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第31話 百花繚乱?私の妻の方が綺麗よ

百合やら薔薇やら、世の中可愛いお花はいっぱいありますね。



「ああ~!緊張する!」

「気楽にやればいいじゃん、まだ始まったばっかりなんだから」

「こーらっ!いつまでうわっついたこと言ってるの!もうすぐ始まるよ?ちゃんとしなきゃ!」

「あーあ、また怒らせた~」

「ずーっと憧れてたからってテンション上げすぎよぉ、真面目ちゃん」

「二人だって夢だったんでしょ!?こういうのは最初が肝心なんだよ、わかってる?」

「はぁ~い、ああ緊張する……おうち帰りたい……」

「見習いの下っ端なんだから適当にパシられてたら二、三年くらい終わるって!肩の力抜いてこ!」

「こらー!今日からあたし達、みんなを守る騎士なんだからね!」

「ずーっと大好きなあの人みたいに?」

「っていうかあそこいるじゃん、あの人。声かけてきなよ」

「ぜぜぜゼクスレーゼ様!?きゃあっなんでこんなところに!?まだそんな時間じゃないのにやだ!敬礼しなきゃ、どうやるんだっけ?あんた達ももっとちゃんとしてよ!」











少し離れたところで、私と歳の変わらなさそうな女の子達がきゃあきゃあ騒いでる。鎧を着てるみたいだけど隊列を組んでるわけでもないし好き勝手喋ってるし姿勢もゆるゆるだし隙だらけだし、とても軍属とは思えない。




「諸君」






彼女達の方を見向きもせず、私と対峙したままゼクスレーゼが声を出す。

叫んでいるわけではないが豊かな声量は彼女達にも十分届いたようで、びくっと身体を震わせている。



「騎士たるもの、常に清く正しく謹み深くいたまえ」



「は、はい!」



姿勢を素人なりにぴんと正して声を張り上げ、彼女達は返事をする。

そのままゼクスレーゼは私を、教会のすぐ横にありながらも、本体より少し質素な外装の建物に案内してきた。



「ミウ様、お見苦しいところをお見せしてすみません。毎年この時期に入隊式があるんですよ、それで今ばたばたしてて」

「騎士団の見習いが増えたってこと?道理で軍人っぽさの欠片もない連中ばっかりなのね」

「お恥ずかしい限りです」






本来ならもっと丁重におもてなしすべきなのですがとかなんとかゼクスレーゼが言いながら、建物の玄関のロビーの椅子を引いた。なんか白くて細っこくて円くて変な植物っぽい模様のテーブルにつけられてる、同じく細っこくて変な模様の椅子にしては安定感あるじゃない。

騎士が持ってきた飲み物は赤みがかってて、甘酸っぱい香りがする。入れ物も白くて丸みがかってるけど、これも細っこい割には丈夫そうだわ。

私の好みではないけど、センスは悪くないんじゃない?

人にものを勧める態度もフロアほどは嫌味じゃないしね。





それより、この建物。

内装もなんとなく白っぽくて清潔には保たれているけど、ところどころ床に落ちない汚れや傷が見える。

壁には槍や斧が立て掛けてあり、奥の方では騎士達が慌ただしくも秩序立った様子で動き回っている。


「ここは騎士団の建物なのね」

「最初に詰所にご案内するのも失礼かと存じますが、生憎大聖堂は本日休館日でして」

「そういう挨拶は良いのよ、あなたたち何?どこの神の回し者?ここで何してるの?キエルはどこ?」

「随分とお急ぎのようですね、私は逃げも隠れもしませんのでちゃんと全部お答えしますよ」


そう言うとゼクスレーゼはにかっと歯を見せて笑った。

豪胆さと明朗さを全面に出すようなその表情や声色自体に悪い感情は持たない。簡単に纏められた黒いウェーブがかった髪も、切れ長の目も、飾り気がないことが逆に清潔感を醸し出すのに一役買っている。胸元の薔薇の紋章が唯一華やかさを誇っている部分だ。

