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第27話 魔導士におまかせ!

ヨイテはどこにいるんだろう。

近くにいないことだけはわかる。

彼女は俺とは違う。弓矢しか持ってない普通の人だ。仮に持っていたとしても俺よりずっと小さい。近接戦闘なんか最初から選ぶわけがない。



戦い慣れているとしても、いや戦い慣れているからこそ、俺なんかに構わずに真っ先に隠れられる場所に移動する。そんなこと今更確認しなくても、今までの行動や言動から明白だ。


俺の逃走を援護したりはしない、雑に矢を放つことは位置を特定されることに繋がるから。あれは勝つために最適な手段を取れる人だって、村での戦いでちゃんとわかってる。



だから彼女のことを冷たいとは思わない。どこにいるのか気配すらわからないのは内心ちょっと、いや正直ものすごく心細いけど、俺にすらわかるくらいなら魔物にも余裕で見つかってることになる。そっちの方がたぶん絶対まずい。



だから、これでいい。





俺が完全にこの凶鳥っぽい魔物と、少しだけ開けた着地点で二人きりランデヴーみたいになってるこの位置取りが、たぶんヨイテ的に正解なんだ。





いや。



いやいやいや。





どうしろっていうんだ!






とにかく俺も移動しなきゃいけない。じっとしていたら爪の射程範囲に入ってしまう。

機動力が高い相手だ、障害物がない場所での移動なんかできない。



木々が特に密集している箇所の手前までじわじわ後退する。

相手がこっちに向かってまっすぐ飛んでくる、その瞬間。


雷鎚(トールハンマー)!」


電流を背後に流しながら、木々の中、できるだけ狭い場所を選んで、ちょくちょく角度をつけて逃げる。



これで少しは距離が取れたかな?





振り返った顔の横を爪が掠める。間一髪だ。

木々がめきめきと倒れていく音がする。

その体躯と機動力の前では、障害物が障害になってない。

さっきのように羽ばたいているのではなく、両の翼をいっぱいに広げて悠々と滑空している魔物に、細かったり腐りかけていたりする木は次々になぎ倒されていく。



しかも常に浮いている上に、上下左右自在に動ける。

めちゃくちゃ感電させにくい!




「わー!雷鎚(トールハンマー)!」


とりあえず風圧で少しだけ速度は鈍らせられるようだ。

それにしても完全にフィールドを見誤ったんじゃないか、俺!?着地した時点で一撃でかいの食らわせるべきだったのでは!?こんなところで移動しながら回路を組まずに雑な威力と雑な方向の電流なんかそんなの、俺の逃げ道もヨイテの隠れ場所もしっちゃかめっちゃかになる!




そういや動物って炎怖がるよな!

いやいやいや論外だ、俺らがバーベキューになる!



もうだめだ頭パーンってなりそうだ……。

とりあえず風!なんとしてでも風起こそう、風!

正直風起こすのめちゃくちゃ難しいけど、風ならまあまあ今の俺には安全だから!



……でも風を起こすってことは弓矢での援護の可能性を完全に捨てるってことなんだよなあ。




いやこれキッッツ!!ほんとにキツいぞ!今俺めっちゃ頑張って走って逃げてるけどこれ例えば崖とか行き止まりとかだと俺が詰むじゃん!こんな何の目印もないところ走ってたら地形の把握どころじゃないし!




正攻法じゃ勝てないけど罠を仕掛ける暇もないなんてそんな……!



打つ手を考えるも、何も思い浮かばないし。

次にどの方向に逃げようか、判断を誤ったら死ぬのにどうしたらいいのかわからなくて適当に逃げてるし。

首がカクッと回ってはギョロギョロした目で捉えられるのもすっごい怖い。

えっこれほんとどうしよう?

弱点とかないのかな……。





畑が害鳥に荒らされた時はどうしてたっけ……。

案山子とか作ってたよな、ミラとレトと三人で。

ミラは器用だから人そっくりに見た目を整えられるけど、変な服すぐ着せようとするからレトに「はずかしいからやめてよ!」って怒られてたよな……。

あっやばい現実から意識が逸れた。





気付いたら、爪が目の前まで迫ってた。



やられる!






