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第5話 海神の船!?沈め!

完全に日は沈み、闇夜に静寂が訪れる。

はずなのだろう。


何かが遠くで爆発したような音が聞こえる。

海面が揺れ動く。

また海の向こうに細い光が見えた気がする。


「来ましたか」

「来ましたかじゃないわよ。さっきまでいなかったじゃない、船なんて」

「あれが海神リガルタの軍勢です」

そう言うなりエズは宝珠(マニ)を手にして立ち上がり、爆発音の方向を凝視する。



「私を直接狙いに来たつもりでしょうねあの愚か者は。無駄です」

エズがそう吐き捨てるのと同時にマニが光る。

巨大な影が海と反対側から飛来する。

暗いが、その質量を推し量るには十分な程の風が私達の座るソファーにまで届いて来る。


あれは飛竜だ。昼間に空を飛び回っていたものとはまるでサイズが違う。

人なんて丸呑みにできるくらい大きい。この屋敷も大きいが、その三倍くらいは大きいんじゃないか。


その巨大な飛竜が海に向かって光線を吐くと、真っ暗な海面が一瞬白く光って盛り上がる。

座っている場所が、屋敷ががたがた揺れている。視界に僅かにに入っている遠くの光が点滅したような気がした。

間違いなくエズがマニを通して飛竜を操っているのだが、こちらのことなどまるで配慮していない。ただ相手を排除することだけを考えているようなその眼光は、海だけに向いている。



「何なのよ本当に……」

突然もてなされたと思えば心底どうでもいい争いに巻き込まれている。不愉快にも程がある。

私はバノンと一緒に、誰もいない静かで綺麗なところで一生を終えたいだけなのに。ふかふかのソファーに座っているとバランスが取りづらい。立ち上がり、姿勢を低くしながらバノンの腕に絡み付く。

「私から離れないでねバノン」

「わかったよミウ」




どうやら飛竜以外にも小規模な艦隊が存在しているらしい。何が漁で生計だ、牧歌的な風に語っているけれど戦う気まんまんじゃないか。とんだ詐欺師だなエズとかいう神は。

海のあちらこちらで魚雷が爆発しているようで、その度に水面が揺れている。しかし一つも命中しているようには思えない程度の振動だ。



ふと、飛竜に接近する影が見えた。

急に現れたように見えるそれは、しかし急に現れるような物ではない。船だ。遠くに見えていたはずの船が、急に飛竜の前に現れたことへの驚きで、暫し呆気に取られた。

かなりの質量があるそれは飛竜に真っ向からぶつかっていった。


こちらまでその衝撃が届き、私とバノンは桟橋の方まで投げ出される。

なんてことだ。夜の海に投げ出されなかっただけ良かったとでも思われているのだろうか。いや、きっとエズは何も考えていないに違いない。身内でもない死にたがりの命なんかきっとどうでもいいんだろう。私だってエズのことなんかどうでもいい。

そして、近くにいる船に乗っている神だってどうでもいい。



不意に頭上から声が響く。


「へえ、エズのクソ野郎以外にも神がいるなんてな。戦力増強ってやつか?その割にはチンケなガキしかいねえみたいだが」

顔を上げると、屋敷の灯りに照らされて船の主の姿が朧気に見える。



「俺はリガルタ。死者の船(ナグルファル)の所有者だ」

「興味ないわ」

「そうツンケンすんなよ嬢ちゃん。反抗期か?年上の言うことは聞いとくもんだぜ」


半裸で筋骨隆々といった佇まいの成人男性の表情はよく見えないが、豪快に笑っていながらもその声に侮蔑や揶揄の色が滲んでいるのがわかる。



「同じ神同士仲良くしようぜ。何なら嬢ちゃんも乗って行っても良いんだぜ?資源をまるまる独り占めしては増やす努力もせず狭い村で食い潰してるようなエズの野郎より、俺の方が断然生産的さ。ガキでも飯炊きくらいならできんだろ、ほらよ」



そうリガルタが言うと、今までそんなものなかったはずなのに甲板に続く梯子が目の前に伸びてきた。


「馬鹿にしないで。私は他の神の玩具になるためにここに来たわけじゃない」

それを無視して、私はエズの屋敷まで戻ろうとした。もちろんバノンの手を引いて。



手が空を切った。

そこにいるはずの存在に触れられない。

振り返るが桟橋のどこにもバノンの姿がない。



「ミウ、ここだよ」

頭上から聞き慣れた声が聞こえる。

甲板の上で、リガルタの部下らしき複数の人にバノンが拘束されている。

「捕まっちゃった」

「俺を無視して楽しくのんびり逃避行なんて、世の中そんなに甘くねえんだよ!こいつもなかなか良いもん持ってんじゃねえか。もらってくぜ!」

「バノン!!」



下卑たリガルタの笑み。雑に撫で回されるバノンの肩や顎。

なされるがままのバノンを見ていると、かっと顔が熱くなる。身体中の血液が沸騰するようだ。

「離しなさい!離せ!」


いつの間にか梯子がなくなっている。この船は所有物(ポゼッション)だ、リガルタの思うままに操れるのだろう。



この状況じゃ分が悪い。なんとかして船上に乗り込まないと。でも、私の身長の数倍の高さに位置している甲板に、どうやって?

バノンが、私のバノンがわけのわからない連中に囚われているのに!!



「待ちなさい!」

エズの怒声が聞こえる。

飛竜がまた光線を吐き出すと、ナグルファルは避けきれず大きく揺れている。


「バノン!バノン!」

「またな!」



被弾したナグルファルは、次弾を浴びせられる前に、現れた時と同じように突如姿を消した。

私の伸ばす手がまた空を切る。

消える瞬間、バノンが微笑みを絶やさずに私に向かってこう言ったように聞こえた。



「待ってるから、ミウ」

バノン!バノン!どこいくの!




いなくなっちゃった。

私の結婚相手が。

私と一緒に死んでくれるはずの存在が。

暗い海を見渡してもどこにもバノンの存在が感じられない。


その場にへたり込む私の背後からエズの声がする。

「あの野蛮な神を私は許せません」

「あなたが巻き込んだんじゃない……!」

「彼等は必ずまた来ます」



焼けるように身体が熱い。手先が震えているのが自分でもわかる。それでもきっと私の表情は変わっていないはずだ。

変わっていないはずの目で、エズを睨む。

エズと目が合うが、彼は私の顔など見てもいないかのように淡々と言葉を続ける。

マニは役目を終えたようで、再び静まり返っている。



「協力していただけますか」

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