けどこいつキエルを堂々とさらった三人のうちの一人なのよね。しかも私に静かにしろとか指図してきたし。嫌いではないけど腹立つし、隙があれば殴りたいけど、近付いても全然隙がないのよねこいつ。





「私も回りくどいのは苦手なので単刀直入に申し上げますね。我々アレイルスェン教会の目指すところは、人が永遠の平和と安寧を享受できる世界を維持することなんですよ」

「人の社会や宗教については口出さないわ。聞いたって興味の具合が変わることもないし。それよりも気になるのは」

聖遺物(レリック)……いえ、所有物(ポゼッション)のことですね?」

「わかってるなら最初からその話をしなさいよ、どこが単刀直入なの」



神が死んでいないのに、神以外がその所有物を持って、しかも使っているのはおかしいのよ。

神が自分の死に様を演出するために持たせることもあるでしょうけど、日常的に使用するようなそんな便利グッズではないわ。

普通のNPCである「人」みたいな(リソース)が足りない奴なんか、「所有物」どころか、威力が落ちた「(聖)遺物」であっても普段使いは身体に負担がかかりすぎてわざわざ手を出さないはずよ。



でも。




「我々の持っているものはすべてマセリア様から賜ったものです、この槍もマントも鎧もすべて」

「溜めた割には結構あっさり吐くのね。マセリア?それがあんた達の黒幕?」

「ええ。大変失礼ながら、マセリア様の許可なしにこれらを詳しく解説することはできませんが……」

「効果については今はいいわ。あなたが持ってるのはそのなんかすごいマント、すごく大量生産してる鎧、そんでもってめちゃくちゃ強い槍でしょ?説明する気がないなら掘り返しても無駄だもの。変に嘘とかで撹乱されるよりは言われない方がマシよ。それより、どうして?」

「なぜ私が『人』でありながら三つの所有物を日常的に使い続けられているのか、ですね」

「はっきり言うわ。あなた子孫ですらないでしょ?でもその所有物、どれもバリッバリに存在感出してきてるじゃない。あなた今すぐ爆散してもおかしくないわ」

「……それはですね……」

「それは?」




「根性ですね!!」



ふざけてんのかこいつは。

Dreaming world がそういう設定なんだから、根性でなんとかなるわけないじゃない。

そんな滅茶苦茶なこと恥ずかしげもなく言っておいて、こいつは背筋を伸ばしたまま赤い飲み物を香りも含めて楽しんでいる。


腹立つ!!!