そう思った瞬間、魔物が後ろに仰け反った。


目からややずれた、眉間の辺りに矢が刺さっている。一瞬魔物の動きが止まる。そこにまた数発、矢が叩き込まれる。


「ギャアア!!」


一本は片目を貫いた。


しかし威力が不足しているのか、目から血を流しながらもまた体勢を立て直される。でもこちらも間合いの外に出るには十分な時間だった。






しかし、負傷したことで魔物は完全に興奮してしまっている。それに俺が難を逃れるということは。とどめもさせないのに矢を放ったということは。





俺にも見える、木の上に待機していた彼女めがけて魔物の前肢が伸ばされる光景が。



「ヨイテ!」




攻撃を避けることはできたが足を踏み外して、そのまま後ろ向きに落下してくる。




雷鎚(トールハンマー)!」


咄嗟に風を起こし、魔物を足止めしながらヨイテを受け止める。



弓が俺の額に激突する。

「いって!」

「下手くそか」

「いやいやいや!」




助けたのに!いや先に助けられたのは俺だけど!

ていうか今の落下すら俺に受け止められること前提だったかもしれないけどさ!


って、そんなこと言ってる場合じゃないんだった。




また魔物がこっち見てるし飛んで来る!しかもなんか速くなってるし、なりふり構わなくなってる!




雷もだめ火もだめ風も矢も力不足ってもうこれどうしたらいいんだよ!走っても走っても終わりが見えない!



並走してるヨイテが話しかけてくる。

「紫ひよこ野郎、集中しろ」

「いや何に!?」

「お前の言う、夢に」

「は?」

「『雷鎚(トールハンマー)であいつを倒す』結果をイメージするんだ。多少無理矢理でも繋がるかもしれない」

「そんなこと言われても!」




鳥を倒すなんて地に落とす以外なくないか!?そりゃあ飛べなくなってピクピクしてたらすぐ倒せる、そんな子供みたいなイメージくらいなら持てる!

でもこんなに風の威力も足りないのに、羽根をもいだりなんかできない!



どうしよう、このままだと死ぬ。

俺が、ヨイテが。




ヨイテが危険に晒される。


俺が背後の木を黒焦げにした時みたいに。






……背後の木を、黒焦げにした時。







俺は何をしていた?





その後もこんな風に魔物と戦ってて。




「鳥の飛び方を覚えておけ」




そう言われたんだった。






その前に何か、大事なことを説明されていたような……。




「お前の魔法の性質は電子を移動させることなのかもしれない」

「今思えば難易度を高くしすぎた」

「電気って何?からでなくてよかった」




なんだろう。何か、何かわからないけどすごく大事な気がする。





「ぼさっとするな!来る!」


気付いたら、目の前に魔物が迫っていた。今、やるしかない!




雷鎚(トールハンマー)!!」










次の瞬間。










何も、起こらなかった。










光も、熱も、轟音も、何も。








ひとつ違うのは、魔物が地に墜落してぴくぴくともがいていることだけ。


「……え?」

「…………なるほど」

「えっ何これヨイテ」

「とどめをさせ。矢では脳まで届かない」


なんかヨイテはものすごく納得したみたいな顔をしている。

俺は全く納得してないのに。



動かなくなってしまえば驚くほど簡単に感電させることができ、魔物は絶命した。

その瞬間、負傷していない方の目で睨まれた気がした。


憎悪、なのだろうか。


そういう感情が魔物にあるのかはわからないけど、そう感じられてしまって背筋が冷たくなった。





「…………あのさ、今のって」

「鳥が飛べるのは、大地の磁場を感知できるからという説がある」

「……俺が地面を磁石にした、的な……?」

「そうなのかもしれない。電子の向きを変えられるなら可能なんじゃないか?」

「かもしれないってことは、こうなることわからずに戦ってたってことか!?」


流石にちょっと焦る。ヨイテって計画立ててやってるのか行き当たりばったりなのかよくわからない。



「いや」

淡々とした声で答が返ってくる。

「こうなることはわかっていた」

「ん?」

「お前がどうするかはわからなかったが、こういう結果になることはわかっていた」

「……予知能力とか、もしかしてそういうのあったりする?」

「そんなわけあるか。私はお前より強くて、お前より常に先手を取っている。それだけだ」




それってさっき落ちて受け止められた人が言うことなんだろうか。

でも、つまりはそれって。

「俺のこと信じててくれたってこと……?」

「知るか。戦闘中に呆けていたことを反省しろ」




辛辣。


肩にかかるかかからないかくらいの長さの緑髪をかき上げ、ヨイテはさっさと立ち去ろうとする。



「いや待ってくださいさっき打ったデコが痛いんだって」

「お前の受け止め方が悪いんだ」

「理不尽!」





気付けばもう夕方になっている。六日目が終わろうとしていた。

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