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第30話 私の人生こんなんばっか

これからまた視点が主人公に戻ります。






ウワーー死にたい!!!


ほんっっと死にたい!!!



なんなのよ!なんなのよ!本当になんだっていうのよ!!



私は神よ!?こんなにもルールに忠実で無害な神よ!?


なんだってこんな辱めを受けなきゃいけないのよーー!!!




「ミウ、そろそろクッション破れるよ」

「バノン……こんなのって……こんなのってないわ!そう思わない?」




結局私達はフロアと、殺された記者の遺体と一緒にハーフラビット社に戻ってきたわけだけど。


再びきらきらした客間に通されて、冷っ静~に今日起こったことを振り返って、死ぬほど腹立つなこの状況……って、ふつふつと怒りがわいてきた。



わけわかんない連中が徒党を組んで私とバノンの愛の楽園ハネムーンを妨害してくるなんて!別に私が死のうがあいつらに何の影響もないでしょうが!っていうかもうとっとと死なせてほしい!

それがなんで、元の世界みたいに武力や火力であれこれやらなくちゃいけないのよ!殺意がマッハでたまるわ!!



Dreaming world の運営出てこい!仕事しろ!詫び死に場所配れ!




「ミウ、頑張ったね」

「ありがとうバノン、午後もやっぱり最高に可愛い……。でも私なんにもやってないしなんにもできてないわ……もう嫌……」



あの時バノンに促されて夢鏡(プリズム•ドリーム)に語りかけてみたは良いものの、ちょっと光るだけで何も起こらなかった。

こんなのただの飾りのついた鏡じゃない。何の役に立つって言うのよ、セルシオル絶対許さない!

許さないって言ってもあいつ私より先にのうのうと死んだんだった。腹立つ!殺したの私だけど。




「バノン……私どうすればいいのかしら」

「ミウ、言ってなかったっけ?」

「キエルを助けるって?ええ言ったわ、言ったけど。そうしなきゃ気が済まないのも事実だけど。だけど……」




シンプルに死にたい。

全てを投げ出したい。

ぶっちゃけ解決策とかない。



今までの敵はなんやかんや戦い慣れてないというか、まともな実戦経験がなさそうな奴ばっかで後頭部がガラ空きだったから撲殺できた。

いやキエルは余裕じゃなかったし殺してもいないけど、とりあえず頭にダメージを与えて沈静化したのは事実よ。



だけどあんな殺気とか戦場慣れのオーラとか出されたら、狙えるものも狙えないわ。下手したら私が返り討ちにされる。

悔しい。私は神なのに!












「はい神様リラックスリラックス。ストレスはお肌に悪いからねお嬢さん、ほらカモミールティー飲んで」



フロアがポットに入った飲み物を持ってきた。社員が殺されててんやわんやしてるし、目元の隈はより一層濃くなってる。口調も心なしかいつもより雑だ。

別に私達に構わなくて良いのに。



「僕もう今日は君達の面倒見てあげられないけど泊めたげるから。昨日使った部屋でいいよね、好きに過ごしてて。飲んだら適当に置いといて、社員が片付けに来るから。ゆっくりしていってね!」