「どんだけ所有物使えたって、神に喧嘩売ってただで済むと思わないことね……」

「いいえこれがですね、本当なんですよ。私はマレグリット様達のような特別な存在ではありませんから」

「そうそう、マレグリット教祖。それに『達』って言ったわね」

「もうさっきお目にかかったと思いますが」

「お目にかかってないわよ。……そいつは私のこと見下ろしてたみたいだけどね、あれ何?暗殺者とかそういうやつ?」

「あれはあまり表に出られる立場ではありませんので気配だけの登場をお楽しみください」

「いや私にはそいつがいるかいないかはモロバレなのよ、それなら潔く留守番でもさせときなさいよ。楽しさとか一切ないわよ」

「あはは」

「何笑ってるのよ。あいつらも何なのよ」

「マレグリット様はまさしく『特別』。マセリア様から永遠の命を与えられた方です」

「どういうことよ」

「そのままの意味ですよ」

「マセリアの力で生かされてるってこと?どうやって?」

「マセリア様は神ですから」





駄目だ。

マレグリット教祖、正体不明の暗殺者、マセリアとかいう意味不明な神。

それよりはちゃんと会話できそうな相手を捕まえられたかと思ったけど、掘れば掘るほど謎が増えていく。

マレグリットみたいな電波ではないけど、言わないと決めたことは絶対に言わない。そんな強い意志が余裕ありげな態度の奥から滲み出ている。



少なくとも、マセリアやマレグリットについての情報をこいつは吐くつもりがない。



「で?キエルはどこよ。あの子血筋はご立派みたいだけど、脳筋だし泣き虫だしめんどくさいわよ。側に置いといても苦労しかしないからとっとと解放しなさい」

「それはできません。彼女には我々の、いえ、人々のために果たしていただかなければならない役目がありますので」

「……あの子があなた達の言うこと聞くかしら?」

「いずれご理解いただけます、ご自身のお立場を」

「何をさせるつもり?」

「歌姫になっていただくだけです」

「やめなさい」

「できません」

「どこよ」

「申し上げられません」



駄目。この話題もこれ以上引き出せない。



「……あなた達が私に何か求めていることはある?」

「いいえ。ですがここには神々がお求めになるもの全てがございます。いずれその時が訪れたら、ミウ様とマセリア様の念願は共に果たされることでしょう」

「どういうことよ」

「マセリア様はあなたの味方です」

「知らないわよそんな奴。殴りたさしかないわよ」

「マセリア様が望まれたら必ず我々があなたを迎えに参ります」

「今は要らない、来るなってことね。私は殺意しかないけどね!会わせなさいよ」

「それはできません」

「あなたそればっかりね」

「宿の手配ならこちらで致しますよ」

「結構よ。もう本当に帰るわ、あなたと話してても得るものなんかないことがわかった。それに」

「それに?」

「……なんでもないわ。失礼したわね。あなたがね!!」




口もつけてないすっかり冷めた飲み物を置き去りにして、すっくと立ち上がって建物を出る。ゼクスレーゼどころか騎士が追い掛けてくる気配もない。なんなのここは。セキュリティとかないの?それとも。


ラウフデルの中は掌の上?




……そう思ってるのなら覚えてなさいよ。私にだって意地ってものがあるんだからね、いつまでもはぐらかせると思わないで。











ある兵舎の裏側に回ると、三人の騎士見習いの少女達がまたきゃあきゃあ喋っていた。さっき注意されてたのになんでこんなによく喋るのかしら?

