがない。




唖然。

そう表現する以外ない顔をしていると自分で思う。




何かが割れてるらしく、欠片が落ちてくる。大きい金属の塊も落ちてくる。

人が絶え間なく移動していて、誰がどの声の主かも何人いるかもわからない。

キエルが飛び回って、羽根のきらめきがちらついてくる。

悲鳴なのか怒声なのか判別できないような声が聞こえてくる。

わからないなりに耳を澄ませてみる。





――も死んでるじゃないですか!

――を乱してはいけません、まだどうか、

――死ね!!!

――もうやだ帰りたい!帰らせてよ!なんでこんなことになっちゃったんだよ!

――アロイ・スティール!!!

――を稼いでください!

――そうはさせない!

――危ない!

――てくださいよ!

――るさいな!命令しないでくれる!?

――前!前見て!






四、五人いる。そして乱闘している。

教会内で内部分裂というか、とりあえずキエルが暴れまわってるのはわかる。

誰と戦ってるのかはわからないけど最悪の想定として、マセリアとマレグリットと、謎の暗殺者が教会の中にはいる。

他の人がいるとすれば敵でも味方でも取るに足らないからそれは考えなくて良い。



バノンの方を見ると、ブレスレットをつけた手首をぎゅっと胸の前で握り締めている。

あなたが心配するなら、私はその憂いを取り除かなけばならない。

決意はもう固まった。





「……バノン、これ持って。あと、これとこれ」

いくらかの密輸品を取り出してバノンに手渡す。


「行くんだね、ミウ」

「今度はあなたも一緒よ」


そう、バノンと一緒に行く。もう一人で突っ込んで悲しませたりしない。

何より、私も同じ気持ちだと思うから。




曲がりなりにも友達と思ってる人が誰かと戦っているなら。

相手が誰だろうが、どんな原因があろうが、私達は乗り込んで戦わなければならない。







収納スぺ―ス……つまり、今押してる大きい二輪車のシートバッグのチャックを閉める。


「しっかり掴まっててね」

「大丈夫。頑張って、ミウ」



跨ってエンジンをかける。下から全身に振動が伝わってくる。

アクセルってどれだっけ?適当にあちこちいじってみると変な音がするし、なんだかふらふらするばかりで一向に進まない。


「バイクっていつでもどこでもグワーッて走れるものなんじゃないの!?」


苛々して車体をぺちぺち叩く……こともできないままゆっくりと横転し、地面に身体を打ちつける。


「あいたたた……」




その時。




「『下手くそかよクソガキ』って『あいつ』が言ってる」


頭上からバノンの声が聞こえる。


「『代われ』ってさ」

「――っ!あ”ーー!!」

「『発進もできないまま苛ついてる奴なんかにオフロードの運転させられるかよ、私の器を預かっている自覚あんのか?命がいくらあっても足りない』だってさ。偉そうに喋らないでほしいよね『良いから代われ、ブツはそいつが持ってろ』うわあ……わかったよもう……」



「あいつ」が絡むとバノンは本当に嫌そうだし、私も殺意が湧くんだけど、現状運転できてないから仕方ない。

前後を交代して後ろのシートに乗り込む瞬間、バノンの横顔が目に入る。





その瞳は既に金色に輝いていた。





「とっとと掴まれ」

「うっさいわね!バノンでもないのに指図すんじゃないわよ殺すわよ!」

「その前に私がお前を殺す」

「なんですって!」

「舌切りたくないなら黙ってろ!」




奴がそれを言い終わらないうちにバイクは教会の扉を突き破っていた。

無免許運転、ダメ絶対



センチメンタルで鬱屈して、それでいて幻想的で優しい世界観にしたかったのに、そういえば第一章から治安最悪バイオレンスになってたことをここでお詫び申し上げます

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