そのままばたばたとフロアは去っていった。

割と偉いみたいだし、この程度の用なら部下にでも任せておいたら良いのに。


「フロアもだね」

バノンが話し掛けてくる。



「何が『も』なの?」

「『こんなのはもう嫌』だって」

「そんなこと言ってたかしら?」

「言葉の話をしているんじゃないよ」




バノンの笑みはいつもと変わらない。

ただ穏やかに私の隣にいて、私の顔を見つめている。




「……助けを求めてるってこと?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもね」

「バノン、私は人の望みを何でも叶えてあげられるって意味の神じゃないわ」

「そんな神いないね」

「……ええ。そんな神は Dreaming world にはいない。神が叶える望みは神自身の理想の死に方だけよ」

「うん」

「……だから、私は私のやりたいようにやるわ」

「うん」







そうだ、私のやることは今までと変わらない。

邪魔者を粉砕して行きたい場所まで行く。手段とか後で考えたら良い。




「バノン、行くわよ」

「わかったよミウ」



バノンの手を引いて、ハーフラビット社を出て行く。

苛々するほどに暢気な午後の光を浴びながら、ラウフデルの大通りのど真ん中を北に向かって進んでいく。





教祖が何よ。騎士団長が何よ。暗殺者っぽい謎の人が何よ。


要はそこにいる神をブッ潰せばいいんでしょ。簡単な話だ。

邪魔は入るだろうけど、大丈夫。この手から伝わってくる温もりがあれば私は無敵だもの。






そうして、私達は大きな橋を渡り、この街で一番巨大な建造物の前まで来た。

アレイルスェン教会。

巨大にして豪奢、堅牢にして優美。

白亜の城と呼ばれてもおかしくないくらいに豪華絢爛でありながら、宗教っぽい意味不明なモチーフが意味ありげに、それっぽくあちこちにあしらわれている。


広大な敷地内にずらりと建物が並んでいて、その周りを銀色の鎧を身に着けた騎士達が隊列をなして見回っている。



「それっぽいわね……」

「それっぽいんだね」

「それっぽいけどよくわからないし正面から行くわ」

「わかったよミウ」




特に橋の前に門などもなく、ひたすら豪華で周りがちょっと厳ついだけの教会という印象だ。

正面扉の前まで着くと、司祭らしき人に呼び止められる。



「ようこそおいでくださいました。ミサへの参列をご希望の方ですか?」

「私は神よ。神に会いに来たわ。出しなさい」

「ご面会の予約ですね。それではあちらの名簿にお名前をご記入ください」

「今出しなさいよ」

「申し訳ありませんが教祖様のご予定は今日はもう埋まっておりまして」

「教祖じゃなくて神を出しなさいって言ってるのよ」

「教祖様は神様と通じるお方です。ご心配なく。さあこちらにご希望の日付と時間をどうぞ」

「……これ、一ヶ月先まで埋まってるじゃないの!」

「なにぶんご多忙なもので……申し訳ございません」

「私、神よ?人は神を何より優先するんじゃないの?」

「教会はどなたに対しても平等に恵みを保証いたします」



なんだか会話が噛み合わない。肩透かしをくらいまくって、もだもだする。

というか神である私にこの扱いってほんとバグとしか思えない。



「もう!神でも教祖でもなくてもいいから話わかる人いないの?」

「そうですね、ゼクスレーゼ騎士団長でしたら……お待ちください。調整のちまた改めてご連絡差し上げますのでこちらにご住所を」

「そんなのないわよ。もういい、帰るわ」




申し込みとかそういうのって嫌いなのよ。ずっとこの調子なら夜襲でもかけた方がマシだわ。覚えてなさい!


踵を返した瞬間、視界が遮られる。

別に目隠しをされたとかそんなんじゃない。

単純に、すごく眩しい。

銀色の鎧が日光を反射している。



「あれ?さっきの神じゃないですか。何かご用ですか?」

「…………」

「…………」



思わずきょとんとしてしまった。

バノンも何も言わない。


薔薇の紋章、煌めく槍。

先程まで話題に上がっていた人物、その張本人が目の前にいる。


「ゼクスレーゼ……騎士団長……!?」


私に名を呼ばれた彼女は兜を外し、化粧っ気のない笑顔で爽やかに

「はい」

と返事をした。














同じ頃、アレイルスェン教会の小部屋にて。






「えっもうこんな時間ですか!?」


セルシオールの歌姫キエルはベッドから飛び起きる。

うさんくさい大人達に連れ去られたのに、疲れ果てて昼下がりまですやすや眠ってしまうなんて情けない!

しかも都合よく友達が助けてくれる夢なんか見るなんて。


「うう……わたし何やってるんですか……」

今から自分がどういう目に遭うかもよくわからないのに。というか本当に、あの人達は自分のことをどうするつもりなんだろう?



そんなことを悶々と考えていると、突然扉がノックされる。

「ひゃいっ」

思わず声が裏返ってしまって恥ずかしい。急いで髪や服の裾を軽く直す。







「君がキエルだね」

「は、はい……?」

「私はマセリア。この教会に住まわせてもらっている、まあ、言わば神だよ。いきなり呼んで驚かせてしまっただろう、すまないね」

「は、はあ……?」



きらきらと輝く金髪の、端正な顔立ちの成人男性が現れた。

神とは名乗っているが、ミウやセルシオルのような好きな格好をしているというよりは、軽装でありながらもきちんとした軍服に最低限の武具を肩や胸に着けている。

まるで武人のようだとキエルは思った。




「どうしてわたしを……?いつ帰してくれるんですか?」

「君にしかできないことがあるんだ。私達は、いや、人々は君の歌を必要としている。今この世界はかつてない危機に瀕している、君ならわかるだろう?」

「世界が……?」



世界が、滅ぶ。

そのことをキエルは知っていた。

そう言われていたからだけど、そのことと今の状況がどう関係があるのか、彼女にはさっぱりわからなかった。

穏やかに丁寧に、それでいて言いくるめるような調子のマセリアの声に、キエルは必死に心の中で反発していた。




「人々の心から不安を取り除けるのは君だけなんだよ。力を貸してくれないか」

「そんなこと言われても、わたし何も……!」

「大丈夫、危ないことは全部私達に任せて。君は人々のために歌ってくれたらそれで良いんだ。きっとセルスもそれを望んでいる。私にはわかるよ」

「セルス、さまが……」

「そう。詳しいお仕事の内容はまた後で説明するからね、今日はゆっくり休むといい」

「待ってください!わたしは協力するなんて一言も言ってません!」

「本当はずっと私がついていてあげた方が良いんだろうけどね、なかなか忙しくて。でもちゃんと護衛はつけるから安心してくれ。さあおいで」


マセリアがそう言うと、扉の向こうからさらにもう一人誰かが出てきた。





それはすみれ色の髪と大きな黒い剣を持つ中性的な美少年だった。同じくすみれ色だが、生気を失った目をしていた。




「私の孫だよ。歳も近いし仲良くしてやってくれ」




10代の4歳差って結構でかいけど、親戚の大人ってそういうのガバガバに扱うようなとこありますよね。

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