キエルもやかましかったけどこいつら歌いもしないのにピーチクパーチク鳥か何かなのかしら。



「それでね、ゼクスレーゼ様に憧れてこの子ったら、騎士になるんだーって」

「あんただって似たようなものじゃない!ていうか百人以上もいる見習いみんなそうでしょ?」

「それどころか数千人いる騎士達の中で、団長のこと好きじゃない奴なんかいないって~。強くてかっこよくて部下想いってみんな言ってるし」


「じゃあみんなはゼクスレーゼ騎士団長みたいになりたいの?」



その話の輪の中に、太陽に愛されたような肌色の少女がいた。どんなに輝く鎧の少女達に囲まれたって、あなたが一番光り輝いてるわ。



「もちろん!人々を守り悪をくじく正義の騎士だもの!」

「それに凛としてて綺麗よね、この銀色の輝く鎧と私みたいな美少女、そういうギャップに男はイチコロなのよ」

「でた~モテることと美容しか考えてない奴~!」

「あんただって寝ること以外考えてるわけ?」

「だって~騎士って待遇良いんでしょ~?おかーさんもフクリコーセーしっかりしてる仕事だし安心って言ってたよ~」


「でも騎士って危ないんじゃない?」


「危なくないわよ、ラウフデルに暴漢なんて滅多に出ないし。それにみんなみーんなゼクスレーゼ騎士団長がやっつけちゃうんだから!」

「そうそう、私達はきれいな鎧着て見回りして見回りして昼寝してたら一日終わるよ~」

「任務中に昼寝するつもりなのあんた!?」


「女の子達みんなの憧れの仕事なんだね、騎士って」


「もちろん!やりがいのある仕事だよ!」

「ラウフデルの花形よ、あなたも試験受けてみたらどう?肌も髪もここじゃ珍しい色だけど、結構かわいいし受かるんじゃない?」

「ね~、あんず色の服も素敵~。この裾のところどうなってるの?どこで買ったの~?」




ああもう、そこまでよ。




「バノン、帰るわよ」

「あっミウ、お疲れ様。どうだった?」




笑顔で振り返るバノンに、少女達が声を掛ける。


「えーもう帰っちゃうのー?私達まだ時間あるよー?」

「今度いつ来る~?」

「もうっそろそろ準備しなきゃ!」



仕方ないわね。





バノンの肩を掴んで私の方に引き寄せ、唇を重ねる。



しばらくして少し息苦しそうに「ん……」と声を漏らすバノンの頭の後ろに手を回し、もっと強く引き寄せて身体も密着させる。

行き場がなく宙を彷徨っていた彼女の腕が私の腰に回され、体重が少しずつ伝わってくる。

息に余裕がなくなってきて、その腕の力が縋るように強くなり、彼女の膝から力が抜けていってることに気付く。



そろそろ解放してあげても良いかしら。



唇を離してすぐ見るバノンの表情はいつもと変わらないけど、いつもより少しだけ赤らんだ頬を見られて満足した。




「と、いうことだから。私の妻がお世話しました」

「ばいばーい」




そのまま私はバノンの肩を抱いて、ギラギラの成金新聞社の方に戻って行った。

バノンは後ろに向かってひらひら手を振っていた。お姫様みたいで可愛いわね、私のお姫様。





「なんか怒ってる?ミウ」

「ううん。ただ……」

「ただ?」

「私以外の女の子とあんなに楽しそうに……」

「……ミウってさ」

「ええそうよ、やきもちなんかみっともないのはわかってるのよ!」

「みっともなくないよ」

「ほんと?」

「ほんと」

「バノン好き!!!」

「うんうん」






遠く背後から少女達の声が微かに聞こえたけど、特に興味はない。


「すごいもん見ちゃったね……」

「すごかったしエグかった……」

「『お世話になりました』じゃないんだ……」












一方その頃、アレイルスェン教会の小部屋にて。




マセリアは忙しそうにさっさと退室していき、妖精のような羽根を持つ少女と、すみれ色の髪の少年が二人きりにされていた。




「ふーんあなたミラディスっていうんですね。変な服着てますね!」

「おねーさんこそ変な髪の色してるね、どうぞよろしく……ハァ」

「初対面なのにためいきつかれた……なんなんですかこの子~!」

「ため息つきたくもなるよ……愛しの兄さんとも可愛いレトとも引き離された挙げ句、何日も船に乗せられて……地獄……ウッ……」

「えっもしかして吐くんですか~!?この部屋ではやめてください!トイレ行ってください!あとレトってだれ!?」

「しかもなんかこんな肩とか足首とか出て襟とかツンツンしたスケベな黒い服着せられて……おじーちゃんの服のセンスやばくない?みんなの家でもこうなの?」

「いや知りませんけど……」

「しかも知らない人護衛しろとかなんなの?しかもまた緑髪の女の子か……ハァ……」

「人のかみのけの色に文句つけないでください!」

「あーやだな……ほんっとやだ……」

「さっきからなんなんですかあなたは!」

「僕、レト以外の女の子とか嫌いなんだよね。うるさいし乱暴だし兄さんに色目使うし」

「さっきからレトとか兄さんとかほんとにだれなんですか……」












そのちょっと後、ハーフラビット社への帰路にて。




私とバノンはお互い得た情報について話していた。



「ミウ、たくさん話聞けた?」

「まあまあね。バノンの方こそ」

「俺の方はさっき言った通りだよ」

「……うん。やっぱりそうね」

「キエルがさらわれた理由だね」

「ええ。……あいつら、この街を本格的に洗脳対象にする気なんだわ」

長年会ってなかった祖父がノリノリで買ってきた変な服、あなたならどうしますか!?





後編のあとがきを一部変更しました。

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